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かざから

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  • 8月13日

    状況が悪い

    AIを利用して色々と続けてきました。、リアルの都合が悪くなり、続けていくのが困難になったため、小説を閉じさせてもらいました。
  • 7月30日

    AIの挙動による違和感

    簡単にプロットから出力とは言いますが、実際は機械的な文章しか並びません。自分はそういうのが嫌なので、下地になるプロットの殆どが小説の原文状態になってます。 他にも、前に説明していたことを、もう一度説明するときがあります。 これは2部に分けてプロットを送ってる弊害といいますか、前半に送った内容をAIは記憶していないというのが原因になってます。分けて送る理由は、本文がプロットにしてる原稿の文字数を下回るからです 時々「こいつ何で同じ事言ってる?」というのが、読み直す事で次々と見つかってます。 残った物については、作者が見落としたとして、誤字脱字報告などをしていただければ助かります。 AIでの文法修正・誤字脱字修正はとても役に立ちますが、まだまだ未熟という事でしょうかね。未熟な自分が言うのもなんですが。
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  • 7月17日

    ベタな異世界転移モノを更新しました。

    3話までを正式に出しました。 毎日と行きたいところですが、現状では10話までしか書けていないので、ジワジワと更新する感じになります。
  • 7月13日

    5話 

    10話まで書いたら、更新を始めようと思います。現在は9話のプロット作成中です。 ↓  翌朝。  固い木枠のベッドの上で目を覚ますと、隣のベッドには誰もいなかった。  乱れた毛布の様子からして、昨夜はそこで寝ていたようだ。部屋の中はひどく静かに感じられた。  一階の酒場へと下りていくと、朝の光が差し込む店内の隅で、昨晩から突っ伏して寝ている泥酔客が一人いるだけで、やはりジョンソンさんの大柄な姿は見当たらなかった。  カウンターで仕込みの作業をしていた店主に尋ねると、「ああ、ジョンソンなら、夜明け前に一度、貴族街の自分の屋敷に帰るって言って出て行ったぜ」と教えてくれた。  着替えでも取りに帰ったのだろうか。  いつ戻ってくるのかは分からない。ただ、この見知らぬ異世界で、唯一まともに会話ができる大人が一時的にでも側にいないという事実に、俺はほんの少しだけ心細さを覚えた。  だが、いつまでもあの老兵の背中に隠れているわけにはいかない。王宮には、まだタツキさんたち四人が残されているのだ。彼らを助け出し、この狂った国から脱出するためには、俺自身が動いて「外の世界」の情報を集めなければならない。 (……でも、行動を起こすにしても、まずは『金』だな)  ポケットに入った革ポーチの重みを確認する。俺の全財産は、小銅貨五十枚と少しの割銅貨だけだ。日々の宿代と食費を考えれば、二週間と保たない。  情報を集めるにしても、俺にはまだ、情報の「ジョ」の字も手にするツテがない状態だ。ならば、昨日回った組合の中で、一番自分に合っていそうな――つまり、力仕事や命の危険が少なく、様々な物資や人が集まる場所へ行くのが得策だ。 「店主さん、ちょっと表に出てきます。『商業組合』に行ってみようかと」 「お、そうか。仕事探しだな。精々気をつけて行ってきな」  店主に一声かけて、酒場の扉に手をかけた時だった。  ――ゴォォォン……、ゴォォォォン……。  遠くの聖堂の方角からだろうか、重低音の鐘の音が、城下街の空気を震わせるように響き渡った。  この街の人々が何を基準に生活しているのかはまだよく分からなかったが、道行く人々がその音を聞いて歩調を早めたり、荷車の準備を始めたりしているのを見ると、何かしらの時間を知らせる合図なのだろう。  その鐘の音に背中を押されるように、俺は酒場の外へと足を踏み出した。 「うっ……」  外に出た瞬間、生ゴミと下水、それに得体の知れない獣臭が混ざった王都特有の悪臭が、容赦なく鼻腔を殴りつけてきた。  一瞬、酒場に戻って匂い誤魔化しのためのエールを一杯煽ろうかという誘惑に駆られたが、すぐに首を振って打ち消す。流石に、朝からアルコールの匂いをプンプンさせて仕事をもらいに行くなど、常識的に考えてありえない。  俺は「絶対に鼻で息をしない」と固く心に誓い、口呼吸だけを意識しながら、商業組合へと続く石畳の道を歩き出した。  §  昨日も訪れた、立派な石造りの商業組合の建物。  その大きく開け放たれた入り口の扉をくぐろうとした、その矢先だった。 「――失礼します」  バフッ!! 「ぶはっ!? ゲホッ、ゴホッ! な、なんだ!?」  突然、目の前が真っ白になった。  入り口の脇に立っていた紳士風の身なりをした男が、突然粉末を振りかけてきたのだ。  中学に入る前に、元友人の悪ふざけで黒板消しを顔面に叩きつけられた時の記憶がフラッシュバックする。俺はむせ返りながら、慌てて顔についた粉を払い落とした。 「な、何をするんですか!?」 「『匂い消し』の粉です。当組合は、清潔と品位を重んじております。外の街の酷い悪臭を纏ったまま入館していただくわけにはいきませんので」  紳士は、手元の粉袋をパンパンと払いながら、極めて事務的な口調でそう言い放った。 (そんなに、俺って臭かったのか……?)  ショックを受けつつ、自分の袖口の匂いを嗅いでみる。すると、鼻をつくような王都の悪臭はすっかり消え去り、代わりに少し薬草臭さはあるものの、ミントにも似た思った以上に爽やかな香りが漂ってきた。確かに、これなら屋内に悪臭を持ち込まずに済む。 「……なるほど。でも、昨日はこんなことされませんでしたよ?」 「昨日は、貴方様が『第三騎士団長』であらせられるジョンソン様とお連れでしたので。流石に騎士団長様に粉を浴びせるわけにもいかず……私共も、息を止めて我慢しておりました」  紳士は、苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。  身分という絶対的な力の前に、彼らも必死に耐えていたらしい。これが「権力の差」というやつか。 「ご理解いただけましたかな? 今回は入り口で処置いたしましたが、本来はこの粉、街の薬草店で事前に購入して身を清めてから来館していただくのが我々のルールです。価格は一袋で『小銅貨一枚』となっております」 「……小銅貨、一枚」  俺は思わず顔を引き攣らせた。  一泊の宿代が小銅貨四〜五枚のこの街で、ただ入り口をくぐる前の匂い消しのためだけに、小銅貨一枚を消費する。一日一回ここに来るだけで、宿代の五分の一が飛んでいく計算だ。  商業組合、恐るべし。 「とにかく、次からは匂いを何とかしていない場合は容赦なく追い出しますからね。必ず購入し、使用してから入店しなさい」 「……はい。気をつけます」  釘を刺してくる紳士に曖昧に頷き、俺は居心地の悪さを感じながら、そそくさと建物の奥へと進んだ。  §  商業組合の窓口に並び、順番を待ってから、受付の女性に「今日から仕事を探している」という旨を伝えた。  女性は、俺が差し出した身分証代わりの木製タグを受け取ると、そこに彫られた『見習い』の文字と俺の顔を交互に見比べ、あからさまに訝しげな顔をした。 「……少々、お待ちください。担当の者を呼びますので、あちらの待合席でお待ちを」  突き放すように言われ、俺は窓口から離れて、人の多いテーブル付きの待合スペースの長椅子に腰を下ろした。隣では、男が必死になって書き物をしている。  さらに周囲を見渡すと、冒険者組合にいたような武装した粗野な男たちは一人もおらず、ほとんどの人がパリッとした清潔な身なりをしていた。だが、清潔だからといって穏やかなわけではない。皆、どこか目つきが鋭く、他人の持ち物や身なりを値踏みするような「商人」特有の視線を放っている。  奥にある倉庫区画や荷捌き場らしき場所からは、「そこの荷車を早くどかせ!」「数が合わねえぞ!」といった怒号がひっきりなしに飛び交っていた。冒険者組合の澱んだ空気とは全く違う、ピリピリとした凄まじい活気と熱量に満ち溢れている。 