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暮地 織人

  • @orito_kurechi
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orito_kurechi
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  • 5日前

    透明なキミが彩づく時 第8.5話:

    佐伯 奏多という人間の性質として、勉強が得意ではない。 厳密に言えば、座学が苦手であった。 更に厳密に言えば、目的意識の不明確な座学が苦手であった。 かと言って、基礎教育である高校においては、その大半が直接目的に即した学習ではない。 自然、他の多くの学生がそうであるように、奏多も次第に目的意識も曖昧になっていった。 それを、得意でない暗記や無理矢理の学習で乗り切るのが、奏多にとっての日常であった。 しかし、それでも学習という行為から逃げるほど不真面目というわけでもなく、結果、苦手な学習を真面目に行って成果を出せない、平凡な学生生活を過ごしていた。 その奏多が、紬との放課後の短い学習で確かな手ごたえを感じていた。 *** ――勉強って、こんなに理解しやすかったっけ? そう思いながら、自分のノートを見る。 一つ一つの項目に対して、回答の方法が即座に思い出せる。 ――やっぱり、如月さんのおかげ、かな? そう思いながら、奏多は紬をみる。 彼女自身、あまり多弁な方ではなく、むしろ言葉が詰まることが多い方だ。 それでも、彼女の指導はとても分かりやすい。 これは単純に、彼女が勉強が出来て成績が良いから、という訳ではないだろう。 ――なんだか、とてもしっくりくる。 そう、奏多は感じていた。 紬の教え方は、それ自体が理路整然としているという以上に、奏多の考え方に『ハマる』気がした。 奏多が手を止めた時にすぐ気付く彼女は、指導以上に奏多の様子をよく観察していた。 その上で、奏多が理解しやすい説明や方法を、意識してか無意識にか、選択しているようであった。 そのおかげで、紬の指導内容が奏多の思考に無理なく入ってくる、そんな気がした。 そんなことを考えていると、紬が奏多を見つめ返してくる。 「どうか…した…?」 そう、不思議そうに、不安そうに尋ねる紬。 奏多は、笑みを浮かべて、大丈夫、と返す。 「なんだか、如月さんの教え方、すごく分かりやすいなって思って」 そう言った奏多の言葉に、恥ずかしそうに、そんなことないよ、と紬は返した。 「こうして、誰かと勉強するの…久しぶり、だし…」 「上手く、説明できてなかったら…ごめんね…」 紬が的外れに謙遜するのを聞いて、奏多は「そんなことないよ!」と強く答えた。 「如月さんのおかげで、今日の勉強はすごく理解しやすかった」 「これからも、ずっと続けたいくらいに」 真剣なまなざしで言った奏多を見て、紬は少しだけ安心したような表情をする。 「それなら…うれしい…」 そんな様子を見た奏多は思った。 ――如月さんはこんなにもしっかりとしているのに、どうして自己評価がこんなに低いのだろうか。 ――もっと、自分に自信を持ってほしい。 テスト前の貴重な時間を、自分の為に費やしてくれる紬に、何かお返し出来ないか。 奏多は自然とそう考え始めていた。
  • 4月15日

    透明なキミが彩づく時 第7.5話:

