香港から来た二人の新聞人、租界の街を歩き続けてきた記者、ホテルバーの夜に立つ男。
第三章「光の境目」で、四人がようやく同じ街に揃いました。
ここでは、上海租界編第三章までに見えている彼らの輪郭を紹介します。以降の物語に関するネタバレはありません。
※本作はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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◆アン(32歳|165cm)
維港日報社・編集補佐兼翻訳員
香港本社から上海支局へ派遣され、外電や入出港表を読み、訳語を選び、記事になる直前の言葉を整えて形にする。
長い黒髪を襟足でまとめ、昼は実務向きの洋装、夜は租界都市を歩くための装いとして、深い色の旗袍とハイヒールを選ぶ。華やかさで人目を引くというより、気づいた人の記憶に残る顔立ち。声は低めで、わずかに湿った掠れがある。
真面目で口数は少ないが、従順ではない。人や街、新しい時代や文化への好奇心は強く、気心の知れた相手には乾いた一言や笑いを返すこともある。気づいたことをすぐには問い詰めず、それでも見なかったことにはしない。
一度社会へ出て働いたのち、二十三歳頃に香港大学へ入学。学内の弁論大会で知り合ったエドワードは、今では同じ紙面を作る同僚であり、ときに口の減らない弟のような存在でもある。
バーテンダーのレイの声と所作の違和感から、ただ酒を作る男ではないと気づいている。だが、その奥を暴こうとはせず、理由を言葉にしないまま、何度も華燈酒廊へ戻っている。
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◆レイ(36歳|183cm)
海晏酒店〈華燈酒廊〉・バーテンダー
白いシャツと黒いウエストコートを身にまとい、夜ごと華燈酒廊のカウンターの内側に立つ。酒を作りながら、客の言葉や視線、その背後で動くものまで静かに見ている。
背が高く、遠目には端正な東洋の男に見える。だが近くで見ると、鼻筋の通り方、目元に落ちる影、頬骨が拾う光が少し違う。完全にひとつの土地へ分類しにくい顔立ち。声は低く乾いている。艶のある黒髪には少し癖があり、湿気で前髪が落ちることがある。
近づいたときだけ、雨や煙草の匂いの奥に、彼自身に沈んだ没薬めいた深い甘苦さが感じられる。
複数の言語を使い分け、異なる言葉と立場が交わる租界の夜に立つ。店で起きることをほとんど見落とさないが、何を聞き、何を知っているのかは口にしない。
自分の声や所作の揺れを見抜きながら問い詰めないアンを、ただの客としては見られなくなっている。それでも、彼女が選んだ距離を変えようとはしない。
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◆沈《シェン》(44歳|171cm)
維港日報社上海支局・外回り記者
上海支局で現地採用された古参記者。古い革鞄と角を何度も直した手帳を持ち、港、船会社、警察署の裏口、飲み屋街まで、自分の足で歩く。発表資料をそのまま記事にせず、現場に残った小さな食い違いから事実を探す。
擦れた背広に、少し緩んだネクタイ。取材帰りには無精ひげが残り、目の下には薄い隈がある。くたびれて見えるが、事実を見る目だけは鈍っていない。
愛想はよくなく現実的だが、経験を使って若い記者の判断まで奪うことはしない。入口は教えても、答えまでは渡さない。アンの判断を静かに信頼し、エドワードの育ちのよさにも若さにも遠慮しない。
エドワードの上海到着初日から、二人は食の話で妙に意気投合した。それ以来、三人の仕事がひと区切りつけば、そのまま同じ卓を囲むこともある。
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◆エドワード(26歳|178cm)
維港日報社・若手記者
香港本社から上海支局へ赴任してきた若手記者。外回りや現地確認、短報の作成、本社との連絡を担う。
前髪は整髪料で斜め後ろへ流し、隙なく撫でつけている。背広は流行を取り入れた仕立てのよいもので、革靴はいつもピカピカに磨き上げられている。
食欲旺盛で、肩と胸に厚みのある頑丈な体格をしている。議論慣れした明瞭な声は、張り上げなくても人混みや部屋の端まで届く。
若さゆえの明るさと軽さ、良家育ちの余裕、現場へためらわず踏み込む尖り方が同居している。礼儀を知ったうえでそれを少しだけ踏み越える、行儀のよい悪童である。新しいものに目がなく、いつも美味しい店を探すことにもぬかりがない。
アンとは大学時代からの先輩後輩。彼女にとっては、頼もしい年下の同僚であり、小生意気な弟分でもある。
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※人物紹介は、物語の進行に合わせて今後も更新します。