お世話になっております。
Pyayumeです。
恋愛管理クズが完結したので、その解説を書きます。
以下は作品の構造や執筆意図についての話になりますので、興味のある方だけお付き合いください。
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■執筆理由
この作品を書こうと思ったきっかけは、「恋愛を最適化したら幸せになれるのか?」という、単純な疑問からでした。
仕事や勉強、ゲームや趣味は、経験を積んで知識を得れば、ある程度再現性を持って上達できます。
失敗したら原因を分析し、改善し、次に活かすもいう繰り返しで、より良い結果に近付いていく。
少なくとも私は、そういう世界に長く触れてきました。
仕事上の対人コミュニケーションですら、PDCAサイクルを回すほうがうまくいくので、これは、恋愛も同じなのか。
経験を積み、相手に合わせ、失敗から学び続ければ、いつか「正解」に辿り着けるのか。
そんな疑問から、本作の主人公である佐藤直樹という人間が生まれました。
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■主人公のキャラクター
まず前提ですが、直樹は、悪人として作ったキャラクターではありません。
むしろ、努力を信じ、失敗を反省し、改善し続ける人間です。
ただ、彼の問題は、人間関係まで「管理対象」として扱ってしまったことだと、私は認識しています。
冒頭で適切な入力をしたはずの【青】と【赤】を比較したところで、彼の中は浮気ではなく差異検証をし始めてしまったのです。
そこから、感情より整合性を優先し、本音より再現性を優先し、相手の思いより一時的な機嫌を優先するようになります。
相手方から見ると、モラルハザードを起こしやすく、行動に一貫性を感じられない人間に見えますが、実は関係性を管理するという部分で常に一貫した行動を取り、状態維持を目論みます。
だから、愛されることと嫌われないことという違いを、彼は最後まで理解できません。
本作は、更生の物語でも、成長物語でも、何かを理解して綺麗に終わる話でもありません。
たとえ欠陥があっても、理解できなくても、自身の特性や歪められた認知は、それを抱えて生きていくしかない。
そういうリアリティを持たせたかったのです。
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■テーマについて
また、本作では「浮気」がテーマではありません。
もちろん、表面的には直樹という浮気をするクズに見えると思います。
ですが、私が書きたかったのは、複数の女性と関係を持つことそのものではありません。
「人間関係を管理できると思った人間が、管理できないものに直面した時、どう壊れるか」、という部分でした。
そのため、関係性崩壊を引き起こすものも修羅場にはしていません。
誰かが復讐する訳でもなく、誰かが糾弾する訳でもなく、悪役も存在しません。
ただ、分散保存されていた情報が自然に統合され、整合性が失われていく。
システムとして見れば当然の結果です。
そして直樹自身も、それを「裏切った報い」ではなく、「管理に失敗した結果」として認識しています。
だから直樹は最後まで、人間関係の破綻として理解できないのです。
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■各章について
各章はCPUに関連する単語で統一しています。
それは恋愛を管理することは、システム化をするということを端的に表現するため、CPUの状態遷移と合わせてストーリーを作りました。
『第一章「プロトタイプ」:試作品』
その名の通り、恋愛経験ゼロの直樹が、恋愛という未知のシステムを動かし始めます。
しかし、プロトタイプの段階で真子《バグ》が混入し、設計不備が生じます。
このバグを取り除くことが出来ず、直樹が崩壊しているまま歪な成長をする切っ掛けになります。
『第二章「エクステンション」:機能拡張』
久美子と真子だけだったシステムが、承認・快楽・新規開拓などを追加して肥大化していきます。
直樹自身は管理能力が成長していると思っていますが、プロトタイプの設計思想が間違った状態で肥大化しています。
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『第三章「マルチサイクル」:複数処理』
マルチサイクルCPUとは、処理を複数に分割して同時実行する効率的な動作を実現したものです。
これにより、複数の女性を同時進行で管理することに成功し、全能感を持ちはじめる時期になります。
ですが、この時点で既に破綻は始まっています。
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『第四章「パイプライン」:連続処理』
パイプライン処理は、現代の高性能CPUの基盤となる仕組みで、複数命令同時実行が可能なものです。
恋人、浮気相手、仕事、ゲーム、嘘、という異なる要素を全てを高速処理することで、直樹の全能感はさらに進みます。
この生活を維持できれば、一番幸せそうに見える時期ですが、少しのエラーで全ての処理に影響が出る一番危険な時期でもあります。
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『第五章「デッドロック」:停止』
複数の処理が完了待ちになり、一度処理が止まってしまう状態です。
全員を管理出来ていいるため、誰も切れない、でも全員を維持したいのような動きになってきます。
その結果、同期会をキャンセルし、【黄】の管理に向かい、【青】の処理に影響が出るというような流れになります。
直樹は「好きだから選ぶ」ではなく、「失いたくないから保持する」という、やはり歪な精神状態になります。
