〜集まれ! 加千(かせん)高校!〜
【登場人物紹介】
・吉弥侯部 古志加(きみこべ こじか)
高校一年生。三虎と交際中。レディース『毛牟乃不(もむのふ)』に所属。
・石上 三虎(いそのかみ みとら)
高校三年生。弓道部部長。大川とは幼馴染。古志加と交際中。
・春日部 真比登(かすかべ まひと)
高校三年生。暴走族『建怒朱雀(たけびすざく)』のアタマ。佐久良と交際中。
・長尾 佐久良(ながお さくら)
高校三年生。レディース『毛牟乃不』のアタマ。真比登と交際中。
・若尾ネメ(わかお ねめ)
高校二年生。レディース『毛牟乃不』所属。
・上毛野 大川(かみつけの おおかわ)
高校三年生。生徒会長。日舞の家元の家に生まれた。霞と交際中。あだ名は貴公子。
・白井 霞(しらい かすみ)
22歳。社会人。喫茶店「木蘭の箜篌(くご)」でティーマイスターとして働いている。
* * *
上毛野大川は日舞の家元に生まれた。
自宅は和と洋がミックスされた、大正モダンが香る豪邸である。
ガラス窓はすりガラス、廊下の窓の一部はステンドグラス。歩くと、ぎ、ぎ、と古い木の板がスリッパの下で音をたてるので、廊下全体に毛氈(もうせん)がしかれていた。階段の木の手すりは磨き上げられ、べっ甲のように光っている。
「うわ、貴公子の家、来たのはじめてだけど、すごいところに住んでるなあ。」
一般庶民である真比登は、「うわあ」と気後れした顔できょろきょろした。
「古くて無駄に広いだけだ。」
加千高校生徒会長にして、その艶麗たる美貌が近隣に知れ渡っている大川は、そっけなく返す。
「真比登、廊下に置いてある壺だけじゃなくて、窓にも気をつけろ。窓にはめられてるガラス窓は、明治時代に作られて、今では同じ製法で作ることができない貴重なガラスだ。」
大川の幼馴染である三虎が、無表情に言う。
「三虎、なんでオレが割る前提なんだよ!」
「おまえは怪力だからな。」
「ぐっ。」
たしかに真比登は怪力であった。細い若木なら素手で引っこ抜く事ができるくらいの。おかげで、暴走族『建怒朱雀』のアタマを張ってるし、向かうところ敵無しである。
「弓道部部長、あたしの彼氏をいじめないで。おとなしく良い子にしてるじゃないの。」
弓道部部長である三虎に声をかけたのは、華やかな美貌が目をひく佐久良。
真比登の恋人、加千高校三年生である。艷やかな黒髪をボブにしている。
「…………。」
三虎は無表情のまま、ふいっ、と前をむき、廊下を歩きはじめる。
その右腕に、腕をからませたのは、くるくるの癖っ毛をポニーテールにした高校一年生、古志加だ。
「三虎先輩ったら。アタマの彼氏をいじめちゃ駄目です。アタマに謝ってくださいよぅ。」
目鼻立ちがハッキリとし、目が大きく、胸も大きく、子鹿のようにハツラツとした少女だ。甘えた声で三虎をいさめる。
三虎は、ちら、と恋人である古志加を見たが、無言で前をむく。
「んもぅっ。」
古志加はぷっ、と頬をふくらませたあと、目で、佐久良に、───ごめんなさい、と謝る視線を寄越す。
「アタマ?」
大川の恋人、社会人である白井霞がちょこん、と首をかしげる。
落ち着いた雰囲気の、優しい女性だ。茶色いロングヘアを綺麗に結い上げ、バレッタで留めている。白のブラウスにモカブラウンのロングスカート。清楚な出で立ちで、それがまた良く似合う。
「佐久良姐さんは、レディース『毛牟乃不』のアタマなんです。美人でかっこよくて、面倒見が良くて。あたし、アタマに憧れてるんです!」
古志加は弾けるように笑い、霞と佐久良と、その後ろを歩く小柄な少女に、「ね?」と目配せする。
「わかるわ古志加! あたしも佐久良姐さんに憧れてる一人よ。佐久良姐さんは強くて、怒ると誰も手がつけられない、鬼の佐久良、と皆から恐れられて……。」
小柄でそばかすのある少女、若尾ネメが、くりっとした目を輝かせながら答えるが、どうやら口が滑ったらしい。
「ネメ〜〜? 初対面の白井さんに、そこまで言わなくていいのよーぉ?」
匂い立つように美しい佐久良が、ぴき、と青筋をたてながら笑った。
「ひぃ。」
ネメは口を閉じる。ネメは高校二年生、レディース『毛牟乃不』に所属している。佐久良が大好きで、いつも佐久良のあとを追いかけている。
「おーくん、楽しいお友達がいっぱいね?」
霞がおだやかに笑いつつ、恋人に話しかけると……。
「おーくん。」
「おーくんだって。」
「貴公子を、おーくん……。」
ネメ、古志加、佐久良がざわついた。
生徒会長、日舞の跡継ぎ、成績優秀、眉目秀麗。いつも落ち着いていて、貴公子、という時代錯誤なあだ名がスンナリ似合う上毛野大川が、まさか恋人から、おーくん、などという可愛らしい呼び名で呼ばれていようとは。
それが、ここにいる全員の感想であった。ただし、大川の親友である三虎をのぞいて。三虎はすでに、大川がこの呼び名で恋人から呼ばれている事を知っている。
ぴゅう!
真比登がひやかしの口笛をふいて、ニヤニヤした。
それまで澄ましていた大川が、かっ、と顔を赤くした。
「霞さん。その呼び方は、二人きりの時だけ、って言ったじゃないか。」
「あ、ごめんなさい……。」
霞はすまなそうに、口元をおさえた。目で、許して、と大川に訴える。
大川は唇を突き出したまま、黙る。優しく素直な年上の恋人を、大川は強く叱ることができない。そもそも、惚れてるのは大川のほうだ。惚れたら負けなのである。
「おまえら、大川をいじるな!」
三虎が目を吊り上げて怖い顔をする。こちらはこちらで、大川にべったり、大川が大好きな、大川の親友であった。
「ふふん、やる気? タイマン上等。男女平等。いてこましたるわ。」
佐久良の顔色が、すっと冷たくなり、うっすら闘気を立ち昇らせる。
「やめて。」
暴走族のアタマではあるが、普段の性格は穏やかである真比登が、やれやれ顔で恋人を制止する。
【著者より】
タクアンヌを参加させようとしたら、キービィとライスとシャケードとクグロフが、エスコート役をめぐって取っ組み合いの喧嘩を始めたので、タクアンヌの参加は見送りました。
まだ『救世の乙女』読み途中の読者さまがいらっしゃるので、タクアンヌが誰をパートナーに選ぶかは、近況ノートでは明かせないのです。