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『やわチャラ』 第1話 柔道少女とチャラ男 試し読み

 ダダン、ダダン、と畳を打つ音が響いている。

「やっ!」

 あたしはきれいに相手を投げ飛ばした。

 ダダン!

「一本!」

 決めると、参ったという顔をする相手を、起こしてあげた。

「ったく、お前は本当に女子かよ?」

「すいません、先輩。出直して来て下さい」

「この生意気な」

 笑顔で冗談を言い合う。

「明石(あかし)、ちょっと来い」

「あ、はい」

 顧問の先生に呼ばれる。

「今の踏み込みが遅かったな」

「え、そうですか?」

「練習とはいえ、油断するな」

「……はい、すみません」

 あたしは声のトーンを落として言う。

 こんな風に叱られるのは仕方ない。

 ここは柔道の名門校で、あたしはそこで期待をされているエース。

 小さい頃から、才能を認められて、ずっと柔道ひとすじでやって来た。

 そのことに、後悔はない。

 柔道をしていると楽しいし、相手をきれいに投げ飛ばした時は、スカッとする。

 ただ、ここ最近、ちょっとだけ、おかしいと言うか……心なしか、体が重い気がするし。



      ◇



 部活終わり。

 男子連中は、ワイワイとしながら、連れ立って帰って行く。

 少し前は、あたしもあの輪にためらいなく入って行けた。

 でもここ最近は、何だかそれが出来ない。

 だから、ひとりぼっちで、歩いて行く。

 コンビニでも寄ろうかな……と思った時。

 その前に、たむろしている人たちがいた。

 制服を着崩した、ガラの悪そうな人たち。

 周りの目も気にせず、ゲラゲラと笑っている。

 普通の女子なら、怯えて逃げ出すかもしれないけど。

 まあ、あたしは平気だろう。

 そもそも、絡まれるほどの色気もないし……

「んっ?」

 すると、その内の1人がこちらに気がつく。

「あれ? 明石さんじゃね?」

「へっ?」

 ふいに呼ばれて改めて見ると、その彼にあたしは見覚えがあった。

「えっと、確か……」

「真神(まがみ)だよ、3組の」

「あ、ああ……真神くん」

 ロンゲで色黒で、いかにもチャラ男って感じの彼は、ニカッと笑う。

「え、なになに、迅(じん)? この子、お前の知り合い?」

「うん、同学年のスポーツ少女ちゃん。あれ、空手だっけ?」

「いや、柔道ですけど……」

「あー、そうだった」

 真神くんは、ポンと手を打つ。

「へぇ~、てことは、寝技とかやんの?」

「教えて欲しいな~」

 彼の友人たちが、ニヤニヤしながら、あたしを見て来た。

 うぅ、何なの、この人たち……

「おい、お前ら。明石ちゃんが可愛いからって、そんなジロジロ見んなよ」

「はっ?」

 ふいに言われたことに、あたしは驚く。

「ていうか、1人なの? 俺がボディーガードしようか?」

「い、いや、その……」


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