「あーっ、くそっ! また違う!」  隣から、突如として語気の荒い声が聞こえた。  ビクッとして横を見ると、隣に座っていた二十代後半くらいの男が、片手でガシガシと頭を掻きむしりながら、鉄筆で蝋引きの木版を擦り、何かを書き込んでは消すという作業を繰り返していた。 (何を書いているんだろう?)  チラリと横目で覗き込んでみると、どうやら何かの『帳簿』らしきものだった。  酒場の店主が見せてくれたものよりも文字は綺麗に整っているのだが、書かれている内容が、俺から見ても素人目に見ても、恐ろしく「ゴチャゴチャ」していた。 何枚かの木版を見比べてみる。書かれている内容自体に間違いはなかった。 今日仕入れた品物。売れた商品。支払った代金。受け取った代金。 その日に起きた出来事が、発生した順番に記されているだけだ。しかしバラバラだ。 (……これじゃ、後から集計するのが大変だろ) 商品ごとの利益を調べようと思えば、何枚もの木版を行ったり来たりしなければならない。 在庫の増減を確認するだけでも同じことだ。 記録としては間違っていない。 だが、数字を整理するにはあまりにも非効率だった。  確かに「その日の記録」としては正しいのだろう。だが、これでは後から「リンゴは結局いくら儲かったのか」「エールの在庫はいくつか」を計算しようとした時、一枚一枚の木版から該当する項目を拾い集め、足したり引いたりしなければならない。  電卓すら存在しないこの世界で、こんな記述方式で正確な月次計算などやろうものなら、それだけで発狂してもおかしくない。 「あぁぁ、提出は今日なのにっ……!」  男は、ついに喉の奥から獣のような悲痛な唸り声を上げ始めた。木版を睨みつける目は血走り、今にも発狂して暴れ出しそうな雰囲気だ。 (余計なお世話だよな……)  そう思ったが、隣でずっと唸り声を上げられ続けては、こちらの気も休まらない。   非効率すぎる木版を見過ごすのは、なんだかひどく気持ち悪かった。  俺は何となく、男に向かって口を出してしまった。 「あの、それぞれを『分けて』、並べて書いたほうが良いのではないでしょうか?」  ピタッ、と。  男の手が止まり、ゆっくりとこちらを向いた。 「……は?」  その真顔には、明らかな怒気と「素人のガキが口出しするな」という苛立ちが含まれていた。 (やっぱり、余計なお世話だった) 「すみません。出しゃばったマネをして。忘れてください」  俺はすぐに頭を下げて謝罪した。関わらないのが一番だ。  しかし男は、俺から視線を外して自分の手元――まっさらに削り直した計算用の木版を眺め、深く首を傾げ始めた。 「あー、くっそ! ここまで来てるってのに……!」  男は首のあたりを苛立たしげに手でこすった後、何かを諦めたように、縋るような目で俺を見た。 「……すまんが。お前が今言ったの、どうすれば書けるんだ? 教えてくれ」  俺は小さく頷くと、男から鉄筆とまっさらな木版を受け取った。  そして、数枚に分かれた彼の帳簿(木版)を見比べながら、真っ白な木版に拙い線で縦と横の『表』の枠組みを引き始めた。 「一番左に『日付』。その隣に『品名』の種類。そして『仕入れ値』『出荷数』『販売価格』『最終的な売り上げ』……という風に、項目ごとに縦の列を作ります」  俺は説明しながら、男のゴチャゴチャした木版から最初の数行分のデータを読み取り、新しい表の枠内に書き写していった。  これなら、下に向かって足し算をするだけで、品物ごとの利益も一目で分かる。酒場の奥さんにもこの書き方を教えてあげれば、半日かかっていた計算が数十分で終わるんじゃないか、などと考えながら書き進めていると。 「――ミヒト・ゴクウ。ミヒト・ゴクウは居るか?」  窓口の奥から、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。 「あ、呼ばれたんで、すみません、途中で」  俺は鉄筆を置き、書きかけの表が描かれた木版を男に返した。 「あとは、これと同じように、下の行に似たように並べて書いていけば、ずっと計算しやすいはずですよ」  途中で放り出されたというのに、男は怒ることもなく、ただ俺が作った『表計算』の木版を、穴が開くほど無言で眺め続けていた。  俺は彼に軽く会釈をし、声がした窓口の奥へと向かった。  §  仕事を紹介してくれる担当者が出るのかと思いきや、俺は窓口の脇にある木製の半扉を抜けるように指示され、建物のさらに奥にある、重厚な扉の前に案内された。 (仕事の紹介って、いきなり個室の面接から始まるのか?)  少し首を傾げたが、言われるがままにするしかない。  俺は扉の前に立ち、中学校での進路指導や面接練習で叩き込まれた記憶を呼び起こした。  コン、コン、コン。  扉を三回ノックする。  しばらく待たされた後、中からくぐもった声で「入れ」という短い返事があった。  俺はドアノブを回して部屋へと足を踏み入れ、 「失礼します」  と、はっきりとした声で挨拶をした。 (確か、ドアを閉める時は、大きな音を立てちゃダメなんだよな)  面接指導の先生の顔を思い浮かべながら、俺は振り返り、カチャリと音がしないように静かに扉を閉めた。  向き直った部屋の中は、待合室の喧騒が嘘のように静まり返った、豪奢な応接室だった。  部屋の中央には、革張りの高級そうなソファーとテーブル。そして奥の執務机の前に、一人の男が立っていた。  太っているというか、筋肉質の上に分厚い脂肪が乗ったような、大柄な男だった。黄土色の仕立ての良い背広に、模様入りの蝶ネクタイ。長い髪は、何かの整髪料でテカテカとオールバックに撫でつけられている。  そして何より目を引いたのは、口元に葉巻らしきものを咥えたその顔の、見事に『割れた顎』だった。マフィア映画や漫画に出てくる「偉そうな裏社会のボス」というイメージをそのまま具現化したような第一印象だ。顔の他のパーツがどうなっているのか、ケツアゴのインパクトが強すぎてどうでもよくなるほどだった。  目の前にソファーがあったが、「座れ」とも言われていないので、俺は扉の前に立ったまま、両手を体の横にピタリとつけ、背筋を伸ばして直立不動の姿勢を保った。  しばらくの間、沈黙が落ちた。  男は咥えていた葉巻を指に挟み、ゆっくりと紫煙を吐き出してから、低い声で口を開いた。 「……昨日の入会審査の筆記試験。満点という異常な早さと正確さから、てっきり何か魔法具でも使った『不正』があったのだと聞いていたのだがな」  男は、値踏みするような鋭い目で俺を頭からつま先まで舐め回すように見た。 「その洗練された『仕草』は……一体、何処で習った?」 (仕草?)  俺は何の話だろうと首を傾げたが、心当たりが全く思いつかない。ただ突っ立っているだけだ。  俺の戸惑いを見て、男は葉巻の灰を落とし、続けた。 「……今、この部屋の扉を入って来た時のことだ。どうやって入って来た?」 「あぁ」  俺は合点がいった。面接の時の入室マナーのことか。 「学校で習いました」  俺が正直に答えると、男の眉がピクリと跳ね上がった。 「学校……だと? そのような高度な礼法を教えるのは、王立の『貴族科』の学校くらいしかないはずだが……。君、名前は何と言う?」 「ミヒト・ゴクウです」 「ミヒト……ミヒト家?」  男は首を傾げた。「聞いたことのない貴族の名だ……最近になって新しく召し上げられた成り上がりか……? あ、いや……しばし待て」  男は葉巻の火を灰皿に押し付けて消すと、自分の執務机の後ろの棚から、辞書のように分厚い書物を引っ張り出してきた。そして、パラパラとページをめくり、『ミヒト』という貴族の家名を本気で探し始めようとした。 (いや、貴族じゃなくて、苗字と名前なんだけど……)  訂正しようと口を開きかけた、その時だった。  バーーーンッ!!  俺の背後にある扉が、乱暴に開け放たれた。扉から距離とっておいて良かった。  勢いよく部屋に飛び込んできたのは、先ほど待合室で頭を抱えていた、あの帳簿の男だった。 「スペイド兄貴!! やっぱ俺の計算、間違ってなかったぜ!!」  男は興奮した様子で叫びながら部屋に入ってくると、扉の前に立っていた俺を見て目を丸くした。 「って、おいおい! さっきの坊主じゃねーか! こんなとこで何して……いや、それより本当にありがとうな! お前のおかげで、すげえ早く計算が終わったぜ! あんな魔法みたいな書き方、どこで覚えたんだよ!」  