俺は回路設計士だ。
……もっとも、そんな肩書きに誇りを持つ余裕なんて、今の俺には全くない。
連日の残業。休日出勤。急な仕様変更に、終わらない試作と検証の連続。そして不具合が出たら頭を悩ますことになる。
机の上には回路図と資料が積み上がり、モニターには修正箇所を示す赤い印がいくつも並んでいる。
これが終わったら再び試作だ。今度こそうまくいってくれるといいのだが。
目はしょぼしょぼするし、肩は岩みたいに重い。さっきから同じ回路図を眺めているのに、頭がうまく働かない。
さすがに、もう限界だ。
俺は隣の席でパソコンに向かっていた同僚に、ため息交じりに声をかけた。
「もう無理。働き過ぎて死ぬ」
「ほんとしんどそうだな」
同僚は画面から目を離さずに答えた。彼も彼で、納期の迫ったプログラムの修正に追われている。疲れているのはお互い様だ。
「代わってくれよ……」
「無理だよ。仕事が違うじゃん」
「そうだな。お前はSEでプログラマー。俺は回路設計士。仕事が全く違う。それは分かってはいるけどさ」
俺は背もたれに体を預けた。椅子がぎしりと鳴る。
「うちの部署は何人かいるけど、お前のところ、前任者も同僚もダウンしただろ。今は一人で抱えてるんだよな」
「ほんと、そう。ありえんよ。平社員一人の部署だよ」
前任者は体調を崩して退職、もう一人の同僚もダウンし長期休職に入った。人員を補充すると言われてから、ずいぶん経つ。けれど、代わりの人が来る気配はない。
一方で仕事だけは、何事もなかったように残っている。いや、むしろ回らないから増えているような気がする。三人分の仕事はさすがに無理。
「社長に言った方がいいぞ」
「何度も言ってるんだがな。人が足りないって。それでも『根性でなんとかしろ』ってさ」
「根性って……」
同僚がようやく画面から目を上げ、呆れたように俺を見た。
「俺からも上司に言っておくよ。お前がいなくなったら、うちの回路設計が消滅するだろ。売り上げだってかなり減って、会社もきつくなるはずだ。分かってると思うんだけどな」
「頼んます」
俺はおがむように手を合わせ軽く頭を下げてた。そしてまたモニターに向き直る。
回路図の上には、まだ確認しなければならない箇所がいくつも残っている。明日までに終わらせなければならない仕事もある。
試作もある。それだけでなく客先の量産工場の立ち上げ同行の予定もある。もうわけがわからない状況だ。
締め切りが迫っている仕事がいくつもある。普通に無理だ。
――明日までにこれだけは。
その言葉を頭の中で繰り返しながら、俺は重たい指をキーボードに伸ばした。