• 恋愛
  • エッセイ・ノンフィクション

番外編:風俗嬢と客の関係から脱却することはできますか

高校一年生体育祭
 一応私は、足が速い方でリレー選手に小学生からずっと選ばれてきた。だがイベントに関心があるかと言われたらそうでもない。
 体育祭だって例外じゃない。できるならやりたくない。
 
 眠い瞼を擦りながらいつものように門を潜る。すると肩を両手で誰かに叩かれた。誰かなんて考えなくとも分かる。

「古村さあああん……」

早苗さんも体育祭は楽しみじゃないようだ。いつも上がり気味の口角が若干下がってる。

「おはよ、体育祭だね、頑張ろ。早苗さんは150mだっけ?」

「そうだよ〜。じゃんけんで負けて足遅いのに150mだよ……古村さん代わりに150m2回走って」

「それは嫌だ、デザート代わりのカステラあげるから頑張ってよ」

「それは頑張らないとっ!」

入学式で話しかけてくれた早苗さんは一体なぜ私とこんなに話していてくれているのか疑問なぐらい人当たりがいい。クラスの人に好かれている。

ーーークラス対抗リレー出番直前ーーー

「リレーだ……古村さん私、抜かされるからよろしくね」

片目を瞑りつつこちらに手を合わせてくる。同い年で身長だってそう変わらないがたまに中学1年ぐらいの幼さが垣間見える。

「何回も言うけどね、相手が悪いだけで早苗さん速いよ?」

「そんなことないもん、あっ出番……逝ってくる」

「イントネーションが別の意味なの気のせいだよね?」

「残念っ!気のせいじゃないよ!」

もう絶望しているのが声と目の光でわかる。口がわらってるのに目が死んでる。その表情のまま前奏者からバトンを受け取り走っていった。

さて私も準備するかとテイクオーバーゾーンに入る。後ろを見て順位を確認すると6位中4位。

前走者から速い人ばかりしかいない中一位しか順位を落としていないからやはり早苗さんは速い。

早苗さんがこっちに走ってくる。早苗さんから渡されたバトンがずっしりと重く感じる。今までの走者の思いが凝縮されたような。

やる気はないとは言ったが、やらなければならないならやるしかない。足に力を込めて全力で走った。

ーーーリレー終了後ーーー
「すごいよ古村さん!!」

「ほんと!ほんと!4位から2位まで上げちゃうとか!」

「男子もいたのにすごいよ!」

まあ、それと似たような声が浴びせられる。悪い気はしないが、ちょっと動けない。

奥で早苗さんがなんかこっちを見ている。そっちに行きたいのに行けない。

「席に座りなさい!!」

先生の雷のような声でクラスメイトたちは蜘蛛の子を散らすように去っていった。待ってましたと言わんばかりに早苗さんが近づいてきた。

「私、そむーって呼ぶ」

「へ?」

いきなり意味がわからないことをぶっ込まれて変な声が出てしまった。

「古村の「こ」と空の「そ」を合わせて今からそむーって呼ぶ!」

「いいけど、なんで今?」

「みんなと同じなのなんか嫌だから」

その言葉を聞いてなんだか不思議な高揚感を感じたのはなぜだろう。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する