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特典SS 世界が変わる前の日3 夜柳茉莉とゲームについて 前編(お試し版)





「はい、というわけで今日はこちらのゲームをプレイしていきたいと思います」

「急に俺の家に来てなんで配信者みたいなムーブしてるの茉莉ちゃん」


 さて、唐突に始まった茶番ですが、これはいったいなんなのか。
 その説明をする前に、少し自己紹介をしましょうか。


 私の名前は夜柳茉莉。
 どこにでもいる、ちょっと年上の男性を好きになったごく普通の女子高生です。

 そんな私に向かって、訝しむような目を向けて来たのが、上杉志摩くん。
 去年の春に大学進学のため、私の父が大家をしているアパートに越して来た、大学生の男の子で。
 そして、現在私が好意を寄せている、好きな人です。

 時は十二月。
 現在地は、さっき話に出て来たばかりのアパートの、志摩くんの部屋。
 冬ということもあってこたつを出している志摩くんの家に遊びにきて、こたつに入ったままごそごそと次にやるゲームを物色してから、冒頭の発言に至ったというわけです。


「昨日『遊びに行くよ』って連絡してたと思うんだけど」

「連絡は貰ってたけど、今何時だと思ってる?」

「朝の9時?」

「はやいよ」


 志摩くんは、そういってじとっとした目を私に向けてきました。
 今日は土曜日。花も恥じらう女子高生の私にとって、休日とは大変貴重なものです。
 その貴重な一日を使ってゲームをしようというのなら、最大限の時間を確保したいと思うのは当然のこと。
 であれば、可能な限り早く遊びにきて、可能な限り長くゲームをプレイするのも当然でしょう。

 という理論で志摩くんに迫ると、志摩くんは渋い顔をしました。


「言いたいことはわかったけど、大学生は土曜の朝っていうのは大抵ぐっすり寝ているものでね」

「でも、昨日は飲み会ないって言ってたでしょ」

「飲み会がなかったとしても、寝ていたかもしれないでしょ」

「でも起きてるって分かったから来たんだよ?」

「…………」


 志摩くんは私の言葉に押されて黙った。
 無論、私だってゲームがしたいからと朝の9時に押しかけるのは、迷惑かなと思う気持ちくらいはある。
 でも、最近の志摩くんは金曜の夜に、誰々の成人祝いとかで飲み会に出ていることも多くて、遅く帰ってくることがしょっちゅうみたいだった。
 そんな金曜日の翌土曜には、空気を読んであまり積極的に遊びには来れない。

 そんな日々の中、久しぶりに一日中一緒に居られる土曜日だと思ったら、いてもたっても居られないのは仕方ないじゃないですか。


「まぁ、茉莉ちゃんがそこまでゲーム好きなのは、今に始まったことじゃないけどさ……」


 そして結局志摩くんは折れた。
 少し強引でも、こうやって押してしまえば志摩くんは折れてくれる。
 それはある種の信頼でもあるし、彼の優しさに甘えているということでもある。

 ただ、お母さんにはアドバイスされているのだ。
 志摩くんみたいなあまり異性に興味がなさそうな相手は、とにかく押して押して押しまくって、一緒にいるのが当たり前みたいな空気を作ってしまえば勝ちなのだと。

 お父さんは複雑そうな顔をしていたけど、恋に関してはお母さんの方が強い。
 だからこうして、ゲームにかこつけて押しかけまくって、朝から私が一緒にいるのは当たり前だと刷り込んでいる最中なのだ。


「じゃあそういうことで……志摩くん朝ごはん食べた?」

「まだ」

「じゃあゲームの前にご飯作っちゃうね」


 とはいえ、もちろん迷惑だけをかけるわけにはいかない。
 掃除や洗濯はなかなかさせてもらえないけど、料理に関してはもう完全に私の仕事と志摩くんは認識してしまっている。

 押しかけ女房の秘訣は『彼女がいないと困るなぁ』と思わせることだという。
 朝昼晩まで私が料理を作れる休日は、その刷り込みを行う絶好の曜日だ。
 志摩くんの台所を完全に掌握できたとき、私の勝ちは揺るがないものになるはずである。






「で、結局今日はそれをやるの?」

「そのつもり」


 朝ごはんにトーストとベーコンエッグにミニトマトのサラダを作って、それを二人でモグモグしながら、表向きの目的であるゲームの話をした。
 志摩くんと休日を過ごしたいというのは本音だけど、やってみたいゲームがあるというのも、私の偽らざる本音だ。

 今日やりたいと思っているのは、志摩くんが好きなシリーズとしてよく挙げている『メガミンシリーズ』の外伝に位置する作品の、二作目。
『悪魔召喚士、ソウルクラックス』というゲームだ。

 もともとメガミンシリーズは、それを原型にした外伝が多めの作品ではあるけれど、この作品はその中でも割と正統派な外伝で、シリーズ初期のシステムを踏襲しながら、新たな世界観を構築している人気作。
 発売された当初はまだインターネットも広く普及していなかったような時代に、そのインターネットをストーリーの軸においたシナリオが高く評価されたらしい。

