思春期男子の母親との距離感って、どんなものだろうか?
「ねえねえ、こーくん。高校生になって、どんな気持ち?」
夕食の席で、母さんがニコニコしながら聞いて来る。
いや、ちょっとニヤニヤしているかもしれない。
「どんな気持ちって、言われても……」
「ワクワクしちゃう?」
母さんは頬杖を突きながら、なおも笑顔で聞いて来る。
「まあ、多少は……」
「だよね~、キラキラ輝く青春模様だものね~」
母さんは、まさしく俺よりも目をキラキラと輝かせて言う。
「でも、母さん嬉しいわ」
「何が?」
「だって、高校生になったら、色々と胸キュンなイベントがあるでしょ? 可愛い息子から、色々とエピソードを聞いて潤わないと」
「やめてよ、人の話をマンガの題材にするのは」
俺はため息交じりに言う。
そう、俺こと白井 幸樹(しらい こうき)の母である白井 愛実(しらい まなみ)は、少女マンガ家なのだ。
ちなみに、年齢は30代中頃。
けれども、20代でも全然通用するくらい、若々しい見た目。
ハッキリ言うと、美人でおまけに巨乳だ。
母さんは、ゆるふわロングをいじりながら、まだニヤニヤとしている。
顔が可愛い分、むしろムカついてしまう。
「こーくんは、クラスに誰か可愛い子はいた?」
「さあ、どうだろうね?」
「もう、ツレないんだから~」
ツンツン、と手の甲をつつかれる。
「母さん、息子との距離感を間違えないでよ」
「良いじゃない、母子(おやこ)のスキンシップは、大切なんだから」
「だとしても、俺はもう高校生なんだから、ちょっとは気を遣ってよ」
ため息交じりに言うと、母さんはふいにシュンとした顔になる。
「ごめんね、こーくん。私、こーくんの本当のお母さんじゃないから、心のどこかで焦っているのかもしれないわ」
「母さん……」
そう、この母さんは、俺と血が繋がっていない。
継母(ままはは)、義母なのである。
俺の本当の母さんは、小学生の頃に病気で亡くなった。
その後、父さんが愛実さんと再婚する訳だけど……
今度は、俺が中学生の時に、父さんが交通事故で亡くなった。
そして、現在。
俺は義母の愛実さんと、2人暮らしをしているのだ。
「……まあ、その何ていうか」
俺はポリポリ、と指先で頬をかく。
「母さんはもう、俺にとってちゃんと……母さんだから」
「こ、こーくん……」
俺の目の前で、母さんがジワッと瞳を潤ませる。
「えっ、ちょっ、母さん?」
「うわ~ん! 息子の成長と気遣いが嬉しいよ~!」
「ちょっと、泣かないでよ! 良い歳した大人が!」
「心はいつまでも、17歳だもん!」
「何かの怪しい宗教ですか!?」