ガサ、ガサ、とコンビニ袋が音を立てる。
「あ、あの、真神くん。あたし、自分で持てるから」
「でも、重そうなバッグを担いでいるじゃん。それ柔道着が入ってんの?」
「うん、まあ……」
「へぇ~、がんばっているんだね」
街灯に照らされた彼は言う。
「あ、あの、真神くん」
「んっ?」
「も、もう、この辺で良いから。あまり、近所の人に見られると……」
「ああ、そっか、ごめん。明石ちゃん、恥ずかしいよね」
真神くんは、後頭部を撫でながら言う。
「あの、今日は送ってくれて、ありがとう。でも、今度からは、もう……」
「じゃあ、また明日ね~」
「へっ? ちょっと、真神くん……」
あたしが呼び止める前に、彼は手をひらひらと振りながら、去って行った。
「……自分勝手な人」
そう呟いて、あたしは自分の家に向けて、再び歩き出す。
買い物袋は、途中で中身を飲んで食べたこともあって、軽くなっている。
あ、ていうか、ゴミが入っていない……まさか、真神くん……
ていうか、あたしってば、いちいちそれくらいのことで、ドキドキ……
ドキドキって、何よ。
違う、そんなの絶対に。
彼はチャラ男。
たまたま、物珍しい女に触れて、ちょっかいを出して来ているだけ。
その内きっと、飽きて寄って来なくなる。
だから、下手に拒絶するのはやめよう。
決して、彼を受け入れた訳じゃないけど……
◇
ガヤガヤと、廊下は賑わっている。
「翠(すい)、柔道の調子はどう?」
「あ、うん。調子は良いよ。先生には、怒られているけど」
「熊(くま)センでしょ~? でも、きっと翠に期待しているからだよぉ」
「うん、そうだね」
友人と何気なくお喋りをしながら、歩いていた時。
ふっと、前の方から歩いて来る、男子に目が行った。
あっ、と。
思わず、声が漏れそうになる。
けど、寸前の所で堪えた。
すれ違いざま、一瞬だけ、彼と目が合った気がした。