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『第六章「レースコンディション」:競合状態』
複数のスレッドやプロセスが同じデータやリソースに同時にアクセスし、処理の順番やタイミングによって予期せぬバグやデータの破壊が生じる現象で、本作最大のテーマです。
この予期せぬバグの最大要因は【赤】の発言になります。
「私のこと好きじゃないでしょ。……ってか、ヤりたいだけ。」
これは、第一話からずっと仕込もうと思っていた【赤】のバグです。
他の誰でもなく、【赤】に言われるからこそ、直樹のリソースがそこに割かれてしまいます。
そこに、同期一人一人の持っていた記憶が、偶然繋がり、直樹の整合性が完全に崩壊していきます。
人間関係そのものが分散システムだったというのは、どの社会構造でも発生しており、その構造を明示的に描きたくて構成を練りました。
そして章の締めとして、【青】からの通告を置きました。
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『第七章「カーネルパニック」:致命的障害』
致命的なエラーになり、再起動するしか無い状態を指し示します。
直樹は60話から連続で、恋人を失い、理解者を失い、居場所を失います。
しかし完全には壊れず、一番欲しかったものが目の前に現れます。
だからこそ、壊れながらも走り続けてしまいます。
そして、67話から70話は、これまでのタイトルとは違い
【白】い思い出
【白】い予定表
【白】い一張羅
【白】い同窓会
と、「白い」という形容詞にしました。
これは前の色たちは既に人間として存在していることを意味し、【白】が形容詞なのは、まだ実体が無いことを表現しています。
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『最終章「リブート」:再起動』
カーネルパニックの後は再起動するしかありませんが、直樹はプロトタイプを設計した時点でバグを抱えています。
再インストールではありませんので、そのまま再起動しても設計思想が何も変わっていないものが動くだけです。
やはり、管理、改善、最適化ということを、同じように始めてしまいます。
だから、エンディングは希望でも絶望でもなく、「次はもっと上手くやれる気がする」で終わります。
それが本作のアイロニーでした。
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■描きたかったもの
そして、この作品を通して一番書きたかったものは、実は浮気でも恋愛でもありません。
「選ばれたい」という感情です。
前作の刑事モノを書き終えた後の近況ノートで『ハーレムもの』と表記しましたが、ハーレムものとは『多くの人に必要とされたい』という気持ちが顕在化したものだと思っています。
皆に選ばれたい、皆に見て欲しい、皆に存在を認めてほしい、そう思うこと自体は、きっと特別なことではありません。
ただ、その願いを叶える方法として、嫌われない技術ばかりを身につけてしまったらどうなるのか。
その先にあるものを考察・観察・実験してみたかったのです。
それが本作のタイトルにもなっている『恋愛管理』というものでした。
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■ヒロイン像の全体統制について
最初に考えたことは、「恋愛の最適化とは再現可能性である」という直樹の思想を、一目で伝えることでした。
そのため、ヒロインの名前は全員回文にし、それぞれのキャラクターに合った色を与えています。
【赤】小松真子(こまつまこ)
=欲望・渇望・非独占
【青】古見久美子(こみくみこ)
=安心・負債・理解
【黄】那須明日菜(なすあすな)
=承認・依存
【緑】狩野里香(かりのりか)
=共有・救済・癒し
【紫】由布真冬(ゆふまふゆ)
=快楽・軽さ
【白】南奈南(みなみなみ)
=理想・到達不能な選択
と配置しました。
なお、南奈南だけは漢字も読みも回文にして、最後のヒロインらしい異質さを持たせています。
また、色が混ざるほど直樹の中では境界が曖昧になり、
最終的には「誰を愛しているのか」すら分からなくなっていきます。
そのため、あえて色名をサブタイトルに入れていました。
また、恋愛ゲーム的に考えると、青ルート、赤ルートのような形になると思います。
ですが、この作品では、「その瞬間、一緒にいる女性が一番好き」という直樹の性質を前提にしているため、誰が本命なのかを意図的に曖昧にしています。
テーマパークの帰りは里香。
真子と会えば真子。
真冬と遊べば真冬。
その瞬間だけ、本気だからこそ、永遠に満たされない。
そういう構造を目指しました。
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■小松真子《こまつまこ》について
本作のメインヒロインの一人です。
しかし、は最初から、一切変化しないヒロインであり、変化しないことがバグとして機能する設計を決めていました。
久美子、明日菜、里香、真冬、奈南と全員が変化していきますが真子だけは、最初から最後まで変わりません。
ゲームして、泊まって、肌を重ねて、帰るというそれだけの人間です。
だからこそ、周囲が変わっていけばいくほど、その異質さが際立ち、直樹だけが壊れていきます。
真子は救済者でも悪女でもなく、「最初から最後まで同じ距離にいる人」です。
ただ、冴えない直樹に最初に歪さを与える理由が必要と考え、「4年間付き合った彼氏が、離れた瞬間即浮気されて自暴自棄になった。」、「そこから、全てがどうでもいい、楽に生きたい。」と思うようになったという流れです。
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■古見久美子《こみくみこ》について
