今回は、本作の根幹にある「妙見信仰」について、少しだけお話ししようと思います。
学術的に見る妙見信仰、動かぬ星への帰依
妙見信仰とは、一言で言えば「北極星(北辰)と北斗七星」を神格化した信仰です。
古来、星々は天を巡りますが、北極星だけは常に同じ場所に留まり、全天の中心として輝き続けます。その「動かぬ様」から、宇宙の摂理を司る最高神、あるいは旅人の道標(北辰妙見菩薩)として崇められてきました。
特に本作の舞台とも縁が深い、関東の覇者・千葉氏は、この妙見菩薩を武運の守護神として篤く信仰していました。湊が持つ「月星紋」は、まさにその信仰の象徴。三日月の中に星を抱くデザインは、宇宙のエネルギーそのものを図案化したものと言われています。
モチーフへの落とし込み、なぜ湊は「調律者」なのか
この「不動の中心」という概念を、本作では「事象を確定させる力」として再解釈しました。
葛葉 湊(北極星):あらゆる可能性が揺らぐ中で、唯一「正しい解」を指し示す不動の座標。
神代 暦(観測者):その座標を見つけ出し、ピントを合わせるレンズ。
妙見信仰における「北極星が中心にあり、北斗七星がそれを取り巻いて守護する」という構造は、湊と御影(北斗第一星・貪狼)、そして暦たちの関係性にそのまま反映されています。
物語における「家紋」の意味
本作に登場する家紋は、単なるデザインではなく、その一族が歴史の中で受け継いできた「祈りと業(ごう)の結晶」です。
湊が白亜のハンカチを広げ、月星紋を顕現させる時、それは千年前から続く「星の運行を正す」という役割を現代に再現している瞬間でもあります。
この信仰の対極に位置する「七曜会」が、東京の星の配置を強引に書き換えようとしています。
「不動の北辰」である湊は、失われゆく記憶の中で、最後まで自分自身を繋ぎ止められるのか。
学術的な重みと、現代ファンタジーとしてのケレン味。その融合を楽しんでいただければ幸いです。