ダダン、ダダン、と畳を打つ音が響いている。
「やっ!」
あたしはきれいに相手を投げ飛ばした。
ダダン!
「一本!」
決めると、参ったという顔をする相手を、起こしてあげた。
「ったく、お前は本当に女子かよ?」
「すいません、先輩。出直して来て下さい」
「この生意気な」
笑顔で冗談を言い合う。
「明石(あかし)、ちょっと来い」
「あ、はい」
顧問の先生に呼ばれる。
「今の踏み込みが遅かったな」
「え、そうですか?」
「練習とはいえ、油断するな」
「……はい、すみません」
あたしは声のトーンを落として言う。
こんな風に叱られるのは仕方ない。
ここは柔道の名門校で、あたしはそこで期待をされているエース。
小さい頃から、才能を認められて、ずっと柔道ひとすじでやって来た。
そのことに、後悔はない。
柔道をしていると楽しいし、相手をきれいに投げ飛ばした時は、スカッとする。
ただ、ここ最近、ちょっとだけ、おかしいと言うか……心なしか、体が重い気がするし。
◇
部活終わり。
男子連中は、ワイワイとしながら、連れ立って帰って行く。
少し前は、あたしもあの輪にためらいなく入って行けた。
でもここ最近は、何だかそれが出来ない。
だから、ひとりぼっちで、歩いて行く。
コンビニでも寄ろうかな……と思った時。
その前に、たむろしている人たちがいた。
制服を着崩した、ガラの悪そうな人たち。
周りの目も気にせず、ゲラゲラと笑っている。
普通の女子なら、怯えて逃げ出すかもしれないけど。
まあ、あたしは平気だろう。
そもそも、絡まれるほどの色気もないし……
「んっ?」
すると、その内の1人がこちらに気がつく。
「あれ? 明石さんじゃね?」
「へっ?」
ふいに呼ばれて改めて見ると、その彼にあたしは見覚えがあった。
「えっと、確か……」
「真神(まがみ)だよ、3組の」
「あ、ああ……真神くん」
ロンゲで色黒で、いかにもチャラ男って感じの彼は、ニカッと笑う。
「え、なになに、迅(じん)? この子、お前の知り合い?」
「うん、同学年のスポーツ少女ちゃん。あれ、空手だっけ?」
「いや、柔道ですけど……」
「あー、そうだった」
真神くんは、ポンと手を打つ。
「へぇ~、てことは、寝技とかやんの?」
「教えて欲しいな~」
彼の友人たちが、ニヤニヤしながら、あたしを見て来た。
うぅ、何なの、この人たち……
「おい、お前ら。明石ちゃんが可愛いからって、そんなジロジロ見んなよ」
「はっ?」
ふいに言われたことに、あたしは驚く。
「ていうか、1人なの? 俺がボディーガードしようか?」
「い、いや、その……」