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『やわチャラ』 第2話 チャラ男の待ち伏せ 試し読み

 無我夢中で帰宅した。

「あら、翠おかえり。すごい汗ね」

「あ、うん、お母さん……」

「今日も練習がんばったのね。おつかれさま、お風呂に入りなさい」

「あ、ありがとう……」

 あたしは脱衣所に向かう。

 鏡で自分の顔を確認すると、頬が赤く染まっていた。

 一生懸命に走って来たせいだろうか?

 ――明石ちゃんが、可愛いからって。

 ボンッ、と顔が熱くなる。

 えっ、何なの、この気持ち?

 ていうか、あたしが可愛いとか……ああ、でもそうか。

 彼は……真神くんは、チャラい人だから。

 きっと、女の子には、誰にでもそう言っているんだ。

 だって、あたしが可愛いはずがないもの。

 今まで、そんな風に言われたことないし。

 小さい頃からずっと、男の子に交じって、柔道をして来たし。

 女の子のくせに、汗臭くて……ううん、やめておこう。

 考えても、仕方がないことだ。

 さっさとお風呂に入って、汗と共に全てを流し去ろう。

 今日はたまたま、あのチャラ男くんと会っただけ。

 明日からはもう、ロクに会話をすることもないだろう。



      ◇



 今日は学校にいる間、少し落ち着かなかった。

 あたしの1組と彼の3組は、そんなに離れていないから。

 廊下とかで、すれ違うかもしれないし。

 けど、そんな心配をよそに、彼と出くわすことは無かった。

 当然、あたしはホッとするけど……なぜか心の奥底が、モヤモヤしているような気がした。

 でもそんな気持ちは、柔道の練習をしていると、きれいさっぱり消えてなくなる。

 そうだ、やっぱり、あたしは柔道に生きる女。

 将来は、オリンピックに出場するんだ。

 だから、余計なことに気を取られている時間はない。

 そう思っていたはずなのに……

「おっ、明石ちゃん、みーっけ」

 あたしは愕然とした。

 今日こそは、コンビニで買い物をしようと思ったのに。

 なぜかまた、彼がいた……

「……真神くん」


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