今朝は雲一つない晴天だった。
空の青さが暴力的ですらある。肺を満たす冷たい大気は、私の内臓の輪郭を浮き彫りにするほど澄んでいた。
世界はあまりに完璧で、私の存在だけが不純物のように思えてくる。
そんな自己否定めいた感傷を振り払うため、私は空腹を言い訳に、散歩コースの角にある牛丼屋の自動ドアをくぐった。
早朝の店内は、深夜勤明けの疲労と、これから始まる労働への諦念が入り混じった、独特の静寂に包まれている。
私は店内に入ると、慣れた手つきで食券機を操作し、朝定食の食券を購う。
視界の端に、一人の老人がいた。古びた灰色のコートを羽織り、セルフサービスの給水機から席へ戻ろうとしているところだった。
その足取りは頼りなく、枯れ木のような指先は、水の入ったコップと、紅生姜の小皿を乗せたトレーの重さに耐えかねて震えている。
何かが起こる予感はあった。しかし、私はただ見ていた。
ガシャン、と硬質な音が店内の空気を切り裂いた。
トレーが傾き、コップが床に叩きつけられ、水と紅生姜が派手な飛沫を上げて散乱する。
「あぁ……」
老人の口から漏れたのは、言葉以前の、あまりに心もとない嘆きだった。
それは失敗への驚きというより、老いという抗いようのない重力に対する、絶望的な降伏宣言のように響いた。
店員が駆け寄り、布巾で床を拭い始める。老人は「申し訳ない...、申し訳ない...」と壊れたラジオのように繰り返し、身を縮こまらせている。
私は胸の奥を素手で握りつぶされたような苦しさを覚えた。
なぜ、手を貸さなかったのか。なぜ、見て見ぬふりをしたのか。あるいは、なぜ今、すぐに立ち上がって「大丈夫ですか」と声をかけないのか。
私の理性は、これが些細な事故であることを知っている。だが、老人のあの「あぁ」という掠れた声が、私の中にある得体の知れない罪悪感を呼び覚ましていた。私は何もしていない。何もしていないからこそ、私は加害者だった。
「ピンポン」
無神経なほど快活な音が店内に響く、私の定食が出来上がった呼び出し音だ。
老人がまだ小さくなっている背後で、自分の定食を取りにいった。この状況で食事を摂るという行為が、ひどく冒涜的に思える。
それでも私は、逃避するように食物を口に運んだ。味はしなかった。ただ、喉を通る固形物が、私の無関心を胃袋へと押し込んでいくような感触だけがあった。
逃げるように食事を終え、店を出る。
自動ドアが開いた瞬間、頭上から容赦のない光が降り注いだ。
眩しさに目を細める。その白日の光は、店内で私が犯した「無作為」という罪を、白日の下に晒そうとしているようだった。影すら許さないような圧倒的な明度が、私の網膜を焼き、肌を刺す。
太陽はどこまでも私を追いかけてきた。それは分かりきったことだった。