いつも『北辰よ忘るるなかれ ─血紋の調律者─』をお読みいただきありがとうございます!
現在、第3巻を執筆中です。(苦戦中、苦笑)
そして土曜のこの時間が大好きです。
今回は少し、取材のこぼれ話を。
第3巻にこんな台詞があります。
「僕は学者です。だからこそ知っている。この街を千年間動かしてきたのは、金でも権力でもなく、祈りの堆積だと」
これは湊が作中で口にする言葉なのですが、この台詞がとても好きです。
民俗学者としての矜持と、調律者としての覚悟が、自然に重なった瞬間だったように思います。
この場面を書くにあたって、改めて大手町の将門塚を訪ねました。ご存知の方も多いかもしれませんが、将門塚は東京のオフィス街の中心に、千年以上にわたって鎮座し続けている史跡です。
関東大震災後の大蔵省庁舎建設時に塚を取り壊そうとしたところ関係者に不幸が相次ぎ、工事が中止されたという逸話が有名ですが、それ以降も移転の計画が浮かぶたびに同様の話が繰り返されてきました。
2020年から2021年にかけて再整備工事が行われた際にも、三井不動産はお祓いを行い、塚そのものには手を触れなかったそうです。
千代田区大手町一丁目。三井物産ビルと経団連ビルに囲まれた一角に、それは静かに在ります。丸の内のビル群がすぐそこに見える場所で、花や線香が絶えることなく供えられている。
時々、将門塚を見に行きます。平日の昼休みに、近隣で働く方が手を合わせているのを見かけるたび、湊の言う「祈りの堆積」とは本当にこういうことなのだろうと思います。合理的に説明のつかないものが、それでも千年の間ここに在り続けているという事実。誰に強制されたわけでもなく、人々がこの場所に畏れと敬意を捧げ続けているという事実。
「目に見えない力」は、きっと存在します。それは超常の力というよりも、人々の祈りや畏れが長い時間をかけて積み重なったもの——この物語が描こうとしているのは、その重さと尊さなのかもしれません。