レトは、ソファに座っていた。
背筋はかろうじて伸びている。
目も開いている。
ただし、さっきから一度も焦点が合っていなかった。
「レト、眠い?」
「……」
「本日のレト、応答なし!」
ロジーは頭上のデバイスへ記録を追加した。
レトが待っているドラマの放送開始まで、あと十二分。
録画予約はしてある。
それでも、今日は絶対に放送と同時に見るのだと、朝食の時には言っていた。
いまはもう、その決意を口にする力も残っていない。
戦闘班の模擬戦で張り切りすぎたレトは、昼過ぎから、気を抜けば眠ってしまいそうな様子だった。
「レトー。聞こえてるー?」
「……どらま」
「うん。まだだよ」
「……まつ」
「頑張ってるねえ」
レトのまぶたが、ゆっくり下がる。
閉じきる直前で、また少し持ち上がる。
ロジーはその横顔を眺めてから、テーブルに置いてあった花のシールへ手を伸ばした。
「待ってるあいだ、ちょっと遊んでいい?」
「……」
「返事がないので、遊びまーす!」
黄色い花を一枚。
レトの頬へ、ぺたり。
「かわいい!」
反応はない。
ロジーは青い花を剥がした。
「もう一枚いける?」
「……」
「いける!」
ぺたり。
それでもレトは動かなかった。
頬に花を二つ咲かせたまま、ただ正面を見ている。
ロジーは前髪を整え、髪の先を指へ巻きつけ、両手で頬をむにっと挟んだ。
「レトのお顔、やわらかーい」
「……ろじー」
「おっ。起きた?」
「……どらま、まだ……?」
「あと七分!」
「……うん」
レトは納得したように、小さく瞬いた。
そのまま、ゆっくりと身体が傾く。
こてん。
頭がロジーの肩へ乗った。
「レト?」
「……」
「あと七分だよ?」
「……」
「お花、もう一個貼るよ?」
「……」
「完全に寝た!」
そして七分後。
待ちに待ったドラマのオープニングが流れ始めた。
ロジーは肩へ寄りかかったレトを起こそうとして、やめた。
頬に花を咲かせた寝顔を一枚だけ記録し、音量を小さくする。
「録画してあるから、明日一緒に見ようね」
レトは返事をしなかった。
今度こそ、どう遊んでも起きそうになかった。