何年か前のことになりますね。地下鉄の出入口の辺りに電話ボックスがあって、その傍らに、ある時あなたは現れました。いえ、置かれていました。
あなたは白いプリンターでした。「コピー機」と呼ばれていたかもしれません。大企業がオフィスに置くようなタイプではなくて、個人宅にもありそうな普通のサイズの。それが、電話ボックスの横にポツンと、歩道からは隠れるようにして。
あなたは風雨によって少しずつ汚れていきました。
私は、きっとあなたは捨てられてしまったのだと、そう思って、毎日チラッとあなたを見ていました。「かつてはきちんと仕事をしていただろうに」「粗大ごみで出すと費用が掛かるからかな」と、少し怒りを感じた時もあります。
少し経って、あなたは姿を消しました。然るべき人が回収してくれたならいいのですが。きちんとした別れ方とか、敬意とか、感謝とか、「モノ」に対して向けるべきではないのかもしれない考え方が、もやもやと頭に浮かんだことを覚えています。
そんなあなたの姿が記憶の片隅にあったのかもしれません。きっとあったのです。私が書いている“とある物語”は、その姿をエネルギー源の一つにして、一つの章を書き上げました。なので私はあなたに感謝しています。感謝しようと、せめてそう書き記してみようと、章を書いている途中から時々考えていました。
型番も“名前”も知らない白いプリンター、きちんと仕事を果たしたのであろうあなたに、きちんとあなたと別れなかった人に代わって。どうか、安らかに。