• ラブコメ
  • 現代ファンタジー

地味子 第10話 想い合う読書 試し読み (増量中)

 出かける時は、ちゃんと身だしなみを整える。

 でも、今日は特に入念にしてしまう。

 こだわるあまり、なかなか決まらなくて、焦ってしまう自分がいた。

「やば、もうこんな時間……」

 完璧に納得していないものの、仕方なく妥協した俺は、アウターを羽織った。

「行って来ます」

 外に出ると、空は快晴。

 それはラッキーなことなんだけど、何だか余計に気持ちがフワフワしてしまう。

 落ち着け、俺。

 気負わず、リラックスして。

 今日は決してデートではない。

 ただ、クラスメイトで、図書委員の仲間である、梨田さんと親睦を深めるだけのこと。

 アスファルトを歩く間、何度も自分にそう言い聞かせていた。

 ぶつぶつと呟いている間に、目的の図書館にやって来る。

「えっと、梨田さんは……」

 俺は落ち着きなく、辺りを見渡してしまう。

「――倉崎くん」

 澄んだ声に呼ばれて、ドキリとする。

 俺は振り返った。

「あっ……」

 思わず声が漏れる。

 私服姿の梨田さんを初めて見た感想は……

「ごめんね、待った?」

「あ、いや……ちょうど、いま来たところだから」

「そう? 良かった」

 梨田さんはホッとしたように微笑みながら、胸に手を置く。

 ゆったりした、花柄のワンピースを纏っている。

 あまり、目立たないようにしているけど……でも、俺はもうい知ってしまっているから。

 その下に眠る、とてつもないお宝を……って、言い方がすごくエロガキだ。

 落ち着け、俺。

「倉崎くん、どうしたの?」

「い、いや、何でもないよ。じゃあ、行こうか?」

「うん」

 俺は梨田さんと一緒に、図書館に入って行く。

 休日だから、混んでいないかと心配したけど、それほど人でごった返してはいなかった。

 親子連れとか、学生とか、おじいさんとか、ちらほらといる程度。

 図書館に来るのは、久しぶりだけど、俺は自然とすぐその空気に馴染めた。

 これが和馬みたいに騒がしい奴なら、無理だと思う。

「とりあえず、本を選ぼうか」

「うん、そうだね」

 俺たちは一旦別れて、それぞれ読みたい本を探しに行く。

 俺は本棚の間を歩きながら、けど本選びにあまり集中できない自分がいる。

 やはりどうしても、梨田さんのことが気になってしまうのだ。

 とりあえず、俺は適当に本を選ぶと、空いている席に座った。

 少し遅れて、梨田さんもやって来る。

「倉崎くん、何の本を読むの?」

「俺は……青春小説かな?」

「そっか」

「梨田さんは?」

「えっと、私は……恋愛小説だよ」

 本で口元を隠しながら、梨田さんは言う。

「へぇ、やっぱり女の子は、恋愛小説が好きなんだね」

「う、うん……私には、似合わないかもしれないけど」

「いや、そんなことは……」

 お互いに言葉に詰まったところで、気まずい空気を誤魔化すように、そっと本を開く。

 読書は割と好きな方だ。

 本屋に寄って、面白そうな本があったら、買って休みの日に読んだりする。

 俺は元々、物静かな場所を好むから、この空間は俺にとって、都合が良いはずなのだけど……どうしても、集中できない。

 本を読むフリをして、ちらっと梨田さんの方を見てしまう。

 私服姿もそうだけど、心なしかいつもより髪とか肌のツヤが良い気がする。

 まさか、俺と会うために……いや、そうじゃないだろ。

 女の子なんだから、出かける時は男よりも身だしなみに気を遣うのは当然のことだ。

 だから、普段よりも3割増し、いや、もっとか……とにかく、すごく可愛く見えるからって、勘違いをしてはいけない。

 俺は決めたんだ、梨田さんとはいい関係を築いて行きたい。

 だから、どんな時も、紳士であろうって。

 決して、彼女のメガネの下に隠れた可愛い顔とか、服の下に隠れた大きな胸とか、意識をしてはいけないのだ。



      ◇



 倉崎くん、困っていないかな?

 急にこんな風に、デートに誘ったりして……

 ううん、倉崎くんはきっと、デートだなんて思っていない。

 あくまでも、クラスメイトで、図書委員の仲間である私と、友達として来てくれているんだ。

 きっと、そうに違いない。

 けど、それで良いんだ。

 私は昔から、地味な女だから。

 男子と付き合ったがないし。

 そもそも、ロクに話した経験もない。

 だから、今こうして、倉崎くんと一緒にいられること自体が、ちょっと信じられないのだ。

 でも……勇気を出して、誘って良かった。



コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する