『孤児院の魔法少女は、本当の名前を知らない 〜未明のルミナリア〜』
第73話「こちらからの声」を公開しました。
※今回は、第73話の内容に少し触れています。
中庭の舟遊びから始まる一話です。
ましろが船長を続け、悠太が舟を運ぶ。レムは、自分が紙の舟に乗せられそうな話になる前に、しっかり釘を刺しています。
そんなやり取りの途中で、また声が聞こえました。
今回、私が特に書きたかったのは、そのあとに悠太が口にする言葉です。
「返事、しなかったからかな」
自分が答えなかったから、もう一度呼ばれたのかもしれない。
それなら、自分で言いに行けばいいのかもしれない。
誰に向けられた声なのかも分からないのに、舟を持っている悠太が、その返事まで引き受けようとします。
ここで、悠太に勇気を出して答えてもらう話にはしたくありませんでした。
ましろが院長へ相談し、澄が本人のところへ来る。
舟を持っていく必要はないと伝えてから、自分が話す役を引き受ける。
「はい。私の言葉で」
題名の「こちらからの声」は、この言葉から先へ進んでいきます。
澄は、悠太の気持ちを勝手に代弁するのではなく、自分が何をしないのか、どこから話を聞くのかを伝えます。取っ手には触れず、閉じた戸の外に立ったままです。
話しかけたからといって、すぐに安心できるわけではありません。
そのあとに聞こえた言葉が、こちらへの返事なのか。何が、どこから話しているのか。確かめられていないことは残っています。
また、澄は自分たちのいる場所の名も口にします。
人の名前だけでなく、場所の名前にも、この物語では重さがあります。伝えたことをなかったことにはできない。その選択が何をもたらすのかも、まだ決めずに残しました。
一方、話を聞いたましろは、やはり戸の方が気になります。
「そんなに分かりやすい?」
「戸を見すぎ」
ヨルの短い返しに、レムの小言も続きます。
困っているかもしれないと聞くと、身体が先に向いてしまう。ましろのそういうところを、二人はよく見ています。止められる側だけでなく、止める側にも、ここまで一緒に過ごした時間が出ていてほしいと思います。
終盤で、悠太が選ぶのは、声へ答える役ではなく、遊びの船長です。
舟の折れた先を少し直し、元どおりにはならないところで手を止める。そしてカナへ舟を渡す。
大きな出来事が解決してからでなくても、子どもが子どもの遊びへ戻れる時間は作れる。その小さな交代も、今回は大切にしました。
最後は、ましろが目の前にいる子たちの姿を確かめていきます。
閉じた戸の向こうについて考えながら、こちらにいる一人も見落とさない。その両方を抱えて、物語は次へ進みます。
いつも、ましろたちの続きを読んでくださってありがとうございます。
第73話「こちらからの声」。
澄の言葉と、そのあとに動き出す子どもたちを、見届けていただけたら嬉しいです。