男は上機嫌で、俺から借りていた(というより押し付けた)木版を応接テーブルの上にドンと叩きつけると、俺の両手をガシリと掴んで、まくしたてるように上下に振り始めた。 「あぁ……ええ……。終わったなら、よかったですね」  もの凄い気迫と勢いに押され、俺は引き攣った愛想笑いを浮かべることしかできなかった。 「おい、ジャラック!!」  机の奥で分厚い本を広げていた割れ顎の男――スペイドが、怒鳴り声を上げた。 「部屋に入るときはノックをしろと、何度言ったら分かるんだ!! しかも、もう計算が終わっただと? あれは丸一日かかっても終わらない量のはずだぞ! 俺の前で大ホラを抜かしてるんじゃねーぞ、ジャラック!」  怒髪天を衝く勢いで怒鳴るスペイドに対し、ジャラックと呼ばれた男は全く悪びれる様子もなく、目の前の高級ソファーにドスンと腰を下ろした。 「ホラじゃねえよ、兄貴! ほら、これを見てくれ!」  ジャラックは、自分が持ってきた数枚の木版と、俺が先ほど書いた『表』の木版をテーブルの上に並べ、スペイドに見せつけるように指差した。 「其々の数字を、この坊主が描いた『枠』の中に順番に書いていくだけで、すげー計算しやすいんだ! 日付も品物も一目で分かる! で、最後にこの一番下の列に売り上げを全部書いて足せば、すぐに合計が出るって寸法だっ!」  興奮冷めやらぬ様子で、ジャラックは俺が教えた「ただの表計算」の仕組みを、まるで世紀の大発明でもプレゼンするかのように熱弁し始めたのだった。  テーブルに並べられた木版の束を見比べたスペイドは、自身の執務机から見慣れない道具を取り出してきた。  木枠の中に、金属の細い棒が何本も通され、そこに色とりどりの小さな木の珠が通されている。日本の「そろばん」に似ているが、珠の数が違っていて、少し複雑な構造をしていた。  スペイドは、俺が描いた表の木版とジャラックの持ち込んだ記録を睨みつけながら、パチパチと凄まじい速度で珠を弾き始めた。 (……あの。俺、なんの用で呼ばれたんだっけ?)  完全に蚊帳の外に置かれた俺は、手持ち無沙汰になってしまった。  思ったよりも待たされ、気づけば「休め」のポーズで突っ立っている。 「ほら兄貴、これがここで……」 「ふむむ……!? うむむむ!!」  ジャラックが横から口を出し、スペイドが珠を弾きながら唸る。そんな異様な空間がしばらく続いた。 (今日はもう諦めて、錬金術組合にでも行けばよかったかな……)  俺がひっそりと帰り支度のタイミングを窺い始めた、その時だった。  パァァァンッ!!  とても良い音が応接室に響き渡った。  スペイドが、最後の木版らしきものを持って、ジャラックの頭を思い切り叩いたのだ。 「痛っ!? な、何すんだよ兄貴!」 「この馬鹿モンが! 最後のここの数字、計算が間違ってるじゃねーかっ!」  スペイドの怒声に、ジャラックは涙目で頭を押さえた。 「えー……嘘だろ。俺、三回も数え直したのに……」  文句を言いたげなジャラックに対し、スペイドは休む間も与えずに指示を飛ばした。 「おい、先日まとめた帳簿を全部ここへ持ってこい!」 「はぁ!? 終わったもんをまた引っ張り出してくるのかよ!?」 「いいから持ってこい! この『表』に当てはめて、一から洗い直すぞ!」  スペイドの、獲物を狙う鷹のような鋭い一睨みに、ジャラックは「わ、わかったよ。ちょっと待っててくれ」と慌てて部屋から飛び出していった。  数分もしないうちに、ジャラックは木製の小さな手押し台車に、大量の木版を山のように積んで戻ってきた。  スペイドは俺が描いた『表』の形式を、大きめの別の木版にざっくりと書き写し、積み上げられた大量の木版の整理を始めた。  さすがは商業組合のトップと言うべきか、答えとなる枠組みさえ分かってしまえば、彼が数値を書き写して計算していく速度は尋常ではなかった。  しかし、すぐにスペイドの手が止まった。 「……チッ。どうにも持ってこられた記録の書き方に、統一性がないな」  横から覗き込むと、どうやら取引相手(商人や店)によって、木版への記述の仕方がバラバラらしかった。ある者は個数を先に書き、ある者は金額を先に書いている。これでは、いくら表に書き写すにしてもミスが起きやすい。 「あの、手伝います」  俺は見かねて、台車に積まれた木版の山に手を伸ばした。 「木版を、取引相手ごと……あるいは、似たような書き方をしている人ごとに分けましょう。その方が、書き写す時に頭を切り替えずに済みますから」  俺の提案に、ジャラックが慌てて口を出してきた。 「おいおい坊主! それやっちまうと、取引を受けた『順番』が狂っちまうぞ! 後から日付や時間が分からなくなる!」 「じゃあ、木版の端に『整理番号』をつけてもいいですか? 一、二、三と順番に番号を振っておけば、後でいくらでも時系列に戻せます」  俺が言うと、ジャラックはポカンと口を開け、スペイドは「……構わん。やれ」と即答した。  そこからは、謎の共同作業だった。  俺が木版の端を鉄筆で削ってナンバリングし、取引先ごとに分類(ソート)して束を作る。それをジャラックがスペイドに渡し、スペイドが珠を弾いて表に書き込んでいく。  どれくらいの時間が経過したのだろうか。  ついに全ての木版と、新しく作られた表の照らし合わせが終わった。  スペイドは、完成した表をじっと見つめ……ゆっくりと立ち上がり、再びジャラックの頭を叩こうと手を振り上げた。 「ヒィッ!?」  ジャラックが身構える。  だが、スペイドはその手をピタリと止め、冷徹な声で命じた。 「……昨日、お前と一緒に帳簿をまとめていた連中のところに飛んでいけ。計算ミスで生じた赤字分の補填を、奴らにしてもらうと通達してこい。今すぐだ」 「あ、赤字!? マジかよ……わ、わかった!」  赤字という言葉に顔面を蒼白にさせ、ジャラックは慌てて部屋を飛び出していった。  静寂が戻った部屋で、スペイドがゆっくりと俺の方へ向き直った。 「……君」 「は、はいっ」  俺はビクッと肩を揺らした。間違ったところがあって怒られるのだろうかと、思わず体罰に身構える。  ズンズンと、スペイドの巨体が近づいてくる。  だが――次の瞬間。  スペイドは満面の笑みを浮かべ、俺の右手を両手でガシリと掴み、ブンブンと力強く振った。 「いやぁ! とても聡明な貴族様とは知らず、終始失礼な態度をとってしまい、誠に申し訳ない! 入会試験で不正があったなどと報告を受けていたが……とてもじゃないが、あんな計算速度と情報の整理能力を持つ君に、不正などあり得ん!」 「え……あ、いや……」 「ようこそ、グランディア王国商業組合・王都支部へ! 私はこの組合の長を務める、スペイド・ランドと申します!」  怒涛の歓迎モードに、俺は完全に圧倒されていた。  ここで初めて、彼が『スペイド・ランド組長』であり、先ほどのジャラックが彼の兄の息子――つまり甥であり、この組合の若頭的ポジションである『ジャラック・ランド』だという紹介を受けた。 「あ、あの。誤解されているようですが、俺は貴族じゃありません。苗字がミヒト、名前がゴクウです。ただの平民ですよ」  俺が慌てて訂正すると、スペイドは握手をしたままピタリと動きを止めた。 「貴族ではない……? だが、昨日は第三騎士団長を連れ歩いていたと……」 「ジョンソンさんは、俺のお目付け役として同行してくれているだけです。俺は……その、この世界に『召喚』された人間なんです。訳あって、王宮から追い出されまして」  俺は、隠すことなく事実を伝えた。下手に嘘をついて商人相手にボロを出すより、正直に話した方が後々の面倒が少ないと思ったからだ。 「召喚……異世界からの、勇者召喚の……?」  スペイドの目が、スゥッと細められた。  その瞬間、彼の顔つきが、先ほどまでの愛想の良い笑みから一変した。まるで、鬱蒼とした森の奥で、誰も知らない極上の『獲物』を見つけた、獰猛な肉食獣のような顔。  背筋がゾクリと冷えた気がした。  §  気づけば、俺はふかふかの高級ソファーに深く座らされ、目の前には美味しそうな焼き菓子と、不思議と覚えのある香りがするお茶が並べられていた。  お茶を運んできた女性従業員は、平民のガキがなぜ組長と対等にソファーに座らされているのかと、激しく困惑した顔で部屋を出て行った。  そして、赤字の回収に向かわされたはずのジャラックは、先ほどの倍以上の量の木版を両手に抱え、この世
  • 7月13日

    4話 実は作者はサボってるだけじゃないか?

