1.車椅子の少年の記録
事故に遭って数日後。
車椅子生活を送る、僕に友達たちは気にせず話しかけてくれるし、一緒に遊んでくれた。
──長く生きた。
いつの間にか…西城学園を彷徨っていた。
気づけば『僕』はあの頃の姿のまま『車椅子の少年』としていた。
七不思議の仲間たちができて、穏やかに仲良く過ごした日々があった。
──ある時マガツヒが広まり、感染した。
…待て。
……なあ、待ってくれ。
僕の記憶。
ダメだ。
僕の怒りすら、忘れてしまったら…。
あの子のことを──
──僕の代わりに死んでしまった、
あの小さな女の子のことを、誰が。
誰が覚えているんだ。
この理不尽な怒りを!
誰が覚えているんだ!
──あれ………名前、なんだったけ…
ああ、まずい…!
ダメだ、ダメだダメだ!
ダメだ
記憶が…
……
…
ポーン、ポーン。
…今日も生贄が来た。黒い髪に青い目、眼鏡をかけた男の子。
なんらかの気配を纏った不思議な少年だ。
「初めまして、お兄さん」
声をかければ驚く顔。
何度、ここに来る人間を見てきただろう。
ねえ、お兄さん。
僕の足を返してくれよ!
なあ!!
ああそんな顔をしないで、僕は怒ってない。
……怒ってない?
そうだ、怒ってない。ただそれがほしいんだ。
……なんだ、これは。
なんでこんなに、イライラするんだ…。
────くれよ、足を。僕に。
返してくれよ、あの時、走れてた足を
きっと、僕はそれを求めている。
この日々にいつか終止符が打たれると信じる。
2.音楽室の妖精さんの記録
「お姉ちゃん」
「なぁに?」
「私が音楽弾いて、歌うから、お姉ちゃんは踊ってね」
「まぁ、私が踊るの?」
「お姉ちゃんの踊りを見るの、私大好きなの」
妹の笑う顔に、私は妹を抱きしめる。
じゃあ、踊るわよ。
アン・デュウ・トロワ 足を踏み出す。
ティル・ナ・ノーグ──妖精の国。今では緑高と呼ばれている国にて戦争が起こった。
私に弾が飛んでくる。目の前に妹がいた。
待って、やめて!!
手を伸ばす。
妹は泣きながら笑う。
「──お姉ちゃん、生きて。
「……私の分まで、踊って」
……気づけば、私は『音楽室の妖精さん』としてそこにいた。
…どうしてここにいるのかしら…私は、あの子のことを…メロディを、置いて生きてしまった。
"まぁ!番人さん、私と一緒にクルクルしてくれるの?"
『お嬢さんの仰せのままに、俺は観客でありエンターテイナーだからリードくらいできますよ』
"うふふ、楽しいわ!"
七不思議の人たちは本当に優しい人ばかりだった。
楽しい、楽しい日々よ。
でもある時、|あの子《鏡》が感染しちゃったの。そしたらみんな連鎖した。
"いやよ、いや。私は、まだ!"
"メロディのことを…!"
この|妹との思い出《記憶》を手放したくないのに。
3.図書室の番人の記録
本を読むのが好きだった。
その文章には他人の生き様を感じる、価値観が見えたから。
『ねえ知ってる?図書館には禁書があるんだって!』
噂を聞いた。
開いたら人生が取り込まれる本があると。
なんだそれ、なんだそれ!
なんて面白そうなんだ!
見なければ見なければ、見なければ!
図書館に入ってすぐ、ソレはあった。
黒い本に赤い文字で、何かが書かれてる。
読めない文字。
震える手で読んだ。
──ああ!
人生…
人生!
人生人生人生人生人生!!!!!
俺は、俺は俺は俺は俺は俺は!!
狂いに狂った。
自分の顔がわからなくなるくらいに。
自分の首が消えるくらいに。
読んで、見て、この世の全てを知ったんだ!!
──気づけば『番人』として立っていた。
七不思議の仲間たちは楽しい奴らしかいなかった。特に車椅子の少年!面白いやつだ!
……感染したらしい。
記録で読んだ!本で読んだ!
これが!マガツヒに感染される感覚。
ああ、あの本を忘れてしまうのか…記憶がなくなる……。
──…あ。
俺は、本が嫌いだ。
嫌いなのに、なんでこんなに、読んでしまうんだ。
すごい。
すごい…!!!
