短編と言いつつも中編並みのボリュームとなってようやく一つの物語を完結させることができました。
多くの業人文学が人間としての“業人”を描いている一方、拙作は怪異として業人を表現しました。しかし、作中では浜岡順一の正体について核心的な言及を一切せずに物語を畳んでしまったので、あえて補足として物語の背景に考えていた設定をご紹介します。
まず、途中から参戦した炎上系配信者の“鈴原将嗣”が浜岡家と関わる様になって物語は急展開を見せます。浜岡順一から逃げるのか、関わっていくのか、また第三者をどこまで巻き込んでいくか、鈴原の選択によって物語の結末は大きく変わりました。それぞれのルートにおいて、怪異としての浜岡順一の挙動はほぼ同一ですが、その正体は微妙に異なります。
aルートの浜岡順一は、最後にオカルトマニアの考察として紹介した通り、彼我島に従来から存在した“舎夢”が“ 惡腐是露”といった他の怪異と融合してカビを操作し家電製品に影響を与えることができる様になった複合怪異です。当初和美にしか存在を認識されていなかったのは元々の舎夢の性質であり、定期的に和美にカビを取り込ませることで支配下に置いていました。しかし、本来は舎夢は座敷童の様な無害な怪異です。なぜ浜岡順一という自我を持ち、他害性を発揮する様になったのか。“五里峰蒙”により、異世界のナニモノかの記憶と自我が舎夢に植え付けられたのです。aルートの浜岡順一の正体は、多種の怪異の影響を受けて悪性転化した“舎夢”といえます。廃墟となった浜岡邸で、彼は永遠に夢を見るのでしょう。
bルートの浜岡順一は、彼我島に存在した怪異とは全く異なる“電子生命体”です。ネットにしか生きがいを見出せない弱者男性の検索履歴やSNS使用歴を学習したAIから偶然生まれたバグのような存在ですが、現実世界に多大なる悪影響を及ぼすことからミーム災害として認定され隔離対象となりました。某製菓会社による工場内への隔離、その背景にある大規模訴訟などはすべてカバーストーリーであり、製菓会社のバックにある組織、あるいは政府関連組織の主導による措置と考える方が妥当でしょう。浜岡順一を研究して兵器転用する案があるなどとまことしやかに囁かれていますが、真相を知るものはごく一部の人間のみ。ともあれ隔離され保護されて居る限り、浜岡順一が世間に迷惑をかけることはもうないのでしょう。
cルートにおける浜岡順一は、ある意味世界の“神”とも言える存在です。作中世界はなんと、浜岡順一の“核”となった人格人物が理想の家族、理想の世界を夢見た妄想。つまり脳内世界でした。しかし、自分の理想とする幸せな家庭に自分が存在しないという悲劇に直面し、夢の中でも幸せになれないと絶望した順一は、なんとか夢の世界に自分の存在を確立しようとあれこれ画策します。ところが、見当違いな思考による的外れな行動によりすべて逆効果。あげく、夢の中に干渉するために利用していたスマホを破壊され、“真の順一”と作中世界の繋がりは途絶えました。最後に鈴原が垣間見た光景は、現実世界における“真の順一”の末路を予感させるものです。本当に“真の順一”が死んでしまったかはわかりません。鈴原が空想した、ただの幻かもしれない。しかし、“神”との繋がりが絶たれたにしろ、世界を作っていた“神の脳”が死んでしまったにしろ、世界そのものがどうなってしまうのか。それを知るものはもうこの世にはいないでしょう。
ちなみに、aルートの舎夢が吹き込まれた記憶や自我は、このcルートの“真の順一”のものです。
以上、世界観、背景についての補足でした。ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございました。
ペニーワイズ金原