    サボっておらず、ちゃんと書いてるよと続きを投下↓  ズキズキと、こめかみを締め付けるような鈍い痛みで目が覚めた。 (……これが、二日酔いってやつか?)  それに加えて、鼻腔を容赦なく突く強烈な匂い。  生ゴミと下水、それに昨夜のアルコールと吐瀉物が混ざり合ったような、胃をひっくり返したくなる悪臭だ。  固い木枠のベッドの上で、俺はゆっくりと身を起こした。頭がガンガンと鳴り、視界がぐるぐると回るような眩暈を覚える。だが、この頭痛と眩暈は、アルコールのせいというよりも、単にこの劣悪な「匂い」そのものが脳を直接殴りつけてきているせいかもしれない。  重い瞼をこすりながら隣のベッドに視線を向けると、昨夜あんなに大イビキをかいていたジョンソンさんの姿は、すでにそこにはなかった。  毛布は乱雑に丸められており、ベッドはもぬけの殻だ。  壁に穿たれた小さな窓の隙間からは、白々と濁った光が差し込んでいる。外からは荷馬車の車輪が石畳を擦る音や、人々の喧騒が聞こえてくる。  窓を開けて外を見ると、まだ空は暗さを残している。まさか夕方まで寝過ごしたかと思ったが、周りの人々を見てみると、品物を表に出している所が見受けられるので、朝で間違いないだろう。  部屋を出て、薄暗い木造の階段をミシミシと鳴らしながら一階の酒場へと向かう。  だが、階段を半分ほど下りたところで、俺は思わず足を止めた。  下から立ち上ってくるのは、昨夜の酔っ払いたちが撒き散らしたであろう、強烈な吐瀉物とアルコールの残骸の匂い。  俺は「鼻で息をしない」と強く意識し、口呼吸だけを頼りに、覚悟を決めて一階の酒場へと下りていった。  静まり返った店内には客の姿はなく、奥のテーブル席に、大きな背中を丸めて座っているジョンソンさんの姿だけがあった。  彼は手元の木製ジョッキを傾けていたが、階段を下りてきた俺の足音に気づき、こちらを振り返った。 「……いつまで寝てるんだ」  昨日あれだけ酔い潰れて寝ゲロまで吐いたというのに、まるで何事もなかったかのような、ひどく堅苦しい口調での出迎えだった。 「すいません……ここ数日、まともに眠れていなかったので」  素直に頭を下げて詫びを入れる俺の後ろから、カウンターの奥で布巾を洗っていた店主が、呆れたような声で突っ込みを入れた。 「おいおい。まだ早朝もいいとこだぞ。太陽だってろくに昇りきっちゃいねえ。あんたの体内時計と一緒にすんな」 「……長年、騎士団の最前線にいた癖みたいなもんだ。太陽より先に起きるのが染み付いちまってるんだよ」  ジョンソンさんはバツが悪そうに言い訳をしながら、手元のジョッキに入ったエールを一気に煽った。 「ほら、お前も座れ。そしてこれを飲め」  ジョンソンさんが顎で指した俺の席には、すでに木製のコップに注がれたエールが置かれていた。 「また、朝からお酒ですか……?」 「素面(しらふ)でいりゃ、この街の匂いで鼻と頭が死ぬぞ。昨日の夜で懲りただろ。軽くでいいから喉に通しておけ」  確かに、俺の頭痛と眩暈は今も継続中だった。  俺は椅子に腰を下ろし、苦虫を噛み潰すような気分で、コップのエールを軽く喉へ流し込んだ。 「……すっぱ……」  思わず顔をしかめる。昨夜は苦いと思ったが、改めて味わうと、古い麦茶を放置して酸味が出たような、なんとも言えない酸っぱさが際立っていた。  だが不思議なことに、アルコールが胃に落ちると、鼻をつく悪臭が少しだけ遠のいた気がした。  外から鐘の音が聞こえてくる。来てから耳を傾けていなかったが、結構響く音だなと思ったら、ジョンソンさんがジョッキを置き、居住まいを正した。 「さて、と…昨日の話の続きだ。お前が一人で生活していくための『宿』を探す件だがな」  俺が黙って頷くと、ジョンソンさんは、突っ伏した客を起こしたり、担いで表に放り投げたりしている店主の方へ、親指を向けた。 「色々と探すのも面倒だ。とりあえず、この酒場の二階にある一番安い客室を貸してもらえることになった。……俺はここには泊まらねえが、お前は当分、ここを拠点にしろ。色々と融通も利く」  元・第三騎士団長のコネというやつだろう。どこの馬の骨とも分からない身分証明書(居住許可証)しかない俺が、安全な宿を見つけるのは至難の業だ。断る理由など一つもない。 「はい。ありがとうございます」  俺が素直に承諾すると、カウンター越しに店主が口を開いた。 「宿泊料は前払いだ。一日単位なら、小銅貨五枚。だが、一週間分まとめて前払いするなら、一日あたり小銅貨四枚で計算してやる。一週間が過ぎたら、また再度借り直しか、延長の手続きをしてくれ。……どうする?」  一日小銅貨五枚。一週間まとめ払いなら、一日小銅貨四枚。  数字の概念は分かる。だが、俺はこの世界の「金の価値」が全く分かっていなかった。高いのか、安いのか、俺の全財産でどれくらい泊まれるのか、まるで見当がつかない。 「とりあえず、部屋を先に見せてやる。それで判断しろ」  俺が返事に窮していると、店主は顎で「ついてこい」と合図をした。  店主の案内に従い、再びミシミシと鳴る階段を上がって二階へ向かう。  案内されたのは、昨夜俺とジョンソンさんが寝ていた部屋の、さらに奥にある小さな扉の前だった。 「どうだ?」  ガチャリと扉が開かれ、店主が一言だけ短く言った。  そこは、昨夜の部屋よりもさらに狭い空間だった。  人が一人横になれるだけの固いベッドと、壁にある小さな明かり取りの窓。あとは、小さな木箱が一つ置かれているだけの、簡素を通り越して殺風景な部屋だ。  だが、今の俺にとっては、雨風が凌げて、誰の目も気にせずに一人で眠れる場所があるだけで十分すぎるほどだった。 「ここで大丈夫です。寝るだけなら、ちょうどいいです」  俺がそう答えると、店主は「そうか」とだけ言って、階段を戻っていった。  一階に戻り、俺はテーブルについているジョンソンさんに尋ねた。 「宿は、あそこで良いんですけど……あの値段って、安いんですか?」  ついでに、宿代を払う前に、俺はこの世界の「通貨」について教えてもらう必要があった。 「あの……僕、この国の通貨の種類とか、価値が全く分からなくて。教えてもらえませんか」  俺の質問に、ジョンソンさんはエールを飲もうとしていた手をピタリと止め、怪訝な顔をした。 「は? お前……金の種類も知らねえのか?」 「……はい。王宮では、金銭のやり取りなんて一度もありませんでしたから」  食事はすべて支給され、装備も与えられた。隔離された施設での訓練ばかりで、市井の経済に触れる機会など皆無だったのだ。  ジョンソンさんは大きくため息をつき、天井を仰いだ。 「おいおい……物資管理官は、いくらなんでも雑すぎねえか。勇者として召喚しといて、教導官も何してたんだ?この世界の基本的な常識すら教えてねえとはな……」  呆れ返るジョンソンさんを前に、俺はふと、自分が「小銅貨」がどれなのかすら分からないことに気づいた。 「…まあいい。とりあえず、あの部屋で一日小銅貨五枚ってのは、この王都の物価からすればかなり破格の安さだ。店主の厚意だと思え。……次に通貨について教えてやるから、とりあえず、お前が今持ってる全財産を、このテーブルの上に全部出してみろ」 「全部、ですか?」 「ああ。せっかくだから、魔力孔の使い方の訓練も兼ねてな。自分が把握してる金を、種類ごとに分けて全部出してみろ」  俺は首を傾げた。 (何言ってるんだ、この人。出すだけなら、ただ念じるだけで……)  俺の疑問を見透かしたのか、ジョンソンさんは語気を強めた。 「いいから、やってみろ。ただ出すんじゃねえ、頭の中で硬貨の種類を明確にイメージして、仕分けしながら出すんだ」  俺は半信半疑のまま、魔力孔を意識した。  ポーチの中にある質感を頭の中で探る。形の違う金属の塊がある。  なんの違和感もなく、直感的に「できる」と思った。俺は左手をテーブルの上にかざし、念じた。  チャラチャラ、ジャラッ。  俺の手のひらから、二つの小さな山ができるように硬貨が零れ落ちた。  一つは、親指の爪ほどの大きさの、丸い銅色のコインの山。  もう一つは、米粒サイズほどの、不規則な形をした銅の欠片の山だ。 「よし。じゃあ、これがそれぞれ何か、分かるか?」  ジョンソンさんが、テーブルの上の硬貨を指差した。  俺は、それよりも魔力孔の収納と取り出しが、まるで自分の手足のようにスムーズに行えた仕組みそのものが気になっていたが、今は通貨の話をしているので、そちらに集中することにした。 「……えっと、こっちの丸いのは、銅貨にしか見えません。で、こっちの……米粒みたいな銅の塊は、正直、お金なのかどうかも分かりません」  俺が正直に告げると、ジョンソンさんは頷いた。 「その米粒大の銅の塊は、『割銅貨(わりどうか)』って呼ばれるもんだ。こいつだけは、正確には数で数える貨幣じゃねえ。銅を細かく砕いた欠片でな、取引の時は『重さ』で量るんだよ。一粒ずつ大きさが微小に違うからな。だいたいの商人は、袋ごと天秤に乗せて量る」 「重さで、ですか」 「そうだ。