https://kakuyomu.jp/works/2912051597545702139/episodes/2912051598319502719
『いつもの、ふたり』の新しいエピソードを出すことが出来ました。その中で中学時代の美紅がどんな子だったか、興味を持たれた方もおられるかと思います。
そこで、こんな事もあったかもしれないというお話をお出ししたいと思います。
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放課後の廊下は、部活に向かう生徒たちの声でざわざわしていた。
その中を、美紅は教科書を胸に抱えたまま、ゆっくり歩いていた。
歩幅が小さいのは、考えごとをしているときの癖だ。
「……また何かあったでしょ」
背後から声がして、美紅は振り返る。
なっちゃんが、肩にカバンを引っかけたまま近づいてきた。
「え、なにもないよぉ」
「その“なにもない”は信用できないって、何年の付き合いだと思ってんの」
なっちゃんはため息をつきながら、美紅の腕を軽く引いた。
ふたりはそのまま昇降口へ向かう。
外は夕方の光が差し込んで、校庭の砂が金色に見えた。
「今日、委員会でさ……」
美紅がぽつりと話し始める。
「うん」
「意見言おうと思ったんだけど、なんか……言えなくて」
「また溜め込んだのね」
「……うん」
なっちゃんは靴を履き替えながら、横目で美紅を見た。
美紅は視線を落としたまま、靴のつま先を揃えている。
「言えばよかったのに。あんたの言うこと、ちゃんと聞く人多いんだから」
「でも……なんか、迷惑かなって」
「迷惑じゃないよ。むしろ言わない方が迷惑」
「……そうかなぁ」
「そうだってば」
なっちゃんは言い切ると、美紅の頭をぽんと軽く叩いた。
美紅は驚いたように目を瞬かせる。
「ほら、帰ろ。コンビニ寄ってアイス買ってあげる」
「え、なんで?」
「元気ないときは甘いもの。昔からでしょ」
「……覚えてたんだ」
「忘れるわけないでしょ」
ふたりは校門を出て、並んで歩き始めた。
夕方の風が少し冷たくて、美紅は袖をぎゅっと握る。
「ねぇ、なっちゃん」
「ん?」
「……ありがとね」
「なに急に」
「なんか、言いたくなっただけ」
なっちゃんは照れ隠しのように鼻を鳴らした。
「言いたくなったときに言いなさいよ。そういうのは」
「うん……」
しばらく沈黙が続く。
でもその沈黙は、気まずさではなく、
ふたりの間に昔からある“安心の沈黙”だった。
コンビニの看板が見えてくると、美紅が小さく笑った。
「チョコミントあるかなぁ」
「あるよ。あんたの好きなやつ、いつも残ってるじゃん」
「なんで?」
「人気ないから」
「ひどい!」
ふたりの笑い声が、夕暮れの道に溶けていく。
この頃からすでに、
なっちゃんは美紅の“気づいてほしいけど言えない気持ち”を
いつも拾い上げていた。
そして美紅は、
なっちゃんの前だけでは、少しだけ弱音を吐けた。
その関係は、変わらないままだった。
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まだまだ物語は続きます。引き続きお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。