私が人魚の話を書こうと思った最初の理由は、
人魚という存在に強く心が惹かれると同時に、
はっきりとした「恐怖」を感じていたからだ。
美しい。
けれど、怖い。
その相反する感情をどうしても手放すことができず、
私は人魚というモチーフに向き合うことになった。
思えば私は、廃墟にも同じ感情を抱いている。
惹かれるのに、怖い。
怖いのに、目を逸らせない。
二つの感情が同時に存在しているからこそ、
強く、深く、心を掴まれてしまう。
人間とは、そういう生き物なのではないだろうか。
――怖いけれど、見たい。
――知りたい。
――たとえ、知ってしまえばもう戻れなくなるとしても。
それがどれほど残酷な真実であったとしても、
その奥に、どこか美しさを見出してしまう。
残酷なまでの、美しさを。
だからこそ人は、
それを知りたいと渇望するのではないか。
私は、そんな感情を書きたかった。
アイルランドの人魚の神話を知り、
この物語を人魚をモチーフにして書こうと決めた。
そして
「瞳の奥をのぞかせて」という一曲との出会いが、
物語をさらに深い場所へ連れていってくれた。
この作品は、
単純なファンタジーでも、
単純な恋愛小説でもないと思っている。
きっと、嫌いだと感じる人もいるだろう。
それでもいい。
どんな作品であれ、
表現することは創作者の自由であるはずだから。
私は、
惹かれることと、恐れること。
愛することと、壊れてしまうこと。
その相反する感情を、
物語という形でひとつにしたかった。
それが
『人魚の瞳』を書いた理由です。