で、この国の貨幣の基本は、割銅貨から始まり、小銅貨、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨……と続く。金貨や白金貨なんてのもあるが、そんなもんは王侯貴族か大商人しか使わねえ。庶民には一生手が出る額じゃねえから覚えなくていい」  ジョンソンさんは、丸いコインの方を指で弾いた。 「基本はな、ほとんどが『百枚』で上の通貨に格上げされる。いいか、例えばこの小銅貨百枚で、銅貨一枚分の価値になる」  さらに彼は、自分の懐から、先ほどのコインよりも一回り大きく、分厚い銅の硬貨を取り出してテーブルに置いた。 「こいつが銅貨だ。つまり、この銅貨一枚は、小銅貨百枚分ってことだ」  言われた通りに、俺はテーブルの上に出した自分の全財産を数え直した。  丸いコイン――小銅貨が、五十枚。  米粒大の欠片――割銅貨が、五十個ほど。  それが、王宮から「当面の路銀」として渡された金額のすべてだった。 (……一瞬、小銅貨が五十枚もあるから、一週間以上は余裕で暮らせるじゃないかと思ったけど……)  現世での暮らしを思い出し、背筋が冷たくなる。  宿代だけ払えば生きていけるわけではない。毎日の食費、着替え、情報を集めるための活動費。これ以外にも、お金は湯水のように消えていくのだ。  俺は、硬貨を見つめながら、一つ気になることをジョンソンさんに聞いた。 「あの、この『割銅貨』って……いちいち重さで量るの、面倒じゃないですか?」 「面倒だが、そうするしかねえんだ。さっきも言った通り、欠片の大きさが微妙に違うからな。天秤に乗せて、九十九個で小銅貨一枚分(の重さ)になったり、百一個で一枚分になったりするからな。きっちり百個とは限らねえ」  なるほど、グラム単位での価値計算が必要になるのか。  ジョンソンさんは、腕を組んで俺の顔を覗き込んだ。 「じゃあ、ここで簡単な問題を出してやる。お前、頭は働くか? もし、この宿を『三日』だけ借りた場合、宿代はいくらかかると思う?」  俺は、息を吐くように即答した。 「一日小銅貨五枚なんで、三日だと十五枚ですね」  ジョンソンさんは、おお、と少しだけ片眉を上げた。 「じゃあ、一週間分まとめて借りて、そのあとに『あと二日』続けて日割りで借りた場合は?」 「三十八枚ですね」  俺は、あっさりと答えた。  一週間分は、一日四枚で七日だから二十八枚。それに日割りの二日分(十枚)を足して、三十八枚。中学生なら、というより小学生でもできる簡単な暗算だ。 「……となると、この手持ちの小銅貨五十枚だと、確かに二週間暮らすのは厳しいですね。……十一日が限界ですか」  俺はテーブルの上の硬貨を見つめながら、ぽつりと呟いた。一週間(二十八枚)と、残り二十二枚。日割りの四日分(二十枚)で四十八枚。残りは二枚。十一日泊まれば底を突く。 「……え?」  ジョンソンさんが、間抜けな声を出した。  彼は少し身を乗り出し、俺の目をじっと見た。 「……おい。じゃあ、もし百枚の小銅貨があったとして、この宿に何日住めるか分かるか?」 「えっと……」  頭の中で式を組み立てる。  百割る二十八(一週間分)は、三。つまり三週間。  二十八かける三は八十四。百引く八十四で、残りは十六枚。  十六枚を日割りの一日五枚で計算すると、三日。残りが一枚。 「三週間と三日ですね。小銅貨が一枚余ります」  俺は、数秒の間を置いただけで、あっさり返した。 「い、いやいやいや! ちょっと待て! お前、今、どう数えた!?」  ジョンソンさんが、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。 「どう数えたって……普通に計算しましたけど。一週間まとめ払いなら二十八枚だから、百の中に二十八が三つ入って八十四。残りの十六枚を、日割りの五枚で割って三日。一枚余り……ですよね?」  俺が計算のプロセスを説明し始めると、ジョンソンさんは両手で頭を抱え、フラフラと椅子に座り直した。 「……おい、親父! エールを追加だ!!」  彼は悲鳴のような声で、カウンターの店主に叫んだ。  ジョッキになみなみと注がれたエールを持ってやってきた店主は、俺とジョンソンさんのやり取りを遠巻きに見ていたらしい。 「おい、小僧。お前……今、紙も木版も、書くものも無しで頭ん中だけで計算したのか?」  店主が、信じられないものを見るような目で俺を見てきた。 「はい。暗算ですけど……」  俺があっさりと答えると、店主は無言でジョンソンさんと顔を見合わせた。  しばらく、重苦しい無言の時間が過ぎた。  俺は、あまりにも会話が止まってしまったため、(そろそろ、宿代を払って行動に出ないか?)と提案しようかと考え始めていた。  その沈黙を破ったのは、エールを一気飲みしたジョンソンさんだった。 「……おい、ゴクウ。もしかして、お前……『読み書き』もできるのか?」  俺は頷いた。 「はい。できますよ」 「いつ、どこで習ったんだ?」  ジョンソンさんが、身を乗り出して食い下がる。 「ええと……」  少し返答に詰まる。この世界の文字をいつ覚えたかと言われても、自分でもよく分かっていないのだ。 「気づいたのは、城で魔法の訓練を学んでいた時でしょうか。支給された魔法書を開いたら、なぜか普通に読めたんです。……ただ、その代わりというか」  俺は、少しだけ寂しさを混じえた声で告げた。 「自分が元々いた国の文字の書き方を……思い出せないんです。完全に忘れてしまいました」  異世界に転移した時、日本語の文字は頭から消え去り、代わりにこのグランディア王国の文字が読み書きできるようになっていた。  俺の答えを聞いたジョンソンさんは、再び頭を抱えてテーブルに突っ伏した。 「いくらなんでも……愚かすぎやしないか?」  彼は、ギリッと奥歯を噛み締めながら、地を這うような声でブツブツと呟き始めた。 「暗算ができて、読み書きができる十五歳。こんな奴を、戦闘能力が少し劣るってだけで『無能』扱いして、あっさり追放しようとした馬鹿はどこのどいつだ……王宮の連中は、一体何を見てやがったんだ……」  戦闘能力にしか価値を見出さない、狂気的な合理主義の国。  王宮の短絡的な判断に心の底から呆れ果てているようだった。  その時、カウンターにいた店主が、何かを思い出したように速足で奥へと引っ込んだ。  戻ってきた店主の手には、何枚かの色が塗られた板と、金属の棒のようなものが握られていた。 「おい、小僧。……こいつは、うちの昨日の仕入れ額と、売り上げの帳簿だ」  ドン、とテーブルに置かれたのは、表面に蝋のようなものが塗られた、文字の書いてある木版だった。  俺が首を傾げていると、店主は金属の棒――鉄筆を俺に押し付けてきた。 「計算してみろ」  半ば強引に促され、俺は仕入れ額が書かれた木版を覗き込んだ。  正直、書かれている単語が何の材料(肉なのか、酒なのか)なのかはよく分からない。だが、それぞれに金額らしき数字が書かれており、横には先日の日付と、個数らしき数字がズラリと並んでいる。  結構な数の項目が書かれており、いちいち計算するのは面倒に感じたが、数字の羅列を追っていくうちに、俺はある違和感に気づいた。 「あの……店主さん。ここの金額、間違ってますよ」  俺は鉄筆で、木版のロウの表面を引っ掻いてチェックを入れた。 「小銅貨の掛け算の桁がズレてます。……あ、こっちの足し算も違いますね。これだと、合計金額がこの値段にならないとおかしいです」  スラスラと間違いを指摘し、最後に仕入れ金額の正しい合計を余白に書き出す。  木版を覗き込んでいた店主の目が、限界まで見開かれた。 「お、お前……! これ、うちの嫁が半日かけて計算した帳簿だぞ……!」  店主は木版と俺の顔を二度、三度と見比べた後、バンッと両手をテーブルに叩きつけた。 「小僧! お前、今日からうちで働かないか!? 宿代もメシ代もタダにしてやる! いや、それどころか色つけて払うから、帳簿係をやってくれ!」  突然の猛烈なスカウトに、俺は驚いて隣のジョンソンさんを見た。  ジョンソンさんは、慌てて店主と俺の間に割って入った。 「ちょ、ちょっと待て、親父! こいつの就職先を勝手に決めるな!」  ジョンソンさんは店主を制止すると、俺に向き直った。 「ゴクウ。読み書きと高度な計算ができるなら、職に就ける幅は一気に広がる。危険な肉体労働なんかじゃなく、商館の手代や、なんなら貴族の家の書記官にだって……」 「いえ」  俺は、ジョンソンさんの言葉を遮って首を振った。 「そういう、机に縛り付けられるような仕事はダメなんです」  俺には、ヨコヤマさんたちから託された「情報を仕入れる」という明確な任務がある。  そのためには、この世界のことを広く深く知り、自由に動き回れる仕事でなければならない。 「……俺は、外の街を自由に動き回れて、色んな情報…いえ、どうせなら隣街とか隣国とか回ってみたいな…と…」  聞かれるがまま答えそうになったのを抑え、旅をしてみたいなどと言い直す。  ジョンソンさんは口を噤み、店主は残念そうに肩を落とした。    十五歳の少年が、なぜそこまでして「動く」ことにこだわるのか。  