アメリカ陸軍元少佐で、現在はシンクタンク(War Studies Madison Policy Forum)の委員長を務めるジョン・スペンサーという方がいらっしゃるのですが、ロシアのウクライナ侵攻を「21世紀最大の戦略的失態(the biggest strategic blunder of the 21st century)」と指摘しました。
https://x.com/SpencerGuard/status/2082748674027704669
21世紀はまだ1/4しか終わってませんので、最大と断じるのは早い気がしますが、過去25年で最大の戦略的失態という意味では、間違いではないと思います。それどころか、後述するように「19世紀以降最大の戦略的失態(すなわち過去200年で見ても類のない失態)」に分類されるやらかしだと思われると言いますか、今回の記事を見てそれに気づいてしまったと言いますか。
素晴しい分析だと思いましたので、共有させて頂きます。
(以下原文。後でちゃんと要約しますので、嘘じゃないとだけわかって頂ければ)
- Over 1 million Russian casualties.
- NATO is larger, more united, and more relevant than at any point in its history.
- Russia has more than doubled its border with NATO.
- Russia exposed the weaknesses of its military, failing to seize Ukraine in 2022, repeatedly revising its war aims, and becoming dependent on Iran and North Korea for weapons, ammunition, and even troops.
- Putin didn't destroy Ukrainian identity. He reinforced it, forged it under fire, and revealed it to the world. He helped create a durable Ukrainian national identity that will endure for generations.
- Russia transformed from an energy superpower with diversified, premium European markets into a supplier increasingly dependent on discounted sales to China.
(以下要約)
①人的被害が(少なく見積もっても)100万人を超えている。
②NATOが強大化してしまった。
③ロシアとNATOの国境線が倍以上に膨らんでしまった。(防衛負担が格段に増えた)
④ロシア軍の弱点がさらけ出されてしまった。武器・弾薬・兵員等を、イラン・北朝鮮に頼らねばならない状態に。(※本当に頼っているのは中国ですけどね)
⑤ウクライナの国民意識醸成に、プーチン自身が荷担してしまった。
⑥エネルギー(石油・天然ガス)を高額で買い取ってくれるEUという市場を失い、中国という格安市場に依存せざるを得なくなった。
(補足)
①に関しては、秋の選挙が終わったところで、国会から「このままでは兵力が足りません」という陳情がプーチンに出され、プーチンがこれを認めて動員令を発令すところまで確定路線です。現在戦線が膠着しているドンバス地方に、あと20万人の人命を投入すれば占領できるだろうという見積もりでいると囁かれています。
②③フィンランドのNATO加入などがわかりやすい事例。
④北朝鮮から新規の派兵で3万人が確定しています。ヴォロネジに投入されると言われています。
⑤プーチンは偉大なるロシアに帰属する従属国としてのウクライナを念頭に、ウクライナのNATO接近は許さない(それどころか主権を持った国家としても認めない)という立場から侵攻に踏み切りましたが、結果は真逆に。ウクライナは結束を強め、反ロシア感情に支配された国へと自立してしまいました。
⑥中国はロシアが提案する「シベリアの力2」というパイプライン建設の提案を蹴り、「ロシア国内の流通価格(ロシアが補助金を出して国民に格安で売っている価格)」まで値下げしなければ買わないという、とんでもない値下げ条件を突きつけました。事実上のロシア植民地化ですが、これについては以前書きましたので割愛します。
というわけで、スペンサー氏の結論。
Few strategic decisions in modern history have produced so many outcomes directly contrary to the aggressor's objectives.
現代において、これほど侵攻側の目的と結果が真逆になったことはほとんどない。
ひとつひとつは大したことを言ってないのですが、これらを適切に抽出して線に繋げてみると、「ロシアは戦略的に失敗した」という事実が浮かび上がるんですね。ここまで見事な分析には、なかなかお目にかかれません。
実際、「自分から攻撃を仕掛けたことによって、相手国が結束を固めて、強大な敵を呼び覚ましてしまった」というパターンの失敗は、歴史上でも稀です。パッと思いつくところでは、アメリカのヴェトナム戦争とソ連のアフガニスタン侵攻がこれに近いですかね。あとは第一次大戦のドイツ(シュリーフェンプラン)。最近のイラン戦争も、ホルムズ海峡封鎖という手段に気づかせてしまったり、革命防衛隊に主導権を握らせてしまったという意味では似ているのかな。
ちなみに、アフガニスタン侵攻とシュリーフェンプランの失敗では、仕掛けた側が国家消滅レベルのダメージを負うことになりました。
そして、この2つと比較しても、ウクライナ侵攻失敗のヤバさは群を抜いています。ロシアがEU市場を失い中国の属国となってしまったことや、ウクライナが世界最高水準の長距離攻撃能力を備えてしまったことは、過去200年を見渡しても前例すらないんですよ(少なくとも私の知る限り)。たとえばソ連がアフガニスダン侵攻に失敗したとき、アフガニスタンがソ連の深部に空爆できる能力を備えたかというと、そんなことはありませんでした。彼らはあくまで、自分たちの領土でゲリラ戦を展開していただけ。ソ連という国家が滅んだのは、アフガニスタンから本土への攻撃を受けたからではないのです。シュリーフェンプランでドイツはイギリスの参戦を招いてしまいましたが、イギリスは元々強国でした。これに対してウクライナ侵攻は、「もともと何の攻撃力もなかった隣国を、世界最高峰の長距離攻撃国に成長させてしまった」という、あってはならないレベルの戦略的失態なんですね。ゲーム的には魔王軍が勇者サマに、序盤からいい感じの敵を見繕って戦闘を繰り返し、経験値を積ませちゃった感じです。おまけに、優良市場だったEUを自分から捨て国際市場から締め出され、挙げ句中国依存を強めるとか、シャレになってません。
ロシアはこれを「ウクライナのせいでこうなった」と思うのか、それとも「自分たちがウクライナにちょっかいかけなければこうはならなかった」と思うのか。きっと前者なんでしょう。