 もちろん、メガミンシリーズの流れを組んだ戦闘システムや、出てくる敵を会話で勧誘したり、合成して強化したりといった根強い人気を誇る要素もしっかりしていて評価は高い。
 ストーリー自体も前作との繋がりは匂わせる程度。
 いきなり今作から遊び始めても、何の問題もないと太鼓判を押される出来らしい。


「だからいつかやりたいとは思ってたんだけど、やっぱりメガミンシリーズって難しいというか、ちょっと骨太なところがあると思うから、まとまった時間が取れそうになるまで我慢しててね」

「茉莉ちゃんが結構真剣に楽しみにしてたのは分かったから」


 と、私が次にやるゲームとして選んだ理由を解説していると、志摩くんは興奮する妹を宥めるみたいな優しげな顔をしているのだった。
 そこはまだ、自分が女性として全く認識されていない現実を突きつけられるようで、悔しい。





 ゲームを始めると、最初のチュートリアルは長めだった。
 登場人物の軽い紹介、主人公の名前を決めて、主人公がよくつるんでいるハッカー集団の紹介も入る。
 インターネットを題材にしている以上、それに関わって来るハッカー集団が出て来るのは当然といえば当然かもしれない。
 私は登場人物を流し見して、感想をこぼす。


「このリーダーの人は、ちょっと好きかなぁ」

「えっ、あっ」

「あっ?」


 思わず、といった調子で声を漏らした志摩くんの顔をじっと見つめる。
 志摩くんは、そっと目を逸らしてから言った。


「……いや、なんでもないよ」

「なんでもなくない言い方だったよね?! え、じゃあこの人、もしかして」

「な、なんでもないよ」

「なんでもなくないでしょ!」


 その下手な誤魔化しで、分かってしまった。


「絶対この人、ストーリーの途中で死ぬんでしょそれ!」

「いや、それは、進めてみないとなんとも」


 と、志摩くんは私に目を合わせないまま言うが、もう遅いのだ。
 自分でもちょっと自覚はある。
 私がゲームとか漫画で、ちょっと良いなって思ったキャラは、よく死ぬのだ。

 自分でもなんでそうなるのかは分からない。
 どこか死の影をまとった人に惹かれるかのごとく、その的中率は高い。
 だいたい、三人に二人くらいは死ぬ。


「志摩くん、ネタバレ禁止だからね」

「ネタバレしたつもりはないんだけどな」

「…………」

「ごめんって」


 私は志摩くんに恋をしているが、それとこれとは話は別だ。
 ゲームを純粋に楽しむためにも、ネタバレはなしだ。

 それから少し進めていくと、主人公の幼馴染が悪魔と融合してしまったり、敵との初めての戦闘があったりとゲームは進んでいく。
 実を言うと、私はメガミンシリーズらしいメガミンシリーズを遊ぶのは、これが初めてだったりする。

 同じ会社が作っている、登場する敵なんかが共通しているゲームは遊んだことがあるのだが、それとこのゲームでは結構システムに違いもあるみたいで。
 知っている顔もいれば知らない顔もいる戦闘に、私は次第に引き込まれていく。

 ただ、やはりというべきか、そのゲームバランスはややシビアだ。
 容赦なく湧いて来る敵に、バックアタックから壊滅寸前になる戦闘。
 近代的なダンジョンと不気味な敵の数々は、適度な緊張感を与えてくれる。
 こういう、ある種理不尽なところも含めて、レトロゲームは面白い。


「志摩くん」

「なに?」

「こいつの弱点は、なに?」

「ネタバレは禁止のはずじゃ」

「戦闘のアドバイスはネタバレに含まないの」


 そして、ピンチに陥った時にはこうしてヘルプ機能まで搭載されているのだ。

 昔のゲームはどうしても攻略情報に乏しかったり、はたまた詳しすぎて先のネタバレまで意図せずに知ってしまったりという問題がある。
 その点、志摩くんであれば私が求めた情報だけ出してくれるし、私が本当に困っていたら都度ヒントもくれる。
 その絶妙なバランスが、私のゲーム体験をより豊かなものにしてくれていた。

 私ばかりプレイしていて退屈じゃないかと聞いてみたこともあるが『人がプレイしているのを見るのも好き』と言って、優しく微笑んでくれたのを覚えている。

 そう言うところが、私には心地よくて。
 そして、誰にも渡したくないと心から思わされてしまうのだ。

 もしこれが表に出れば、きっと私なんかよりも志摩くんのほうがよっぽどモテるだろうに、世の女性は見る目がない。
 もっとレトロゲームに興味を持てば、この優しさを見逃すはずもないのに。

 そう思いながら、HP満タンの状態でエンカウントした知らない敵にとりあえず一斉攻撃を命じる。


「あっ」


 私の選択を見送ってから、志摩くんが声を上げる。
 えっと、なに?


「あって??」

「そいつら、物理反射」

「先に言ってよ!」


 そして、自分たちの攻撃が面白いくらい跳ね返ってきて、私のパーティは一瞬にして大ピンチを迎えた。

 訂正します。
 優しくはあるけど、少しだけ、気が利かなくてむかつくかもしれません。

3件のコメント

  • PS版なら生き残る目もあるから…(震え)
  • 死の影をまとった人に惹かれる(真顔)
  • 死の影、志摩くんヤバい、ヤバくない?
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