<はじめに>
点数は5点から加点、減点をしていく方式でつけました。
<総じて>
まず、今回の戦いは祐里さんの勝ちでした。
鷹さんの問題としては、まず会話文、次に、示唆に富んだテーマを活かしきれないところ、あとは命題に対する結論の弱さだと思います。しかしながら、物語の回し方に鷹さんなりのユーモアが感じられて、一読者としてはすごく楽しめました。
祐里さんは、文章や構成の面について、文字数を考慮してもかなり高い水準でまとまっていたのかなと思います。セリフ面が少し心配でした。祐里さんの作風と今回のテーマはかなり難しい組み合わせだったと思いますが、テーマを主体にすることはせず、物語の小道具に落としたうえで、自分の語りたいことを展開しているように見えました。ですが、個人的には示唆に富んだテーマについて、示唆に富んだ使い方をしてほしかったです。
その点について言えば、鷹さんの勇気ある踏み込みはとても価値があるものだったと思います。
<陽だまりに咲こう。 鷹仁(たかひとし)>
https://kakuyomu.jp/works/2912051597306658415
僕的に題の句点がむちゃくちゃ気になったのですが、全ての作品につけているようでしたので触れるだけにしておきます。題名は興味を惹かれました。「咲こう」のリズムが好きです。母音がくっついてるので「さこう」ではなく「さこー」と脳内再生しますから七音で、気持ちよくなれました。
中身に入りますが、前提として、視点人物である男はある程度社会規範に則った存在として描かれています。ついでに言えば、少し保守的な匂いもします。その男に対して、正反対の女性、つまり社会規範より逸脱した・ラディカルな人物像が割り込むわけですから、ここには当然、カルチャーショックが起こります。この困惑を物語の真ん中に据えても面白いかなと思いましたが、今回はそこを乗り越えて、ある程度順応した二人の話です。順応したからこそはっきりとお互いの輪郭が見えてくるものなのかもしれません。二人の差はどうやっても埋まりませんから、男はそこに不安を感じます。紗也を「変な子」と捉えることでその差を肯定的なものとしてみなしているけれど、相手側から見ればどうだろう。
「俺はつまらない男で、いずれ沙也に飽きられるんじゃないのか?」
とあるように、自分に自信がなくなっているようです。
でも、ラストできちんと肯定されます。
「『楽しんでますよ。確かにあなたはおもしろくないけど――』
(中略)
『――私はおもしろがってます』」
いいですね。
順当なストーリー構成だと思います。構成は5点から2点加点の7点、しかしカルチャーショック型としては少しありふれているかもしれない、ということで1点減点をし、計6点をつけさせていただきました。
さて、順番が前後しましたがセリフは3点とさせていただきました。鷹さんは全てのテーマをセリフに振っているようなので、点数はテーマをどれほどいかせているかに直結すると考え、テーマの盛り込まれた文章を基軸に見ています。後半がかなり良かったのです。ですが、桶屋という職を前半で開示したのにどこにも出てこないところ。(一点)ひじきの流れを、わけわかんなくするのはいいけれど流石に不自然すぎるところ、舞台とミスマッチしているところ。(二点)あと、桶屋なのに
「綺麗なオフィスで働くOLと、モルタル塗れの俺……」
と言われて、一瞬フリーズしました。そこで遡ってみると
「『俺さ、桶屋になったんだ。全然儲からない』
俺は左官屋で、沙也は日本橋で事務員をしていた。」
という一節があるんですね。桶屋なのか左官屋なのか、どっちなんだい!!!
ということで、ここも一点の減点とさせていただきました。
全体にテーマに振り回されている感じが否めませんでした。それぞれが示唆の富んだテーマなので、無理に複数個入れなくとも、一個に注力する形で良かったかもしれません。「『楽しんでますよ。確かにあなたはおもしろくないけど――』」のところは完全に物語に即したセリフですので、そこに持っていく流れで勝負、というのも全然いいと思います。直感に従いセリフは1点、しかしながらテーマに向き合おうという強い意気込みを感じたので2点加点で3点にしました。口語の、雰囲気も温度感も違うテーマを三つ盛り込むだけで相当大変な作業だったと思います。テーマ作成者も同じストーリーで複数個テーマを盛り込むことは考えてなかったのかもしれません。
最後に読後ですが、先ほど構成の面で言ったようにかなり流れがストレートに見えました。冒頭の「結論が弱い」と言った部分にも通じるのですが、二人の差を乗り越える物語であれば女性が一方的に受容して、男の側もそれに甘えておしまいはご都合主義っぽく見えました。でも、ラストの会話シーンがかなりお気に入りで、
「 皿にこびりついたソースと、米粒一つない二つのお椀に、陽だまりが落ちた。」
という情景描写も解釈のしがいがあります。それに「陽だまりに咲こう。」という題の伏線回収を乱暴に行わなかったことも好印象でした。文字数に対して窮屈な感じがせず、無理をしない、いいしめかただったと思います。ピーク・エンドの法則じゃありませんけど、締め方が綺麗だと読後もかなり気持ちの良いものになるので。前半辛口にした分、本当なら8点くらいあげてもいいかなと思いましたが、やはり与えられた命題に対して、解決の方法が少し納得がいかないところがあったので(でも文字数の関係上仕方なかったと思うので)1点減点で7点としました。
ということで、点数は
セリフ 3点
構成 6点
読後 7点
計16点
<黒蘭 祐里>
https://kakuyomu.jp/works/2912051597210966532
題名が情報量の少ない感じで、ハッピーエンドかバットエンドか、鷹さんの作品はハッピーかなと予想できるけれどこっちは予測できない。だけれど黒蘭という植物を調べるとかなり毒々しげな蘭が出てくる。ちょっと不安な気持ちで読み進めました。
台詞回しに最初に触れようと思います。テーマ文は、こちらの作品もセリフを中心に盛り込まれていますが、テーマ文付近が少し不自然な仕上がりになっているように思いました。
①「金、助かってるよ。銀行から借りるなんて無理だし」
「何が」
「俺さ、桶屋になったんだ。全然儲からない」
→銀行からお金借りるなんて無理だし、のあとに、何が、と聞くのは若干あれかなと思ったとか、でも読んでてたいして気にならない違和感だと思います。
②「は、悪魔、ですか」
俺の呟きに、神がどうのとか、声がする。この期に及んで、神。
「神はいますよ。でもあなたのことはどうでもいいとおしゃっています。誓って」
→こんな小洒落たことをこいつは言わない!多分!