本作のメインヒロインもう一人は久美子です。
ですが、これは直樹の本命ということではありません。
人生におけるメインのパートナーは、お互いを最もよく理解した人間であることだと、私は考えています。
性的に魅力があるとか、顔か好みだとか、性格が優しいとか、そういうものは判断を鈍らせるノイズです。
自信がが一番欲しい女性と、自身を一番理解してくれている女性は、別人です。
直樹がこのズレを最後まで気づかないことも、外部設計の段階で決めていました。
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■那須明日菜《なすあすな》、狩野里香《かりのりか》、由布真冬《ゆふまふゆ》について
この3人のヒロインは、真子と久美子で埋められない要素をそれぞれに持たせることを考えた結果、生まれました。
異性との付き合いは、お互いに様々な要求を無意識にしていると考えています。
それは、承認・共有・快楽・安心といった、人が異性に無意識に求めるものの総体です。
久美子が安心と理解を担い、真子が欲望や渇望の象徴となった後、直樹の中にはまだ満たされていない要素が残っていました。
明日菜、里香、真冬の3人は、それぞれがその空白を埋めるために設計されています。
明日菜は、「承認」の純化された形です。
彼女は直樹を無条件に肯定し、依存します。
これは直樹にとって最も負荷の低い関係であり、同時に最も空虚な関係でもあります。
明日菜の肯定は本物ですが、直樹はその重さを最後まで理解しません。
だからこそ、作中で最も静かに、最も取り返しのつかない形で傷つけてしまうヒロインになっています。
里香は、5人の中で唯一、直樹の本質を言語化した人物です。
「誰かに必要とされたい人なんだと思う」という彼女の言葉は、直樹が最後まで否定し続けた核心でした。
里香は共感と知性を持ち、直樹と最も対等に近い関係を築きますが、それゆえに距離を置く判断も最も明確です。
作中での里香の役割は、「正しく見えているのに、見ているものを使わない人間」への静かな証言です。
真冬は、関係の純度という意味で、逆説的に最も誠実なヒロインです。
彼女は最初から最後まで、自分が何者で、何を提供し、何を提供しないかを偽りません。
直樹にとって最も「管理しやすい」関係でありながら、だからこそ真冬だけは最後まで直樹を必要としません。
真子と対になる存在として、「軽さ」を体現しながらも、真子とは違い、直樹が依存する方向に意図せず働いていくように設計しました。
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■南奈南《みなみなみ》について
ヒロイン全員の回文を考えたとき、漢字も読みも回文の名前をラスボスにしたいという漠然とした考えがありました。
では、直樹にとってのラスボスとは何か考えた時、変えられない苦い記憶ではないかと思いました。
1話から度々、高校の卒業式での告白という話題を出して来たのは、直樹がどれほど現状を管理しても変えられない過去があること示したかったのです。
そしてこれは、直樹の人生そのものであり、「もしかしたら」の象徴です。
だから色も白にしました。
まだ何色にも染まっていない色であり、変えられない色でもあります。
また、直樹が新しい人生を踏み出した後のコミュニティで出会う【赤】【青】【緑】を混ぜると、【白】になります。
そこから奈南は、未来ではなく、未来の要素を使って直樹が勝手に作り上げた、過去の可能性そのものとして設計しました。
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■同期達について
同期たちは個人として設計せず、役割として設計したため名前を冠していません。
通常のコミュニティであれば、観測者、記録者、関係者、倫理、無関心などのレイヤーがあり、それらが同調圧力を餌に牙をむきます。
誰しもそういった経験があるのではないでしょうか。
そのため、それぞれが持っていた断片的な情報が、最終的に巨大な一人のキャラクターとして扱っています。
コミュニティ内における人間関係はデータベースではなく、分散システムで出来ているというのが私の持論です。
そのため、一人一人が持っている断片的な情報は弱くても、ネットワーク全体で見ると、巨大なログになり、全ての整合性を合わせることは事実を詳らかにすることになります。
直樹は、個人単位では完璧に近い管理をしていましたが、人間関係全体は管理できませんでした。
また、それは管理しようとするのが不可能であることの証明にもなります。
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■佐藤直樹について
主人公の直樹で最後まで貫きたかった部分は、「学習はするが、人間的な成長はしない」ということです。
直樹はヒロインと関わりを持つ中で、多くを学びます。
会話も上手くなり、気遣いも覚え、女性との接し方も知って、性経験も増えます。
ですがそれらは全て、嫌われない方法ばかり学習してしまい、本来の自分の姿を受け入れ、相手の本来の姿を受け入れるという、受容する力は成長しません。
だから最後まで人間関係の本質に辿り着けず、「次はもっと上手くやれる気がする」と、思ったまま終わります。
また、直樹が異常に骨格や関節に性的興奮を覚える描写があります。
これは、人体を『肉=変化するもの(変数)』、『骨=変わらないもの(定数)』として認識していることを表現したものです。
直樹は、何かを評価するときに、変数による評価を嫌います。
私もそうですが、感情より構造を優先したくなる衝動に駆られるタイプの人間です。
その価値観を、性的嗜好にも反映させてみた結果ですので、決して私の趣味を吐露したかった訳ではありません。