天瀬あまがせ 櫂海たくみ。
法名は、西映寺殿せいえいじでん 釋櫂海しゃくとくかい。
漣廻寺の院主。沙亞耶の父、祈凛乃の夫。
四十六になる年のはずなのに、若作りな顔立ちだ。
左肩から背へ垂れ下がる金糸の修多羅しゅだらの太房が権威を誇る。木蘭色もくらんじきの法衣ほうえの上に、壊色えじきの七条袈裟しちじょうけさが左肩から斜め下に身と左袖を大きく覆っていた。壊色の文様は、田の字型の額越しに、水面を鑑賞しているように錯覚させる。水縹みずはなだ色の升ます内を流れる金箔の流水紋へ、蓮が散りゆくのだ。
柔く靡いた黒髪を艶めかせる輪が、青き玲瓏石れいろうせきの後光のよう。勿忘草色、伽羅色きゃらいろ、薄花桜色うすはなざくらいろ。波が重なるように干渉色が漂う黒髪は、舛花ますはな色にも見える。
はねっ毛で厨二病の如く左目が隠れているが、飴色に下がる右目で穏やかに微笑む。不思議な清浄さがある人だな。