全体の印象としては現実に即して、というより、物語的な言い回しが多用されているイメージです。4点くらいが体感でした。ですが、セリフの中に盛り込まれた「それっぽい」雰囲気や、「クスリ」のルビに「お菓子」と振っているところ。あとは桶屋、オバケ屋。いわば用語を使っている訳で、かっこいいです。多いかなとも思いましたが、鷹さんときちんと差をつける意味でも、2点加点の6点としました。
構成。7点としました。7は高いかなと思いましたが、鷹さんに6をつけたのであれば鷹さん基準で見て、7です。コンパクトにまとまっていて、「用語」をきちんと扱えていて、店から出たら殴っていいという暗黙のルールがある。「ブラック・オーキッドのオードトワレ」という表現もかっこいいです。匂いという五感を通して、きちんと夜の街のイメージが反映されています。(ここについては後でまた詳しく語ります)8くらいつけていいかも、というか満点でいいかもという感じはします。が、視点主体があまり人物として像を結びませんでした。弱気な感じにも見えるし怒りに駆られているようにも見える。序盤の「俺さ、桶屋になったんだ。全然儲からない」の部分、お母さんとの会話シーンでこんな弱気になるのかなと思いました。これはセリフの点で減点したのですが、構成の点でも、人物が像を結ばないのは私としては怖いので、ちょっぴり減点です。あと、愛人になるにあたって子供を捨てるという、なんとも酷いことをしてくる母親がお金をくれるのかどうか、という部分も少し疑問で、そう考えると現実的にこのお話が立脚するのかどうか、何か揉め事が起きると店員が外に逃げて呼びに来て、それを聞いて桶屋が来て、果たして、それで本当に間に合うのか。物語としての物語ですから、割り切って仕舞えば良いのですが、ちょっと疑問もあったのであまり高得点にはしませんでした。ですが用語の扱い方、桶の部分でかなり高得点をつけたつもりなので、計7点です。
読後。ラストの、行間を無理やり読ませる感じというか、巻き上げ方が個人的に嫌いだったので6点です。鷹さんと同じくらいの7で全く問題はないのですが、(冒頭に示した通り、テーマをセリフに入れ込むところ以外、全部綺麗にまとまっていたのかなと思います)ただ、何を言いたいのかという結論がもやがかかっているように見えました。現実逃避としての恋愛、母に捨てられ、守ることを放棄された上で自分が何かを守る訳ですから、かなり綺麗な話です。でも物語の主眼は夜の街な訳ですから、そんな作為的な結論に落ち着かなくても、汚くても良いんじゃないかなと思いました。自己嫌悪とかもっと母親に対する憎悪を、ラストだけではなく全体に散りばめたら読後がグッと良くなるのかと思います。
なので祐里さんの点数は
セリフ 6点
構成 7点
読後 6点
計19点
としました。
<さいごに>
細かい文章の面について、選考基準にはありませんでしたが、情景描写はお二人ともかなりしっかりしている印象でした。鷹さんは
「風にそよぐカーテンを通して、近くの幼稚園から猫ふんじゃったが流れてきた。先生のピアノに合わせて、園児たちの甲高い声が時折ズレながら聞こえてくる。」
の部分がお気に入りです。登場人物の体験に即した順番が上手いと感じました。
また、祐里さんの匂いを小道具に使った情景描写。単体ではなく物語を通して女という存在の象徴、夜の街の象徴として機能している気がします。タバコの煙もそうです。空気の澱んだ感じ、空気の甘ったるい感じを高水準で再現するために、匂いや煙をもちだす。すごくいい作り方だと思いました。
あと、今回は鷹さんの作品を下につけることになってしまいましたが、どちらが良いか、ではなくどちらが好きか、で言えば鷹さんです。テーマとしっかり向き合っている気がしました。
ひじきを使ったのがかなり勇気があると思います。
最後になりますが、どちらの作品も素晴らしかったです。審査はかなり僕の主観によってるので、点数を正確につけるというよりは二つの作品を差別化する方に意識を向けました。16と19という点差はかなりビミョいかもしれませんが。
選評を書いてる途中で、考えすぎて無量空処に陥ってる箇所があります。不可解な点・不快な点・誤字脱字などありましたらお伝えください。近況ノートは何日か残す予定ですが、いずれ消すと思います。なので、作品の感想の欄にコメントとして残させていただこうと思います。(応援コメントに悪いことを書いても仕方ないので、お二人の作品の、それぞれ良かった部分について書かせていただきます)
以上!
長文を読んでくださりありがとうございました!