初めての短歌作品集を読んでいただき、またご感想までいただき、心より感謝申し上げます。
この短歌集は、メール整理中に偶然開いたカクヨムの募集告知がきっかけでした。
「夏」や「青春」の明るいイメージが広がるバナーを見た瞬間、高校時代に図書委員として受付に座っていた頃、そんなに本を読んでるのならこれの感想も聞かせて、と自作の小説を見せてきた友人とのやりとりをふと思い出しました。
「この年齢になって“青春”を詠むのはどうなのか?」という迷いと同時に、
「むしろ“終わり”を詠むなら、いまの自分だからこそ書けるのではないか」と考え、
最初の一首が生まれました。
ぐるぐると 渦巻く夏は 冷めやまず
青が隠れて 暗くなるとも
この一首で描いたのは、夏の終わり、青春の終わり、そして残暑に残る熱のぐずるような感情。
続けて、素直な夏のイメージから「ひまわり」も詠んでみようと考え、「ひまわり迷路」で次の一首ができました。
見上げれば そっぽを向いた 黄色だけ
汗をかいても ぎゅっと握って
そこからさらに、「和室」「風鈴」「振り子時計の音」など、帰省や昼寝の記憶を頼りにもう一首。
風鈴も 木々も時計も 赤に消え
畳の跡は 朝か日暮れか
このとき、青・黄・赤と、偶然にも三原色が揃いました。
「10首部門に応募するなら、虹の七色に明・暗の色である白灰黒を足して“10色”にできるのでは?」と思いつき、
「今日中に書き上げなければ冷めてしまう」と自分に期限を課して、6月2日中に一気に書き上げることを決めました。
赤橙黄緑青藍紫白灰黒
それぞれの色からの思いつきと連想の連続で、以下のように短歌として形にしていきました。
緑:野菜、好き嫌い、虫、変化
蛹から 羽ばたく姿は 美しい
葉を食うあなたは ごめんだけれど
藍:愛、ジーンズ、褪せ、家庭
家庭科で 縫ったジーンズエプロンの
色は褪せても 藍褪せぬまま
橙:明かり、豆電球、提灯、お化け、子ども心
提灯も 豆電球さえ 居なくなり
それでもお化けは 舌を出すのか
紫:特別、源氏物語、旅立ち、見守り
どこまでも 強く駆けて行く君を
見失わないための 紫
白:蛍光灯、徹夜、明けていく空、楽しかった記憶、親戚
この部屋は 兄弟従兄弟の 秘密基地
明日になるまで 明るいままで
灰:骨、線香、煙、タバコ、私が生まれるまで吸っていた父、喪失
父の部屋 初めて一本 くゆらせた
私が来てから あなたが去るまで
黒:夜空、星、距離、望遠鏡、覗きこむ、選択
どの星も 覗けば近くに 見えるから
選べたことが 私の答え
色の配列とともに、幼い頃から大人になるまでの時系列的な心の流れも浮かび上がる構成になったのは、偶然というより、書きながら自然と整っていった感覚でした。
タイトルは、「夏」「虹」「明暗」「時間」というモチーフから、「光陰矢の如し」ということわざと結び付けて、
夏の虹 光陰の矢を 放つ弓
と名付けました。
人生の夏の光をプリズム越しに切り取って、短歌として届けられていればと願っています。
拙い初作ですが、自分自身では今とても気に入っている短歌集になりました。
詠んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。