第3章 第51話「相応しい者」を更新しました。
今回は、「誰が一番強いか」ではなく、「今ここに誰が必要なのか」を考える回です。
南の廃村と、近くの村との間には、まだ何の解決もありません。
村は廃村の集団を許していない。
廃村の若者たちも、村に受け入れられていない。
ただ、すぐに槍を持って押し寄せることはなかった。
その間に、折った枝と赤茶けた布で仮の線が引かれます。
子供でも跨げる線です。
柵ではない。
正式な境界でもない。
見なかったことにしようと思えば、簡単に無視できる。
それでも、今はそこに線があることに意味があります。
ブルーノが怒鳴る。
畑へ入るな。
畑の草を抜くな。
ガレスが見張る。
エルヴィンが人数を数える。
その三人がいることで、頼りない線が辛うじて線として残っています。
ただし、廃村の問題は何も解決していません。
人はまだ増えています。
逃げ兵くずれ。
村へ戻ったが、入れてもらえなかった若者。
帰る場所のない者。
エルヴィンが割れた板へ線を引いて人数を数しても、その途中で魚取りへ行っていた者が戻ってくる。
最初からやり直す。
数え終わる前に、また増える。
鍋の前には今日も列があります。
列があるということは、まだ秩序があるということです。
でも、鍋の湯気は薄い。
ここが今回の危うさでした。
人を追い返さないことと、人を食わせられることは違います。
ブルーノは追い返せない。
ガレスは無秩序を見過ごせない。
エルヴィンは状況を整理しようとする。
三人とも必要です。
でも、この問題を解くには、三人だけでは足りません。
そんな時、帝国前哨側の歩哨から情報が届きます。
ヴェルナー子爵家の側に、帳面を抱えた若い男がいる。
エスター家に縁があり、文書が読めるらしい。
その近くには、若い衛兵らしき者と、荷車に詳しい男もいる。
ノエル。
ニルス。
トマ。
まだ本人たちだと確定したわけではありません。
それでも、可能性は高い。
当然、ブルーノは迎えに行こうとします。
なぜ行くのか。
行きたいから。
非常にブルーノらしい答えです。
でも、エルヴィンは行かせません。
ブルーノが動けば、後ろの若者たちも動く。
ブルーノ本人が親分ではないと言い張っても、もう周囲はそう見ていません。
ガレスを行かせれば、近くの村が警戒する。
エルヴィン自身は状況を整理できますが、帳面、食料、文書、名分を担う中心人物には向いていない。
そして全員で帝国前哨へ向かえば、得体の知れない武装集団が押しかけることになります。
それでは、前哨に留め置かれているアズールの立場まで悪くするかもしれません。
だから、アズールへ向かうために、まずノエルを呼びます。
今回の「相応しい者」は、ノエルです。
強いからではありません。
勇敢だからでもありません。
まず怒る。
それから数える。
そして、飯が足りないと言う。
人数を数す。
名前を聞く。
食料を見る。
帳面を作る。
文書を読む。
誰が誰なのかを整理する。
どの名分で動かすのかを考える。
そうして初めて、廃村の若者たちは、ただの得体の知れない武装集団ではなくなります。
今回、連絡に使われるのは紙でも正式な文書でもありません。
エルヴィンが割れた板から作った、小さな木片です。
そこへ三つの印を刻みます。
ガレス。
エルヴィン。
ブルーノ。
ノエルなら分かる。
分からなければ怒る。
そして、確かめに来る。
廃村の若者たちは、まだ姿も見ていないノエルを「帳面の兄貴」と呼び始めます。
本人の前では絶対に呼ぶな、とエルヴィンは止めます。
ブルーノによれば、帳面の兄貴は怖い。
まず怒る。
それから数える。
そのあと、飯が足りないと騒ぐ。
そこまで聞いて、廃村の若者たちは黙ります。
笑える場面ではあるのですが、笑って終われません。
鍋が、本当に薄いからです。
第51話「相応しい者」は、アズールとの再会を急ぐのではなく、その再会を壊さず実現するために、必要な手順を選ぶ回です。
アズールへ行くために、まずノエルを呼ぶ。
エルヴィンの言葉では、
「怒らせればいい」
「怒って、数えさせる」
そして、その日の夕方。
アズールへ向かう道より先に、ノエルを呼ぶ言葉が廃村を離れます。
よろしくお願いします。
本編はこちら:
https://kakuyomu.jp/works/2912051601294425987