ジョンソンさんは何かを察したように、ただ短く息を吐いた。 §  酒場の店主との交渉は、思いのほかスムーズにまとまった。  俺が日々の素材費用の仕入れや売り上げ金の計算を手伝うことを条件に、あの狭い二階の客室の宿代をさらにまけてくれるというのだ。  これで当面の生活拠点は確保できた。情報を集めるための「根城」ができたことに、俺は小さく息を吐き出して安堵した。 「よし、話はまとまったな。それじゃあ、本来案内するはずだった場所へ行くぞ。ついてこい」  ジョンソンさんが椅子から立ち上がり、顎で外を指し示した。  明るい光の下で改めて見ると、ジョンソンさんはかなりの巨漢だ。身長は百八十センチ台半ばはありそうで、私服の分厚い布地の上からでも、長年の鍛錬で培われた筋骨隆々たる肉体が分かる。白髪が混じり始めた黒髪を無造作に後ろへ流し、顎には綺麗に切り揃えられたダックテイルの髭を蓄えている。四十七歳という年齢相応の渋みと、長年死線を潜り抜けてきた武人特有の鋭い眼光があった。  彼は貴族街に立派な家を持っていると聞いたが、帰っても誰もいない独身らしい。王宮から厄介払いされた俺の監視役とはいえ、こんな十五歳の子供を危険な下町に一人で放り出すのは気が引けたのか、わざわざこうして面倒を見てくれているのだ。  不器用だが、根は決して悪い大人ではないのだろう。 「どこに行くんですか?」 「お前なら、何処行ってもやっていけそうだが、こっちの世界はまだ本当に何もしらんだろうからな。仕事に就くまえに、まず必要な所に登録するんだ。勝手に商売はできんからな。間違っても黙って露店出したりするなよ?」  そう言って、ジョンソンさんは迷いなく城下街の奥へと足を進めた。  流石のゴクウも、無許可露店などやる気は無いし、現世でも場合によっては法に触れる。「え…ええ…はい…」と気のない返事を返した。 §  一番にやってきたのは、石と木で雑に建てられた、ひときわ大きな建物だった。扉の上には、「月桂冠」というのか、木の枝を円にした絵が描かれた、古ぼけた看板が掲げられている。 「ここは……?」 「『冒険者組合』だ」  ゲームやファンタジー小説でお馴染みの言葉に、俺は少しだけ心を躍らせて重い木の扉をくぐった。  ――しかし、中に入った瞬間、俺は思わず顔をしかめ、袖で鼻と口をきつく覆った。 「うぇっ……うえぇぇぇっ…」  一瞬、吐き気を我慢したのだが、また別のベクトルで臭い空間に驚いた。  そこは、ワクワクするような冒険の拠点などでは決してなかった。  外の城下街に漂う生ゴミや濁った匂いなど、まだ可愛いものだった。組合の中には、何日も風呂に入っていないであろう屈強な男たちの強烈な体臭、乾いた血の匂い、泥の匂い、そして解体されたまま放置されたような魔物の素材の『腐臭と獣臭』が、むせ返るほどに立ち込めていたのだ。  エールの酸っぱい味で誤魔化していた感覚が吹き飛び、新しい二種類の悪臭のせいで、再び激しい頭痛が襲ってくる。  だが、ジョンソンさんは顔色一つ変えず、当然のように組合の奥へとずかずか進んでいく。俺は吐き気を堪えながら、その広い背中を必死に追いかけた。  ジョンソンさんが受付のカウンターに立つと、書類仕事に追われていた受付の女性が顔を上げた。  彼女はジョンソンさんの顔を見るなり、ビクッと肩を震わせ、目を丸くして驚愕の声を上げた。 「ジョ、ジョンソン様!? えっ!? あ、あの、また当組合の誰かが、何か犯罪を犯したのでしょうか……!?」  その悲鳴のような声に、薄暗い組合内にたむろしていた冒険者らしき粗野な男たちが、一斉にこちらのカウンターへ視線を向けた。 「違う。今日はそんな面倒な仕事じゃねえ。こいつの案内に来たんだ」  ジョンソンさんは、自分がすでに騎士団長ではなくなったことを周囲に悟られないよう、やんわりと威圧感を抑えた声で言い、背後に隠れていた俺の襟首を掴んで、カウンターの前に引きずり出した。  突然、数十人のガラが悪い男たちの視線に晒され、俺は心臓が跳ね上がった。 「あ……ども……」  完全に萎縮してしまい、蚊の鳴くような声で曖昧な挨拶をしてしまう。  その様子を見て、組合の空気が一気に変わった。  どうやら「摘発ではない」と分かったらしく、酒を飲んでいたガラの悪そうな三人組の男たちが、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながらこちらへ近づいてきた。 「おっとぉ? 誰かと思えば、天下の第三騎士団長様じゃねえか。こんな掃き溜めにまで見回りたぁ、ご苦労なこって」  三人組の一人が、わざとらしく肩をすくめて言う。ジョンソンさんは彼を一瞥しただけで、無言で無視を決め込んだ。 「……あれぇ? 騎士の連れもいねえし、鎧も着てねえ。見回りじゃねえの? まさか、クビか?」  もう一人の男が、ジョンソンさんの私服姿を指差して嘲笑う。  それに呼応するように、別の席で液体の入ったような革袋のようなものを口につけて飲んでいた男が、テーブルを叩いて大声を上げた。 「げはははは! とうとうお払い箱かよ! なんでも異世界から『勇者様』が現れたって噂だけど、もうテメェら騎士団は必要ねーってかぁ?」 「そういや、ヘーゼル子爵様のところで、手柄を右も左も知らねー新米に全部持っていかれた
  • 7月12日

    なぜにAIを使ってるのか 第三話

    AIを利用してる理由ですが、単純に語彙力の無さでしょうか。以前まで表現が難しくて手が止まる事がおおかったので、AIを利用した小説を出しています。 チャッピーにプロットについての指摘を貰って修正して、ジェミニに小説を仕上げてもらっています。できた小説はチャッピーに投げて、良くなさそうな部分の修正を手伝ってもらっています。 内容については、自力8:AI2という感じです。ただAIが余計な1行を入れたりして、それに気づかづに設定を吐き出していたなどあるかもしれません。 なんて言い訳してますが、どうせここを見る人は少ないだろうから、以下から三話いきます。 第三話 悪臭と汚物  王宮の中心部から離れ、手入れの行き届いた無駄に広い庭園を抜けると、鉄を白く塗った堅牢な格子の門までやってきた。  王族や上位の貴族たちが馬車で出入りするような壮麗な正門とは違う。ここは城の裏手にある、限られた関係者や物資の搬入などに使われる通用門のようだった。 「第三騎士団長……いえ、ジョンソン様。長い間、本当にお世話になりました……っ」  門番をしている若い騎士が、声を震わせながら右手を胸に当てて敬礼の姿勢を取った。  言われた騎士団長――私服姿の彼は、どうやらジョンソンという名前らしい。彼は何も言わず、ただ敬礼している若い騎士の肩をポンと叩き、その手を強く握った。言葉を交わさずとも、二人の間にある確かな信頼関係が見て取れた。  反対側に立っているもう一人の騎士は、ジョンソンさんとは特に知り合いではないのか、あるいは周囲の目を気にしているのか、無言で機械的な敬礼をするだけだった。  重々しい金属音を立てて、白い格子の門が開く。  ジョンソンさんに促されるまま、俺はその門をくぐり抜けた。  ガチャン、と背後で冷たい鉄の音が鳴り、門が完全に閉じられる。  振り返ると、門の向こう側には、これまで数日間閉じ込められていた王宮へと続く長い石畳が真っ直ぐに伸びていた。あの分厚い壁の向こうに、タツキさんやマリさん、ヨコヤマさん、ミカさんがいる。  彼らと完全に分断されてしまったという事実が、重い鉛のように胃の底へ沈んでいく。俺が茫然とその白い鉄格子を眺めていると、背中を叩かれた。 「さっさと歩け。未練がましく振り返ってんじゃねえ。ここから早々に立ち去るぞ」  ジョンソンさんはぶっきらぼうに言い放ち、俺を急かすように前を歩き出した。そのまま正門脇にあるもう一つの外周通用門をも足早に抜け出し、ついに城の敷地を完全に後にした。 §  堀に架かる石橋を渡りきると、目の前に広大な城下街が広がった。  石造りの家々がひしめき合い、未舗装の土と石畳が入り交じる路地には、大勢の民衆が行き交っている。荷馬車の車輪の音や、客引きの声。王都としての活気は確かにある。  ……しかし、それと同時に、なんとも言えない凄まじい「臭気」が漂ってきて、俺は思わず口元を押さえ、噎せ返りそうになった。 「うぇっ……なんだ、これ……」  生ゴミが腐ったような匂い、泥水と排泄物が混ざったような下水の匂い。だが、それだけじゃない。皮膚の表面にねっとりとへばりつくような、生理的な嫌悪感を刺激する不気味な臭いだ。王宮での香油と糞尿を混ぜた匂いとは比べ物にならない、酷い臭気が漂っている。  ジョンソンさんもひどくキツそうな顔をして眉根を寄せていたが、立ち止まる俺の背中をさらに強く叩き、「いいから城から離れるぞ」と顎で方向を指し示した。  息を浅くし、口呼吸で誤魔化しながら、ジョンソンさんの背中を追って速足で歩く。  十分ほど入り組んだ路地を進んだ先で、一軒の古びた店が見えてきた。木製の看板には、文字の代わりに大きなジョッキの絵が彫られている。