伯爵は、門番にとめられる
「とまれ。品を改めさせてもらう」
帝都に着いて、帝都を馬車でゆるりと走り抜け、王城へ。
王城へ着くと、正面ではなく、東門へと移動する。
東門は、主に物資運搬用に使われる城門を、ランページの家紋のついた馬車は堂々と入場していく予定だった。
そもそも、止められる、ということが、あり得ないと思っていたから。一応、ランページの家紋つき馬車だし。
「パティ、シャナン、見つからない? 大丈夫?」
特殊部隊配属だった二人――パティとシャナンに馬車から降りずに声をかけると、二人も止められたことに驚いていたけど、すぐさま我にかえって止めた門番に声をかけにいった。
今ここで、カシムール殿下に見つかるのはまずい。
荷物が見つかるのはいいのだけども、私が見つかるのが危険。それに私も会いたいと思えない。だから、そのまま通してほしかったのだけども。なぜ引き留められるのか。
「お、お前たち、この馬車がどこの馬車かわかって声かけているのか?」
「あぁん? どこの馬車だろうが、改めるんのは当たり前だろ」
「い、いや、我々は――」
「お前たちなんぞ知らん! この門を通るには俺の許可がいる! それがこの門を通る条件だ!」
……大きな声で騒いでいる門番さんの言っていることは、自分の許可、というところ以外はあながち正しい。うん、門番として正しいのだけども……なにかしら、傲慢さを感じるのは私だけかしら。
「ま、待って待って! 王城に運び込まれる荷物を改めるのはわかるけど、この貴族紋を見ても信用ないって判断して止めようとしているの!?」
「貴族紋なんぞあてにならん。そういうってことは怪しい物資を運び込もうとしているわけだな? ますます怪しい。改める!」
二人の似たような顔つきの門番のうちの一人が、パティとシャナンの慌てぶりに尚更訝しさを覚えた様子で、持っていた槍を二人に向ける。
うん、まあ正しいわ。うん。門番として正しい。優秀な門番なのね。だけど、家紋があてにならない、といった時点でなんとなく察した。この二人、王城勤めが浅いのか、または家紋を見ても分からないのね。もしかしたら全員止めて品を改めているのかもしれない。
それはそれで、門番として正しい行為だけど、融通がきかないわね。
「……何を、しているのかしら」
別に二人が危ないと思ったわけではない。多分二人とも、そこの門番より十分に強い。
だけど、こんなところで時間を食っているわけにもいかないので、この場でもっとも権力のある私が出ることにした。
馬車から降りると、二人の門番から風を切るかのような音を口から出してくる。
私を見て、出した音。不快感を得て、私が出るのは浅慮だったかと思う。
「お、お前たち……この方を誰だと……」
「あぁ? しらねぇなぁ。どこぞの貴族の令嬢様だろ? わかるわかる」
「あら、あなた、この馬車の貴族紋をみても止めるのに、あなた自身は貴族なのね」
「昔は王国の伯爵家の次男だったんだけどな。今はこの帝国に逃げてきて騎士爵だから貴族とは言い難いんだが」
にやにやと私を見て変な笑みを浮かべてはじろじろと、視線を絡みつかせてくる。先ほどまで優秀かもしれないと思っていた自分を恥じたくなった。
王国の伯爵という言い方に、私の考えが少なからず当たっていたことを感じる。言われてみれば、帝国民だったらランページの家紋は大体知ってるだろうからこんな不躾な目線をしてこないし。
「あんたみたいな行き遅れの令嬢だったら、若い男だったら誰でもいいだろ?」
「……え?」
……何を言われたのかと、驚いて固まってしまった。
「お、おい……」
「男に恵まれなかったんだろう。俺なんかどうだ? 今なら元伯爵家の次男としていくらでも指導してやるぜ」
男に恵まれなかったのは確か。
行き遅れとなってしまったのも確かではある。
だけど、初対面の女性にそんなことを言ってくるって、何を考えているの、この門番。
「ま、まて。やめろってっ」
