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『やわチャラ』 第3話 女の子なんだから 試し読み

 ガサ、ガサ、とコンビニ袋が音を立てる。

「あ、あの、真神くん。あたし、自分で持てるから」

「でも、重そうなバッグを担いでいるじゃん。それ柔道着が入ってんの?」

「うん、まあ……」

「へぇ~、がんばっているんだね」

 街灯に照らされた彼は言う。

「あ、あの、真神くん」

「んっ?」

「も、もう、この辺で良いから。あまり、近所の人に見られると……」

「ああ、そっか、ごめん。明石ちゃん、恥ずかしいよね」

 真神くんは、後頭部を撫でながら言う。

「あの、今日は送ってくれて、ありがとう。でも、今度からは、もう……」

「じゃあ、また明日ね~」

「へっ? ちょっと、真神くん……」

 あたしが呼び止める前に、彼は手をひらひらと振りながら、去って行った。

「……自分勝手な人」

 そう呟いて、あたしは自分の家に向けて、再び歩き出す。

 買い物袋は、途中で中身を飲んで食べたこともあって、軽くなっている。

 あ、ていうか、ゴミが入っていない……まさか、真神くん……

 ていうか、あたしってば、いちいちそれくらいのことで、ドキドキ……

 ドキドキって、何よ。

 違う、そんなの絶対に。

 彼はチャラ男。

 たまたま、物珍しい女に触れて、ちょっかいを出して来ているだけ。

 その内きっと、飽きて寄って来なくなる。

 だから、下手に拒絶するのはやめよう。

 決して、彼を受け入れた訳じゃないけど……



      ◇



 ガヤガヤと、廊下は賑わっている。

「翠(すい)、柔道の調子はどう?」

「あ、うん。調子は良いよ。先生には、怒られているけど」

「熊(くま)センでしょ~? でも、きっと翠に期待しているからだよぉ」

「うん、そうだね」

 友人と何気なくお喋りをしながら、歩いていた時。

 ふっと、前の方から歩いて来る、男子に目が行った。

 あっ、と。

 思わず、声が漏れそうになる。

 けど、寸前の所で堪えた。

 すれ違いざま、一瞬だけ、彼と目が合った気がした。


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