ジョンソンさんは迷うことなく、その重い木の扉を押し開けて中へ入り込んだ。  そこは、いかにも場末といった雰囲気の酒場だった。  まだ昼間だということもあり、薄暗い店内には客がまばらに座っているだけで、静かなものだった。 「なんで、酒場なんかに……」  俺が戸惑いながら尋ねると、ジョンソンさんは奥のテーブルに腰を下ろしながら、あの外の匂いについて説明し始めた。 「いいか。まずはとにかく一杯ひっかけねえと、あの臭いで気分が悪くなって倒れるからだ。こういうのは、酒で感覚を麻痺させるのが一番なんだよ」  そんな話をしていると、店の奥から、分厚い前掛けをした無精髭の店主らしき大柄な男が出てきた。  男は最初、私服姿のジョンソンさんを見かけて「誰だ?」というように首を傾げていたが、数秒後、ハッとしたように目を見開き、大きな声でジョンソンさんの名を呼んだ。どうやら、彼らは昔からの友人同士であるらしかった。  二人が何やら親しげに言葉を交わしている間、俺は案内されたテーブルの木目をじっと見つめていた。  ――俺の心は、先日の王宮での決定から、未だに立ち直りきってはいなかった。  ここまでの道のりでも、ただジョンソンさんの言われるがままに歩かされていただけだ。こうして酒場の椅子に座り、歩みを止めた瞬間に、言葉にできないほどの巨大な孤独感が、真っ黒な津波のように襲い掛かってきた。  新宿の街で、たった一人の家族である妹の紗耶香と離れ離れになった。  この異世界で最近ようやくまともな会話ができるようになった、頼りになる年上の仲間たちとも、完全に分断されてしまった。 『外の情報を集めてくれ』  ヨコヤマさんから重大な頼みを託されたものの、俺はどこから手を付ければいいのか全くわからない。この世界の常識も、文字も、地理すら知らないのだ。  たかだか十五年しか生きていない人生経験の少ない俺は、数式すら教わっていない絶対に解けない計算問題を前に、ただ唖然と立ち尽くしている状態だった。息をするのもしんどい。目の前が、ぐるぐると暗く回っているような錯覚に陥る。 「おい、小僧。話を聞いてるか」  不意に、テーブルの向かい側に座ったジョンソンさんが、木のテーブルを指の関節でコツンと叩いた。 「ボーッとしてんじゃねえ。渡された所持金と、居住許可証を見せろ」  言われるがままに、俺は懐から王宮で渡された革のポーチと、丸められた羊皮紙を差し出した。  ジョンソンさんはポーチの紐を解き、中身のお金を手のひらに広げて数え始めた。 「……チッ。…元とはいえ、勇者サマの生活費が、たったのこれっぽっちか。本当に情けねえ国だ」  彼は忌々しそうに文句を言い、小銭をポーチに戻して俺に投げ返した。  続いて、居住許可証の羊皮紙を指さす。 「いいか。その居住許可証については、毎日必ず身につけて持ち歩け。ただし、身元がハッキリしてる奴……衛兵や、身分証明を求められた役人だ。そいつらに『見せろ』と言われた時以外は、簡単に表に出すな」  ジョンソンさんの現実的な指示に、俺は自分が酒場に来て、彼からこれからの「生き方」を教わっているのだと、ようやく意識を現実へと向けることができた。  再度、同じ説明を繰り返してくれたが、俺はどうしても気になることがあった。 「あの……これ、どう見てもインクで書かれてますよね? もし雨とかで濡れたり、ポケットの中で擦れたりして文字が消えたら、どうなるんですか? 魔法的に消えないインクを使っている…とか…ですか?」  もし文字が消えれば、俺はこの国にいる資格すら失う。その懸念を口にすると、ジョンソンさんは呆れたように息を吐いた。 「魔力孔があっただろ? そこに仕舞っておけ」 「……え?」  魔力孔。  魔法のエネルギーである、魔素を蓄積するための生体器官だという説明は受けたが、そんな使い道があるとは初耳だ。  自分は現世の時とは違い、この世界では一応、それなりの不思議な力を持っている器官を備えていることを思い出す。何も出来ないと思い込んでいた心に、ほんの僅かな光明が見え、意識が急速に現実へと戻っていく。 「いいか、魔力孔ってのは、魔力を蓄積・変換する処理機関だが、目に見えねえ『空間』としても機能する。大事な物を保管するには一番安全な金庫になるんだよ」  ジョンソンさんは、テーブルの上に置いたままの羊皮紙を、デモンストレーションのようにスッと消してみせた。 「実際、どれくらい中に入るんですか?」 「魔力そのものは大量に蓄積できるが、質量のある『物質』を入れると、一気に容量を圧迫して魔力孔の処理能力が大きく落ちる。お前の処理能力がどれくらいか知らんが、まあ…やってみろ」  言われた通り、俺は精神を集中させ、胸の奥にある「何か」を意識した。  一か所の魔力孔を意識し、居住許可証の羊皮紙を握った手を胸に当てる。フッ、と手のひらから質量が消えた。  消えたことに驚くものの、確かに身体の奥に「異物感」がある。そして不思議なことに、目を閉じると、まるで見ているかのように羊皮紙に書かれた文字の内容が脳裏でハッキリと確認できた。 「すごい……本当に入った」 「よし。じゃあ次は、その財布だ」  俺は、ジョンソンさんに見せていた財布代わりの革ポーチを、羊皮紙を入れたのと同じ魔力孔に入れようと試みた。しかし、フッという感覚が起きず、手の中に残ったままだ。  首を傾げる俺を見たジョンソンさんは、軽く笑って説明をする。 「入らなければ、容量オーバーだ。物質には体積だけじゃなく、そのものが持つ魔素の密度も関係する。隣の魔力孔を意識してみろ」  別の魔力孔を意識して入れようとするが、これも入らない。弾かれるような感覚がする。 「小銭をバラして、少しずつ分けて仕舞うんだ。孔によって、入る『大きさ』の処理限界が違うんだよ」  何度か試行錯誤しているうちに、どうやら、最初に入れた羊皮紙の魔力孔が、俺の中で一番容量の多い魔力孔であることが分かってきた。  俺は羊皮紙を一度外に取り出し、それを別の小さな魔力孔に収納し直した。そして、空いた一番大きな魔力孔に、無事に革ポーチを丸ごと納めることができた。  手ぶらになった自分の両手を見つめる。  指輪やミサンガ、ミカさんからもらった赤い石も、これで誰にも奪われることなく安全に持ち歩くことができる。…最後のポケベルも、この中に入れておこう…。  ほんの少しだけだが、この理不尽な世界で「生き抜くための手段」を一つ手に入れた感覚があった。  城の訓練場では、基礎魔法を習ってすぐに魔法の撃ち方は教わったが、この「魔力孔」という器官の具体的な構造や、ましてやインベントリのような収納機能については、俺を含めて四人の仲間の誰も教わっていなかった。  ヨコヤマが愚痴っていた通り、王国側は、俺たちを便利な兵器として使うため、あえて自立に繋がるような余計な知識を与えていなかったのかもしれない。  この魔力孔について、もう少し詳しく教えてもらおうと口を開きかけたが、ジョンソンさんは次々と運ばれてくるジョッキのエールをあおりながら、それを片手で制した。 「魔法の裏技なんざ、今はどうでもいい。それよりも先に、お前が一人でこの街で生活していくための『基盤』を作らねえといけない」  ジョンソンさんは木製のジョッキを傾け、大きく喉を鳴らした。 「まずは『宿』だ。仕事を探すにも、住所がねえ奴はどこも雇っちゃくれねえぞ。……お前の国でも、住所不定で無職の奴ってのは、どう見られている?」  その問いに、俺は少し考える。 「……大体が、警察のお世話になるような人だって、テレビの番組とかでよく見かけました。少なくとも、良いイメージは全くありません」 「…すまん。前半の意味がさっぱり分からない。後半の意味で合ってるとは思う…」  ジョンソンさんは渋い顔をしたが、内容は伝わっているようだ。  日本の社会でも同じだ。素知らぬ、どこの馬の骨とも分からない奴に、部屋を貸してくれる人間なんていないし、仕事も与えられない。  現世だってそうだった。両親が事故で亡くなった後、中学生と小学生の兄妹というだけで、ほとんどの不動産屋や大家から入居を断られた。行くあてがなくなり、ようやく行き着いた先が、祖父が持っていた築数十年のボロボロの古アパートだったのだから。 「仕事を探すにも、どこの宿に泊まってるか聞かれる。毎日寝床を変える流れ者なんざ誰も信用しねぇ。だから最初は、日払いの安宿を拠点にするしかない。だが、お前に渡されたそんなはした金じゃ、普通に泊まって飲み食いしてりゃ、一週間も持たずにすぐに底を突くぞ」  ジョンソンさんはジョッキをドンと置き、「だから……」と身を乗り出した。 「俺にアテがあるから、そこは任せとけっ。俺の顔が利く、安くて……それなりに安全な塒を紹介してやるよっ」  力強く言ってくれるのはありがたいのだが、なんだか言葉の語尾がひどく雑になっている。焦点も少し合っていない。  どうやら、空きっ腹にものすごいハイペースで酒を流し込んだせいで、完全に酔い始めているようだ。  渡された金だけでは、一週間も生きられないという冷酷な現実。  住む場所を探すこと。  仕事を探して、日銭を稼ぐこと。  