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1件のコメント

  •  体験からくる感情の発露を創作に還元する姿勢は作家の鑑です。『卵返り』は、物語の構成や読み手を引き込む力の優れた作品だと思います。円城塔賞を射止めるためには、情緒を支える「論理」のブラッシュアップが必要かもしれません。
     まず両親の描写に、彼らも一年間引き籠もった息子に向き合い傷ついた果ての疲労をという背景をわずかに足してみてください。皿洗いに戻る母の背中の小ささや、不都合な存在をないものとして扱う父の弱さを描くことで、一人で兄と向き合う主人公の孤独な決意がより浮き彫りになってきます。中盤で壊れた盾を見つけるシーンに、兄が輝いていた頃の幸せな記憶を添えれば、ラストの挑発はより深い愛情の裏返しとして響くと思います。
     選考委員の円城氏は情緒的な共感より、物語を貫く論理的なシステムや言葉の不気味な機能を注視する作家です。医者の「心の病」という情緒的説明に加え、「自分を物語るための言語リソースが枯渇した結果、情報の高密度圧縮が起きた」といった記号論的な理屈を混ぜ、ラストで妹が小説を書く行為を単なる励ましで終わらせず、「妹の書く文章によって、兄という存在が事後的に再定義(再構築)されてしまう」といった、言葉が現実を上書きするメタ性を強めてはどうでしょう。殻から出てきた兄が、どこか「妹の書いた文章のルール」に支配されたような、論理が現実を侵食した違和感を読後に残せれば深く刺さるかもしれない。

     第二回の選考前、第一回の受賞された作品の冒頭を読み、はじめから期待して読んでいました。また、本にできるか売れるかどうかの視点も盛り込んで選考してました。なので、前回や他の選者の方々に比べると若干厳しめだったかもしれません。
    『紺碧の断罪』は、擬似ながら親子の愛情が描かれていると思うので、一実を殺人犯にさせないためにも百合子は眠らせて単身マスターと対峙すると逆撃を受けて首を絞められたため、ナイフで反撃。倒れたマスターをみて死んだと思い自殺しようとするところに警察が駆けつけ止められる。ラストの贖罪では、一実は自身に痛みを与えることで睡眠導入剤の効果を逃れ、警察に通報し、百合子を助けようとしたこと。マスターは一名をとりとめ余罪を追及されていること。正当防衛が認められれば情状酌量の余地もあることを弁護士から聞いて返ってきたことが語られ、また百合子とお茶しよう、いつまでも待っていると締めくくる直しをしたら、人殺しにならず、二人が思い合っている気持ちが復讐を果たすことが出来、読後も清々しくなる。書籍できるくらいの分量にもなるし、分量がふえることでスロースタートの書き出しも生きてくる。そんなことを考えました。

     キリギリスが浮かれウサギが眠りこけている間に、アリやカメの地道で着実に課題を乗り越え、作家への道を掴み取る日を願っています。
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