「なんだよ、てめぇは黙ってそこで荷物に難癖付けられないようにじっとしてろよ。なんだったら俺が難癖付けて城内に入り込むことできなくしてやってもいいんだぜ?」
「だ、だから……」
シャナンが私を見て焦るように男の発言を止めようとする。
だけども、ただでさえ大事にするのも危険な状況だとわかっているからか、勢いは悪い。
私は、この状況にため息をついて、背後の馬車に前へ進むよう促した。
この二人以外の城勤めは、家紋を見たらすぐに馬車を前へと進ませた。ランページがもめていることに問題と思ったのか、情報拡散させるような動きをしていたが、周りの騎士やマオ達が、それを止める。
いい働きね。
これでここに私がいるってことを知られたら溜まったもんじゃないわ。
「あ、お、お前ら!? なんで俺の許可なく勝手にっ」
「……あなた、名前は?」
「あぁ!? なんだよ、俺は、タイ・ケル・ヤッターラだ。興味あるのかよ俺に。おーおー、俺もまた貴族に返り咲きだ。お前が男爵だろうが子爵家だろうが、俺が貴族になれるのならいくらでも可愛がってやるぜ」
「そこのもう一人の門番さんは? 弟さん?」
「なんだよ、俺じゃなくて弟のほうにも興味あるのかよ。お盛んだな。カイン・ケル・ヤッターラ。俺の弟だ」
ヤッターラ。
その貴族の名に、私は心当たりがあった。
「あなた達、モロニックの間者だったのね」
「っ!?」
「ヤッターラといったら、国から任務を受けてモロニックに潜伏して、見事伯爵まで上り詰めた有名な爵位じゃない。それがどうしてこんなところにいるのかしら」
ヤッターラ伯爵家は、モロニック王国の一角を崩し、かつ潜伏して情報を流すよう特命を受けてモロニック王国へと出奔した貴族だと記憶にあった。帝国からの手助けが少しはあったとしても、王国で伯爵まで上り詰めたのだから優秀な人材だとわかる。王国の情報を逐一帝国に流していたと思うから、帝国としても重宝していた家系だった。
確か。王国の『盾』と言われる四公爵の一人、エッジ・フォー・タジー公爵の配下として、帝国が攻め入った際には反乱を起こし、混乱させた上で、伯爵家全体で王国の楔になるという長期間のスパンでの計画だったはず。
この計画を実行したのは、カシムール殿下の案だったと思う。
うまく行っていたものの、何かまでは分からないけども、伯爵から男爵まで降爵させられて、計画も頓挫していたと記憶していた。
これも、うまく行けばランページにとってはとても楽は話だけども、伯爵家から降格させられるなんてどれだけ王国に被害を与えたのか計り知れない。
噂によると、【キツネ】と呼ばれる謎の人物に多大な迷惑をかけたという話だけども……。
……そう、そうよ。この男よ。
この二人が王国から帝国へと戻って王家に仕えたから、王国と帝国の間で緊張が走った。
その尻ぬぐいをしたのも私(というよりヨモギ)がやったのよ。
それが降爵されたのにも関係があったのかもしれない。見ようによっては、王国の中間爵位が得られる様々な情報をもった二人が亡命しているようなものなのだから。
元伯爵子息だった、というところから、今まで不自由なく暮らしてきたのかもしれない。
特に女性関係は。
だからこんな言い方で迫ってきているのかもしれない。
そう思ってみたものの、だとしても納得できないわね。なんでこの男――タイという門番ごときと私が婚姻しなければならないのだろうか。しかもこの男の利益のためだけに。
……やっぱり、男ってみんなそうなのかしら。
「なるほど。カシムール殿下に拾われたってことね」
カシムール殿下は、思いつきで策を実行し、それが嵌れば優位になるのだけど、ほとんどが失敗する。しかも大体がランページに関わるような案件なのよね。
亡命してきた伯爵家をそのまま拾ったら、そりゃもめるわよ。
どこにでもカシムール殿下の影が付きまとうかのようで、うんざりしてくる。
頭を抱えたくなって、思わず頭痛がしているかのようにこめかみを抑えてしまう。
「……な、なんだ。なら話が早いじゃねぇか。尚更俺が返り咲くのにちょうどいい」