    「なぁ、奏多」 「ん?」 午前中、授業の合間の休み時間。 陽介は前の席に座る奏多に、唐突に話しかけた。 「なんかいい事あっただろ?」 「んぐっ!」 いきなり図星を突かれた奏多は喉の奥から変な音を鳴らしてしまう。 「ほほーん?心当たりアリアリって感じだな?」 奏多が振り向くと、ニタァと笑った陽介が奏多を舐めるように覗き込んでいた。 「お前っ!カマかけたな!?」 「そうでもしないと尻尾を出さないからな!」 そう言いながら、陽介が奏多にアームロックを仕掛ける。 「さぁ白状して言うんだ!」 「嫌だッ!お前にバレたらどこに情報が流れるか分かったもんじゃない!」 「無二の親友に向かってそれか!?」 「無二の親友だから手口がお見通しなんだよ!!」 どうにかアームロックから逃れた奏多は、陽介の手を取りレスリングのように取っ組み合いとなる。 「おっ?何だ何だ?」 「また取っ組み合いか?」 「なんだか分からんけどやれやれー!」 奏多と陽介を見た、田中、鈴木、秋山の友人グループが遠巻きにヤジを飛ばし始める。 *** その様子を、紬は遠巻きに見ていた。 自分と話す時は穏やかな口調の奏多が、全く別人のように話している。 「如月さーん、次のグループ課題ついてなんだけど…」 奏多と陽介の様子を眺めていた紬に、田辺 舞(たなべ まい)が話しかけてくる。 田辺はその持ち前の明るい性格から、分け隔てなく他人と接する事ができる。 その為、田辺は教室内で紬に話しかける、数少ないクラスメイトだった。 「あっ、またやってるよね、あの二人ー」 そう言いながら、田辺は呆れ半分に笑う。 「そう、だね……」 紬はそう答える。気さくに話しかけてくれる田辺ではあるものの、気心知れた仲というには程遠い。他のクラスメイトと同様に少しだけ言葉に詰まってしまう。 「あの二人、小学校からの仲だっけ?うるさいのはともかく、私もあんな友達いたらなってー思っちゃうね」 「そう、なの…?」 珍しく紬から話しかけられた田辺は「ん?」と反応した。 「そうだよー。仲良しを通り越して以心伝心?みたいな。憧れちゃうじゃん?」 「そっか…」 紬はそう答えた。 結局、奏多と陽介の大騒ぎは授業開始まで続き、 「そこー。イチャついてないで授業始めるぞー」 授業しに来た、やる気なさ気な教師の言葉で、二人は大騒ぎを止めたのであった。 *** 昼休み、居場所を求めて学食に向かう最中。 横を歩く紬が、奏多に言った。 「佐伯くん、」 「陽介くんと…仲、良いよね…」 「まぁ、昔からの腐れ縁だからね」 「……」 紬はその返答にやや不満げな顔をする。 「私といるより、楽しそう、だった…」 ――わたしも、いつかはあんな風に話せる日が来るのかな… 紬は不安と期待を感じつつ、あえて素っ気ない態度を取ってみせる。 「あ、あれは違ってね!ちょっと、聞いてよ如月さん!」 その様子を見た奏多が慌てて弁明をするが、紬はあえて聞かないふりをしてみた。 そんな奏多の様子を見た、紬は少しだけ楽しさも感じ始めていた。 ――学食に着くまでは、このままにしておこうかな そんな意地悪な考えをしつつ、二人は学食に向かっていく。 こうして、二人の恋人関係、第一日目の昼は賑やかに過ぎていくのであった。
  • 4月12日

    透明なキミが彩づく時 第6.5話:

    夕暮れの空き教室を後にした奏多と紬は、家路についていた。 薄暗くなり、道をゆく車にはヘッドライトが灯り始める。 歩道を共に歩く奏多と紬に会話はない。 ついさっき、お互いの気持ちを確かめあった。 お互いがお互いを受け入れる心積もりが出来ているのは、よくわかっている。 しかし、だからといって突然馴れ馴れしくも出来ない。 結果、付かず離れず、よそよそしい。 そんな微妙な距離感を二人は持て余していた。 先程まで、しっかりと繋がれていた手も、今は離れてしまっている。 ――もう一度、手を繋ぐべきなのだろうか。 奏多がそんな事を考えていると、横を歩いていた紬がクスクスと笑い出す。 「えっ、どうかした?」 尋ねた奏多に、紬はあっ、と口を手で覆う。 「あ、ご、ごめんなさい…」 「佐伯くんの、手……面白くて……」 そう謝ったかと思いきや、紬は再び思い出したかのように笑い始めた。 「手?」 奏多は自分の手を眺めるが、特に異常はない。 不思議そうに自分の手を眺める奏多に、紬は自分の手を目の高さまで上げた。 「あのね…、こんな感じに…なってたよ……」 そう言って、紬は自分の手を開いたり閉じたりした。 まるで、ジャンケンのグーとパーを交互にするようなジェスチャーだった。 「えっ、そんなことしてた?」 「うん」 ――気付かなかった。 ――考え事をしながら、そんな事をしていたのか。 奏多は、改めて自分の手を眺めた。 「もしかして…手、繋ぎたかった…?」 奏多は手のひら越しに、紬がそう言うのを見た。 「あ、いや、そういうんじゃなくて……」 「その、そういう関係なら、手を繋ぐべきかなって」 「そう思ったんだ…」 奏多は、言いながら段々と自分の言い分が情けないように感じ、段々と語尾が小さくなっていった。 「……そっか」 そう呟いた紬は、そっと自分の右手を差し出した。 「えっ?」 奏多は、差し出された紬の手を見て驚く。 「わたしも、恋人同士、どうすればいいか、まだ分からない…」 「……でも、これくらいは、いいんじゃないかな…?」 そう言って、紬は優しく笑った。 その笑顔に、奏多は少しだけホッとした。 彼女は、ちゃんと自分を受け入れる準備ができているのだ、と。 「それじゃ…」 そう言って、差し出された紬の右手に自分の左手を添える。 「これじゃ、まるで逆だね」 そう言って、奏多が笑う。 「あ、そうかも……」 紬も、釣られて笑う。 「次は、ちゃんとエスコート出来るように頑張るよ」 「うん、その時は…よろしくお願いします…」 それだけ言葉を交わして、 お互いの手を、しっかりと握り、 二人は家路に再びついた。
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  • 4月8日

    透明なキミが彩づく時 第5.5話:

    「如月さんって、お茶好きなの?」 夕焼けに染まりつつある空き教室で、奏多は紬が飲む緑茶を見て質問する。 「うん…苦いけど、ほんのり…甘いのが、好き、かな…」 「佐伯くんは、コーヒー……好きなの?」 奏多が買ったパックのコーヒー牛乳を見て言った。 「そうだね、こういう甘いのも好きだけど、ブラックでも良く飲むよ」 その答えに、紬は少しだけ驚く。 「ブラックコーヒー、飲めるの…?……大人、だね……」 その反応に、奏多は少しだけ照れくさそうに答える。 「ウチで割と皆飲んでたから、かな?」 「……私には、無理そう」 「まぁ、慣れないとね。俺もエスプレッソまで行くと流石に飲めないよ」 エスプレッソ、と聞いた紬が、どの程度を想像したのだろうか。とても苦そうな顔をした。 想像の味を押し流すためだろう、お茶を一口飲む。 その表情を見た奏多は、話題を変えることにした。 「そういえば、知ってる?」 「和菓子とコーヒーって意外と合うんだって」 その言葉に、紬はキョトンとする。 「合うの…?」 「和菓子と、コーヒー…」 その言葉に手応えを感じた奏多は言葉を続ける。 「これが不思議でね。なんでだろう」 「不思議…だね…」 「今度持ってこようか、和菓子」 「……え?」 紬は再び、キョトンとした顔をする。 奏多は、そんな紬の表情が意外と気に入り始めていた。 「いや、お茶請けにどうかなって」 「でも、和菓子って高いんじゃ…」 「安いものもあるよ、お団子とか手軽なのもあるし」 その言葉を聞いて、紬は少しだけ考え、 「……そっか」 「それなら……私も、試してみたい…かも…」 そう、紬らしく控えめに答えた。 その言葉に奏多は喜ぶ。 「分かった。それじゃ、次回は和菓子、お茶、コーヒーのテイスティング会だね」 「うん……楽しみ……」 紬も、控えめの笑みで答えた。 奏多と紬の空き教室での時間は、こうして、ゆっくりと流れるように過ぎていった。
  • 4月4日

    透明なキミが彩づく時 第4.5話:

    「ありゃ?奏多もう帰ったのか?」 奏多が紬と共に教室を出ていった直後、陽介は普段奏多と共につるんでいるクラスメイト、田中、鈴木、秋山に話しかける。 「そういえば気付いたらいなくなってたな」 「アイツにしては珍しい…」 田中と鈴木が頭を傾げる。 「まぁ、アイツの事だからなんかしら理由があるんだろ?明日聞けばいいだろうよ」 秋山が言うが、それで納得しないのが陽介だった。 「いーや、アイツが隠し事するときは何かしらデカい話がある。絶対に面白い話に違いない」 陽介が鼻息荒く宣言する。 「出た、パパラッチ志望」 「ジャーナリスト志望だっ!」 田中の言葉に即座に反論する陽介。 「あんま詮索し過ぎるなよ?無二の親友だろ、お前ら」 「俺ら高校1年だぞ?浮いた話の一つくらいあってもおかしくないって」 「まぁそうだよな。そうなんだけど……」 田中、鈴木、秋山の語尾が小さくなっていく。 真面目に部活動をしていても女気のなさ故に、そういった出会いが全くないのが三人の悩みの種だった。 「あっはっは!お前らには関係ない話だな!」 「「「 お 前 が 言 う な !」」」 三人が揃って、陽介にツッコミを入れる。 年末が見え始めた11月の半ば。 クリスマスも間近に感じられ始めた中で、4人の男子の青春は良くも悪くも平穏無事に過ぎていくのであった。
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  • 4月2日

    透明なキミが彩づく時 第3.5話:

    奏多と書店で初めて会話を交わしたその日の夜、興奮冷めやらぬまま眠りについた紬は、夢を見た。 自分は正方形のテーブル席に座っている。 椅子はフカフカのソファーのようなもの。 テーブルの上には控えめなポップと呼び出しボタン。 どこかのファミレスのようだった。 「………」 横を見ると、長テーブルに何人かの男女が楽しそうに過ごしている。 何人かは見覚えがあるクラスメイト達だった。 騒がしいはずなのに、彼らの声も、喧噪も、全く聞こえない。 ――あぁ、これは夢だ。 紬は理解した。 そもそも、自分がこういった集まりに参加すること自体が非現実的だ。 そう思いながら、目の前にいつの間にかあった温かいお茶を飲む。 自分の好みの味だった。 そして、対面する席に人影。 佐伯 奏多。 彼は座って紬を静かに見ている。 ――ほら、やっぱり夢だ。 あまりにも、都合が良すぎる。 意識ではそう思いながら、しかし身体は彼との会話を始める。 彼も、何かを話しているが、会話が聞こえてこない。 ただ、自分が彼との会話で笑っているのだけは感じられた。 誰かとの会話で笑うなど、最近では家族以外ではほとんどない。 しかし、何か言った自分の言葉に、楽しそうに返す奏多を見るのは、悪くはない。 むしろ、 ――こういう風に彼と話ができたらな。 紬は、率直にそう思った。 そうしていると、次第に視界が白く霞んでいく。 目覚めの時間なのだろう、 紬はなんとなく察した。 紬は、目覚めた後まで夢を覚えていることはほとんどない。 この夢も、忘れてしまうだろう。 ひと時でも、夢の中だったとしてもいい。 誰かと一緒に笑いあえたという、この情景を覚えていたい。 紬は、強くそう願った。 *** まどろみの中で、紬は目を覚ました。 身体を起こす。 11月の朝の冷たい空気が容赦なく、紬の身体を刺す。 のそのそとベッドを出て、窓を覆ったカーテンを開く。 起床時のいつもの流れ。 窓から朝日が部屋を明るく照らす。 ベッドに戻り、枕もとのスマホを手に取る。 画面を付けると、寝る前まで開いていたチャットアプリの画面がそのまま表示された。 画面上の『佐伯 奏多』の名前。 それを見て、何かを思い出しそうになるが、上手く思い出せない。 ただ、 ――今日も、話せるといいな。 窓越しに、青く晴れた空を見ながら、紬はそう思った。
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