無我夢中で帰宅した。
「あら、翠おかえり。すごい汗ね」
「あ、うん、お母さん……」
「今日も練習がんばったのね。おつかれさま、お風呂に入りなさい」
「あ、ありがとう……」
あたしは脱衣所に向かう。
鏡で自分の顔を確認すると、頬が赤く染まっていた。
一生懸命に走って来たせいだろうか?
――明石ちゃんが、可愛いからって。
ボンッ、と顔が熱くなる。
えっ、何なの、この気持ち?
ていうか、あたしが可愛いとか……ああ、でもそうか。
彼は……真神くんは、チャラい人だから。
きっと、女の子には、誰にでもそう言っているんだ。
だって、あたしが可愛いはずがないもの。
今まで、そんな風に言われたことないし。
小さい頃からずっと、男の子に交じって、柔道をして来たし。
女の子のくせに、汗臭くて……ううん、やめておこう。
考えても、仕方がないことだ。
さっさとお風呂に入って、汗と共に全てを流し去ろう。
今日はたまたま、あのチャラ男くんと会っただけ。
明日からはもう、ロクに会話をすることもないだろう。
◇
今日は学校にいる間、少し落ち着かなかった。
あたしの1組と彼の3組は、そんなに離れていないから。
廊下とかで、すれ違うかもしれないし。
けど、そんな心配をよそに、彼と出くわすことは無かった。
当然、あたしはホッとするけど……なぜか心の奥底が、モヤモヤしているような気がした。
でもそんな気持ちは、柔道の練習をしていると、きれいさっぱり消えてなくなる。
そうだ、やっぱり、あたしは柔道に生きる女。
将来は、オリンピックに出場するんだ。
だから、余計なことに気を取られている時間はない。
そう思っていたはずなのに……
「おっ、明石ちゃん、みーっけ」
あたしは愕然とした。
今日こそは、コンビニで買い物をしようと思ったのに。
なぜかまた、彼がいた……
「……真神くん」