ある作家さんがやってるの見て、自分もどうしてもやりたくなったのでやります!
終末の王国版イソップ物語173番『金の斧』
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ある日、一行が泉を訪れると、水の中から美しい長い銀髪をゆらめかせた聖教皇が現れました。
彼は問います。
「お前たちが落としたのは、金のアルナールか。それとも銀のアルナールか」
仲間たちは顔を見合わせます。
「そういえば、アルナールがいないな。落とした、のか? っていうか何故フォアスピネ様がいるんだ?」
アルフェリムは首を傾げますが、他のメンバーはあまり疑問を感じず話を進めます。実はミラーノは違和感に気付いていましたが「作者のお遊びに付き合うのも仕事のうちかな」と思ったので黙っていました。
レオニアスが言います。
「金色の姉上なんて、物理的にだけじゃなく視覚的にも暴力でしかないよ。僕は銀色のがいいな」
シアンは反対意見を出します。
「アルナールは銀より金が似合うと思うわ。金色のアルナールにしよう!」
アルフェリムが控えめに意見します。
「ふつうのアルナールで良くないか? ふつうでもまぁまぁ目立つし、ふつうのほうが可愛いと思うけどな……ごにょごにょ」
ここでウヌ・キオラスが、ハッと何かに気付いたように口元を押さえました。
「私、似た話をおとぎ話で読んだことがあるよ! 正直者の木こりが泉に斧を落としてしまって、金の斧も銀の斧も自分のじゃない、ふつうの斧だって答えると、泉の精が感激して、金も銀もふつうのもくれたんだって!」
ざわり……一行に衝撃が走ります。
レオニアスが青ざめた顔で叫びます。
「それって、ふつうの姉上を選択したら、姉上が三人に増えるってことじゃないか……!」
アルフェリムとウヌ・キオラスは身を寄せ合って震えており、シアンでさえ「三人は、ちょっと……」と思案顔になります。シアンだけに。
レオニアスは、ウヌ・キオラスに尋ねました。
「そのおとぎ話では、金や銀の斧を選んだらどうなるんだ?」
「あ! 嘘をついたと泉の精が怒って、全部取り上げてしまうんだ!」
一行の顔に、希望の笑顔が輝きました。
代表して、アルフェリムが聖教皇に申し述べます。
「我々が落としたのは、金銀財宝で装飾された虹鋼製のアルナールです!」
聖教皇は感心しました。
「彼女のことをそんなに高く評価していたとは。仲間を想う心に胸を打たれた。では望み通り、金銀財宝で装飾された虹鋼製のアルナールを返してやろう」
アルフェリムが激しく首を横に振りましたが、その時にはもう聖教皇の姿は消えていました。
代わりに現れたのは、金銀財宝の冠、耳飾り、首飾りなどで着飾り、白いドレープのスカートを履いたアルナールでした。もちろん腰には、虹鋼製の刀を帯びています。
「あんたたち、覚悟は出来てるわね?」
白い衣服が、赤く染めあがるまでそれほど時間はかかりませんでした。
人類を救うために旅に出た勇者一行は、ここで滅んでしまうのでした。
* * *
昨夜見た夢の内容を話すと、レオニアスとアルフェリムは腹を抱えて思いっきり笑った。ミラーノだけが「俺、とばっちりで死んでるじゃねぇか……」と渋い顔をしている。
「そんなに笑わないでよ。私は生きた心地がしなかったんだから」
「悪かったよ」
むくれるウヌ・キオラスの肩を、笑いの余韻をくすぶらせながら叩くレオニアス。アルフェリムはまだ笑い続けている。
ウヌ・キオラスは、ふと不安になった。
「ねぇ。もし現実で、似たようなことが起きたらどうしよう?」
そうだなぁ、とアルフェリムは気楽な想像をした。
「無回答で立ち去ればいいんじゃないか。泉の精は追ってこないだろう」
「真面目に訊いてるの!」
ウヌ・キオラスは、アルフェリムの背中を思いっきり叩く。
レオニアスは、少し考えて言った。
「ウヌ・キオラスの不安が、夢になって現れたってことかな。それなら心配いらないと思うよ。姉上が、誰かに囚われるようなへまをするとは思えないし」
アルフェリムも同調した。
「そうさ。もしも本当にアルナールがピンチになったら、みんなで助ければいいのさ。正解は、『泉の精をぶん殴って取り返す』だよ。な?」
アルフェリムとレオニアスが頷き合っている。
その後ろから、にょきっと顔を出すミラーノ。
「アルナールさまを助けるって言うなら、みんなちゃんと陣形を組んで戦えるようにならないといけませんよね? まさか今のままでどうにかなると思ってます?」
「「鋭意、努力します」」
ふたりは、蛇に睨まれた蛙のように小さくなって答える。
「……ふふっ」
ウヌ・キオラスは笑った。
現実は夢より恐ろしいかもしれないけれど、それでもこの現実の世界で生きるのも悪くないと思った。彼らと一緒なら、恐ろしい出来事も面白い出来事に変えられるような予感がするから。
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あ、ミラーノとウヌ・キオラスの距離が縮まってる。もう少し先のお話ですね。私は満足です。やはり、先人が作った物語は偉大です。なんにも考えずに書き始めても、ちゃんと落ちがつきましたね。
これ、もともとやってた作家さんの許可が取れたら、本編にSSとして上げたいな……|д゚)木