「兄さん、そこまでにしておくといい」
いまだ私が誰かも分からないタイが私に近寄ろうとしたところで、タイの肩を叩きながら、もう一人の門番、カインが割って入ってきた。
「なんだ、カイン。お前もこの女を手に入れて帝国で旗でも挙げる気か?」
「違う違う。それよりも、周りを見て、私達以外が慌ててるところから、この人達、身分的に偉い人だと思うよ」
「……身分が高かろうが、品を改めるのは門番としては正しいだろ」
「門番なら正しいよ。だけど兄さんは、この女性を手に入れようともしているじゃないか。女に困っているわけでもないんだから変なちょっかいかけるのやめなよ。他にもいるだろう?」
タイの弟というカインは、タイと違って優秀にも思えるわね。
顔もいいからモテそう。お兄さんに苦労しているタイプかもしれない。……優秀なら、ランページで採用するのも悪くないわね。
「失礼だが、あの中身はそこまで大事なものなのだろうか」
「ええ。大事ね。あなた達、私達の動きを止めたのは門番としては悪くないけど、時と場合によっては融通したほうがいいわよ」
「なっ」
「兄さん、私もそう思うよ……。厳重さから重要な荷物だと思うし、依頼されたのが誰かは分からないけど、王家から依頼されているのなら、彼女も男爵や子爵じゃないと思うよ」
「な、なら、あんた、もっと上の偉い人かっ! それならもっといいじゃねえか!」
タイという彼は、本当に自分が出世することしか考えていないみたい。その上、相手が自分がそんな口を叩いていいのかさえ確認もせずに話をしていることに、危機感を覚えないのかと心配にさえなってくる。
……ああ、でも。
マオとミサオもそんな感じだから、相手の懐に入った、と思うのが早いってことなのかしら。
全然友好関係ないし、こんな感じで来られたら心証悪すぎだと思うんだけど。
「兄さん、だから、まずは私たちが引き止めていい相手かどうかも考えてさ」
それ比べ、カインというこの男は、話が少なからず分かるようで安心する。
どちらもヤッターラの家系なのであれば、警戒する必要はあるけども、馬車を先に進めたのは英断だと思うわ。特に今の状況では、私達も、彼らにとっても、カシムール殿下にとっても、ね。
「あの荷物は誰からの依頼なのかだけでも教えてもらえるだろうか」
「あなた達のご主人であるカシムール殿下から、内密に運ぶよう言われた品よ」
「っ! あ、やべ……」
「兄さん……だから言っただろう……失礼ながら、お名前を伺ってもよろしいだろうか」
それは最初に聞くべきだと思うけど。マイナス評価ね。もっとも、カインが、ではなく、タイが、だけども。
「ランページよ」
私がそう言うと、二人が固まった。
「ら、ランページ……ま、まさか、マリーニャ・ランページ女伯爵っ!?」
二人して私のフルネームを言って驚いているけど、減点ね。
呼び捨てにしている、先に聞かない、家紋を見てたらわかる。
家紋を見れば引き止めるべきではないし、先に名前を聞いたら防げたはず。
もちろん、タイに関しては、名前を聞いても同じ行動してた可能性が高いけども。騎士爵が呼び捨てしていい相手でもないの。
「あなた達、ランページがカシムール殿下から依頼を受けて届けた品物を、改めようとしていたのよ。その意味、わかる? 貴族紋、覚えたほうがいいわよ」
悪戯心が働いて、そう言うと、二人は真っ青な顔をして立ち尽くすだけだった。
こちらも騒ぎたくもないのだし、あらゆる注意を払って声をかけてほしいものね。いい教訓になったんじゃないかしら。
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といった話を書いてましたが、長くなりそうなうえにどうでもいい話かなぁと思って除外しました(笑
出てきたキャラが気になる方は、
シトさまのいうことにゃ ~今日もキツネさんはのんびりまったり勇者育ててます~
https://kakuyomu.jp/works/1177354055038372664もよかったらどうぞ^^