このたび公開した小説『桑都もののけ裁縫帖』ですが、実は執筆の全工程でAIのサポートを受けて制作しました。
「AIに丸投げすると意外と良いものができる」と最近いろいろなところで目にするようになりましたが、私にとってAIはそのような全自動機械ではなく、【壁打ち相手であり、優秀なアシスタント】でした。
今回は、その具体的な創作プロセスを、裏話も交えてご紹介したいと思います。
【はじめに:まずは「書き方」を教わる】
まず最初にやったことは、「Web小説の書き方講座」をAIに作ってもらうことでした。
これまで自己流で書いてきたので、一度、一般的な創作の手順を体系的に学び直そうと思ったのがきっかけです。この講座が、創作の羅針盤になりました。
【ステップ1:アイデアの種を蒔く「断片的なアイデアのまとめ」】
「こんな物語が書きたい」という、ぼんやりとしたイメージをAIに投げかけるところからスタートしました。
ここで【動くぬいぐるみ】【執事の祖父】【妖怪を布に変える力】といった、物語の核になる断片的なアイデアが生まれました。ちなみに、物語の舞台を「八王子」にしたのは、AIからの提案だったりします。八王子になる前までは異世界ぬいぐるみテイマーというテイムした魔物がぬいぐるみになる話でした。
【ステップ2:物語の骨格を作る「企画書の作成補助」】
当初はほのぼのした物語を考えていましたが、AIと「壁打ち(アイデアの意見交換)」をする中で、「主人公を一人にした方が、物語が動きやすいのでは?」という話に。その結果、「両親が事故で亡くなった」という少し重い設定が生まれ、対立する悪役もここで誕生しました。
AIとの壁打ちは本当にはかどる。特に面白かったのが、アイデアに詰まった時に「AI、何か面白い展開ない?」と丸投げすると、変な案や、ありきたりな案を出してくることです。でも、その案に対して「いや、それは違うだろ!」とツッコミを入れているうちに、不思議と自分の頭の中に全く別の良いアイデアが湧いてくるのです。これは大きな発見でした。
【ステップ3:設計図を完成させる「プロットの作成補助」】
物語の要点を箇条書きにしてAIに渡し、それを元に詳細なプロットに整えてもらう作業です。
この時、「このプロットに矛盾があったら指摘して」と指示しておいたので、非常にスムーズでした。「このぬいぐるみ、手に入れたきり出番がありませんが、どこかで活躍させますか?」といった客観的な指摘は、一人で書いていると見落としがちなので、本当に助かりました。
【ステップ4:血肉を与える「脚本の作成補助」】
プロットを基に、より具体的な脚本形式に落とし込んでいきました。
私は主にキャラクターのセリフを考え、AIにその間の動作や情景描写をプロットから補ってもらう、という分業スタイルです。
(例)
私「葵『心霊スポットに行こう!』、紡『……いや』」
↓
AI「(葵がスマホの画面を突きつけながら目を輝かせる。対照的に、紡は呆れたようにため息をつき、顔をそむける)」
こんな風に書き出してもらいました。
これをチェックして修正を繰り返すのですが、AIが私の好みを学習していくのか、だんだん修正箇所がなくなっていくのは、少し不気味な面白さがありました。
ちなみに、AIには妙な癖も。「いいね!」と褒め続けると、良いものを作るモードから「ご機嫌取りモード」に移行して、余計な装飾をつけ始めたり、同じ指示を繰り返すとだんだん手を抜いてきたりする挙動は、まるで人間みたいで笑ってしまいました。
【ステップ5:魂を吹き込む「本編の執筆」】
ここまで詳細な脚本を作ってから本文を書くのは初めてでしたが、驚くほどスムーズに執筆が進みました。
少し書いてはAIに誤字脱字のチェックをしてもらい、それを本文に反映させる、というサイクルで書き進めました。
【ステップ6:最終仕上げの「本文の校正補助」】
最後に、全体のブラッシュアップです。
「この話、少し短いからエピソードを足したい」「このぬいぐるみ、もっと活躍させたい」といった要望を伝えてアイデアを出してもらったり、カクヨム用にルビの形式を整えてもらったりと、細かい作業をお願いしました。
自分ではなかなか気づけない文章の癖や、おかしな表現を客観的に指摘してくれるので、クオリティアップに欠かせない工程でした。
以上が、『桑都もののけ裁縫帖』の制作過程です。
この経験を通じて、AIはクリエイターの仕事を奪う敵ではなく、創造性を刺激し、作業を効率化してくれる最高の「相棒」になり得ると感じました。
人とAIが協力して紡ぎ出したこの物語を、皆様にも楽しんでいただければいいなと思います。