目の前で、ホカホカと湯気が立っている。
「うわ、カレー美味そう。普段、俺が食べているレトルトのやつよりも、具だくさんのゴロゴロカレーだ!」
「うふふ、童心に帰っちゃう?」
「そうですね、お恥ずかしい」
「良いのよ。じゃあ、いただきましょうか」
「はい」
俺と藤間さんは、一緒に手を合わせる。
「「いただきます」」
早速、俺はスプーンを手に取って、美味そうなカレーをいただく。
「あむっ……んっ、美味い!」
見た目通り、きちんと美味しかった。
「本当に? 良かったわ」
藤間さんは、ホッとしたように言う。
「いや、でもこうなると、本格的に旦那さんが羨ましいですよ。こんなに美人で優しくて、おまけに料理上手の奥さんがいるだなんて。それだけでもう、人生の勝ち組って感じっすよ。しかも、エリートなんですよね?」
「まあ、そうね。でも、いつも仕事でクタクタだから」
「大変ですね~、社会人は。俺はまだまだ、気楽な大学生でいたいな~」
「そんなこと言っていると、あっという間にニートになっちゃうわよ」
「ちょっと、怖いこと言わないで下さいよ~」
そんな冗談を言いつつ、美味しい夕ごはんをいただいた。
◇
「はぁ~、美味しかったぁ」
俺はふくれたお腹を撫でる。
「カレーって、どうしてついつい、食べ過ぎちゃうんですかねぇ? ていうか、旦那さんの分も食べちゃいました?」
「ううん、旦那の分はちゃんと取ってあるから、大丈夫よ」
「それなら良かったです。じゃあ、俺はそろそろ……」
立ち上がろうとしたところで、スッと手の甲に触れられる」
「えっ?」
「……旦那、まだずっと帰って来ないから、寂しいの」
「そ、そう……なんですか」
「どうせ、お隣なんだから、もう少しゆっくりして行ってよ」
「いや、でも……」
俺が戸惑っていると、藤間さんはスッと立ち上がり、冷蔵校へと向かう。
それから、何かを持ってまたこちらに戻って来た。
テーブルに置かれたのは、缶チューハイだ。
「えっ?」
「あ、ごめんなさい。男の子だから、ビールの方が好きだった?」
「いや、ビールはそんなに美味いとは思わないので……ていうか、えっ?」
俺が困惑している間に、藤間さんはプルタブを開けて、グラスにチューハイを注いでいく。
「最近、流行のレモン味、一緒に飲みましょう?」
「あっ……はい」
半ば有無を言わせない空気を感じて、俺は大人しく頷いてしまう。
いや、決して嫌な訳ではない。むしろ、超絶ラッキーな展開だ。
アパートのおとなりの美人で巨乳な奥さんと、旦那さんがいない隙に2人きりでお酒を飲むだなんて。
でも、背徳感が半端ない。
だって、相手は人妻で、俺だって彼女がいて……
「カンパーイ♪」
ちん、とグラスをぶつけ合う。