すごいすごいすごい!
ああ、これだ!
これだこれだこれだこれだこれだ!
──人の人生は、読まれるためにあるんだろう?
何せここは、人生の墓場!!
俺が君たちの物語を読んであげる。
見せてよ!
楽しい、楽しいなぁ!!
嗚呼!なんて面白い日々!
4.屋上の女子高生の記録
腐った牛乳の匂い。
落書きされた机。
置かれた花瓶と百合の花。
濡らされた制服。
歩くたびに聞こえるコソコソとした声。
ゴミ箱から見つけた上履き。
「ゆーちゃんにお母さんからプレゼント!」
赤い花柄のかんざしを手に取る。
「ありがとう!まま!」
帰ってこない親。
屋上に立つ。
雨が降る。
ああ、やっと終わる。
逆さまになって見えた世界。
窓の外から見た教室の中にいた、笑ってるあいつら。
許さない。
呪ってやる。
殺してやる。
地面にぶつかった。
頭の崩れる音。
屋上に立つ。
屋上に立つ。
屋上に立つ。
美味しそう。
美味しそう…。
美味しい美味しい美味しい。
…………お腹が減ったなぁ。
あそこにいるの、アレは私を***たやつらだ。
食べちゃお。
ねえ、今どんな気持ち?
……私はね、嬉しいよ。
5.保健室のガイコツ先生の記録
生前は保健室の先生だった。
ふふ、そうだとも。
少年のことも、女子高生のことも、番人のことも知っているよ。
何もできなかったけどね。
一度この学園は燃えたことがあった。
放火魔にやられた。
私はその炎に巻かれた。
終わった時にはガイコツとして七不思議になっていた。
七不思議になってもなお、縛られ続けるあの子たちが哀れで、可哀想で。
「ああ、そうだとも。三つだけ質問していいよ」
なんでも答えてあげる。だって先生だからね。
「おや、そんなことを質問するのかい?」
焦った顔をしている目の前の少女に笑いかける。
考えてることと違う言葉でも出たかな?
大変だなぁ人の子は。
ああ、私も人の子だったけどね。
どうして死んだのか、だったっけ?
燃えた炎の中は熱かったよ、熱くて、熱くて。
そうだね。
でも忘れてしまったらしい。
さて、何で私は死んだんだったか…?
え?燃えた?
そんなこと言ったかな。
「なーんて、燃えた記憶はないのに、燃えた感覚だけはいつまでも残り続けるんだ」
嫌な地獄だろう?
なんて、無力なんだろうね。悲しいのに涙が出ないんだ。流す機能がそもそも骸骨になってから無いからね。
でも、とても悲しいんだよ。
誰かこの世界を閉じてくれないだろうか。
6.北校舎の大きな鏡の記録
ここはどこ?
暗い世界
あなたはだれ?
王様と女王様…
どうして俺はここに…?
鏡に触れた。
黒いものに引き摺り込まれる。
助けて、嫌だ!
叫ぶ声はあっさりと鏡に吸い込まれて音も何もなくなる。
自分が何者なのかもわからなくなりぼんやりとした記憶だけが残る。
──ここはなに?
あなたは?青い炎…。
王様?
私は、鏡に吸い込まれて…
私は誰誰々誰々
わからない、わからない。
鏡…かがみ、カガミ…
かが、
……
…
…ここは、どこ?
………おれは、だあれ?
7.願いを叶えてくれる鳥居の記録
さて、ここは鏡の世界。
誰もがみんな人から怪異になった世界。
西城学園には神様がいた。
願いを叶えてくれる神様だ。
その隣には神使がいた。
神を守るためにも神と人を繋ぐものとしてもそこにはいた。
──神様は消えることを選んだ。
神様、神さま!なあ、かみさまってば!
どこ行くん?なぁ、消えんでや。
なあ、嫌や、うちを独りにせんとって!
なにするん?かみさま、やめて!そんなことしたら神さまが消えてまう!
いやや!かみさま!
……リンッ
鈴の音。
………やぁやぁ、初めまして!
うちの名前はイネ!
この鳥居を守る狐や!
んんー、始めましてのあんたにもわかりやすぅい自己紹介したろ!
なぁ、あんたの願い、教えてや?