俺は十五歳だ。日本にいれば、まだ義務教育を受けている中学生だ。  考えることが多すぎて、脳の処理が全く追いつかない。続けて喋っているジョンソンさんのひどく酔った言葉が、頭の右から左へと抜けていってしまった。  どれが最初なのか。今は具体的に、まず何をすればいいのかを聞きたかったのだが、ジョンソンさんは再びジョッキをあおると、そのまま「ドンッ」と音を立ててテーブルに突っ伏してしまった。 「俺もなァ……。本来なら、騎士団の最前線を降りた後は、王都の中枢で、もっとふんぞり返れるような役職に就く予定だったんだよ……」  テーブルに顔を半分押し付けたまま、ブツブツと愚痴をこぼし始めるジョンソンさん。  これはダメか、と俺は小さくため息をついた。  ふと、店主が気を利かせて俺の前に置いてくれていた「エール」の入った木製のコップに視線を落とす。  未成年が酒なんて…という倫理観が頭をよぎったが、この世界では十五歳はすでに「大人」として扱われるらしく、酒を飲んでも違法ではないと城の食事会で聞いたのを思い出した。  何より、この店の中まで漂ってくる城下街の腐敗臭や便所の臭いが、俺の精神をゴリゴリと削っていた。  俺は両手でコップを持ち上げ、思い切ってそれを口に含んだ。 「…うぇっ…まっず……!」  思わず声に出してしまった。ハッキリ言って、信じられないほど美味しくない。ぬるくて、苦くて、妙な酸味がある麦の汁だ。麦茶を腐らせて微量の炭酸を入れたような味がする。  だが、アルコールが喉を焼く感覚と、強烈な匂いのおかげで、不愉快な街の臭いを感じにくくなったのは確かだった。 「張り切り過ぎたのかなァ……」  ジョンソンさんが、赤い顔をゆらりと持ち上げ、引き続きエールをチビチビと飲みながらブツブツ言っている。 「平民上がりでも、自分でも引くくらいに王家に忠誠誓って、必死に汚れ仕事もやってきたと思ったんだけどよォ……。上の連中には、俺の必死さの裏にある打算が、透けて見えてたってことかァ……?」  独り言なのか、俺に話しかけているのかも分からない。 「異世界人を監視する役だと聞いた時は、勇者計画の中枢に関われる栄転だと思ったんだ……。だが、蓋を開けりゃ、結局俺も一緒に、王宮から遠ざけるための左遷役職だ……あぁっ!もうっ! クソッタレが……」  それ、大声で言っていいことじゃないのでは?  大人の事情や、王宮の複雑な派閥争いなど俺にはよく分からないが、王族や宰相への不満を酒場でぶちまけるのは、この世界でもかなり危険な行為なんじゃないかと思った。  だが、泥酔した大人を相手に説教をして黙らせるほど、俺に心の余裕があるわけもない。  数口飲んでいたエールのせいで、口の中がひどく気持ち悪くなってきた。  もう少し飲みやすいものはないかと思い、カウンターの奥で木皿を拭いている無精髭の店主に、「あの、すいません。ジュースとか、甘い飲み物って無いですか?」と尋ねてみた。  店主は少し驚いた顔をした後、何の返事もしなかったので、エールをチビチビしていたら、無言でブドウジュースを持ってきてくれた。  店主に礼を入れていると、ジョンソンさんは完全に酔い潰れる直前の、変に頭が回る状態に入ったらしい。  …だが、呂律が回っていなくて、さっぱり何言ってるか分からない。  何とか頭に叩き込もうと聞き入るも、ブツブツと喋っていたジョンソンさんの顔色が一気に青ざめた。 「おえっ……」  次の瞬間、ジョンソンさんはテーブルの上に突っ伏したまま、ゲロを吐きながら完全に眠りに落ちてしまった。 「うわっ!?  すいません、店主さん!」  俺が慌てて立ち上がって店主を呼ぶと、彼は「ったく…しょうがねえな」と呆れた顔をしながらも、慣れた手つきでバケツと布巾を持ってきて、あっという間に寝ゲロを片付けてくれた。 「お前さん、今日は二階の客室を使え。こいつのツケにしといてやる」  店主はそう言って、親切にもジョンソンさんの巨体を担ぎ上げ、二階の薄暗い部屋まで運んで案内してくれた。 「あれ? ここで泊まっていっていいって…事なのかな……?」  安宿の手配を任せろと言っていたジョンソンさん本人は、すでにベッドの一つを占領して、幸せそうに高いイビキをかいている。  他に選択肢もない俺は、ため息をつきながら、もう一つ空いていた固い木枠のベッドに靴を脱いで寝転がった。  藁を詰めただけのマットレスは、日本の使い古した布団よりも遥かに寝心地が悪かった。  だが、疲労困憊の身体は泥のように重い。  薄暗い天井の染みを眺めていると、先日の夜、城の特別宿舎で行われた仲間たちとの「密談」の記憶が、鮮明に脳裏へと蘇ってきた。  藁が詰まっただけの固いマットレスの上で、俺は天井の染みをじっと見つめていた。  隣のベッドからは、ジョンソンさんの大きなイビキと、酒臭い寝息が規則正しく聞こえてくる。一階の酒場からは、酔っ払いたちのくぐもった笑い声や怒声が、床板を抜けて微かに響いていた。  部屋の窓を開くと、既に夜を回っているようだ。  色々と不安な事があったのに、酔いというのは本当に思考も感覚も暈す作用があるようだ。  不安になったら酒に逃げる人の事を、なんとなく理解できた。  薄暗い部屋の中で目を閉じると、昨日の夜――王城の特別宿舎で行われた、仲間たちとの最後の話し合いの光景が、昨日のことどころか、たった今起きている現実のように鮮明に脳裏へ蘇ってきた。 §  ――城の部屋の空気は、ひどく重かった。  王宮から追放を言い渡され、ただ絶望して俯くしかなかった俺を囲むように、四人の仲間たちが集まっていた。 『いいか、ゴクウ。これは俺たちにとって、最大のチャンスかもしれないんだ』  最初に口を開いたのは、ヨコヤマさんだった。  彼は部屋の扉の向こうにいる見張りの騎士たちに聞こえないよう、極めて低い、這うような声で現状の分析を語り始めた。 『俺たち四人は、これからこの国の「魔王を討つ勇者」として、大々的に祭り上げられる。そうなれば、警護という名目で徹底的に監視され、城の外へ気軽に出ることなんて絶対にできなくなる。……もちろん、俺たちの上がった身体能力なら、力業で城門を突破して逃げ出すことも可能だろう』  ヨコヤマさんはそこで言葉を切り、鋭い目を細めた。 『だが、そうなればどうなる? 俺たちは魔王軍という得体の知れない化け物の群れと、グランディア王国という国家の正規軍、その二つの巨大な敵対勢力に挟まれて、この異世界を逃げ回ることになる。地の利も知識もない俺たちには、確実にジリ貧だ。……だから、誰か一人が、王国の監視の目から外れて「自由」になる必要があったんだ』 『でも……!』  ヨコヤマさんの冷静な分析を遮るように、マリさんが悲痛な声を上げた。  彼女の目は真っ赤に腫れていて、今にも泣き出しそうだった。 『でも、まだ十五歳なのよ!? この世界の常識も分からない、生活力もない子を、たった一人で外の街へ放り出すわけにはいかないわ! そんなの、あまりにも無責任すぎる!』 『そうだ! マリの言う通りだ!』  タツキさんも、ヨコヤマさんに詰め寄った。 『いくらなんでも、高校生にもなってない子供を、よくわからない世界に一人きりで放り出すなんて、絶対にできん! 大人の俺たちが守ってやらなきゃダメだろうが!』  現役大学生である彼らにとって、十五歳の俺は「守るべき子供」だった。その痛いほどの優しさが、逆に俺の胸をひどく締め付けていた。 『ちょっと、二人とも落ち着きなさいな。感情論で喚いても、王家の決定は覆りませんわよ』  ミカさんが、ツインテールを揺らしながら二人の間に割って入った。彼女だけは、この絶望的な状況でもどこか楽しげな、好奇心に満ちた目をしていた。 『いいですか? 野生の魔法書を自由に集めてき――――コホン。……城内以外の場所で、協力者や情報を集められるということですわ。王家とは全く別の方向から、私たちが元の世界へ帰還するための方法を知ることができるかもしれない。そうは思いませんこと?』  魔法の研究という本音が一瞬ダダ漏れになっていたが、ミカさんの言うことは正論だった。  王城の中にいれば、王国側が提供する都合のいい情報しか手に入らない。外の世界の真実は、外に出た者にしか探りようがないのだ。  四人がああでもない、こうでもないと、俺の処遇とこれからの計画について熱を帯びた議論を交わしている間。  ――俺の心は、完全に現実から遊離していた。  両親の葬式の日も、こんな風に親戚の大人たちが、俺と紗耶香をどうするかで揉めていたっけな。  泥のような絶望に呑み込まれ、焦点の合わない目で床の絨毯を見つめていた、その時だった。 『――ゲンキデゲスカーッ!!』 「……っ!?」  背中を、丸太で殴られたかのような凄まじい衝撃が襲った。  肺から空気が強制的に押し出され、俺は「ゲホッ!」と情けない声を上げて前のめりになる。 『おい、ゴクウ! 目が死んでるぞ! 俺達全員が、お前を追い出そうとか話してる訳じゃねーんだ! しっかりしろっ』  顔を上げると、タツキさんがニカッと白い歯を見せて笑っていた。  背中をさすりながら周囲を見ると、マリさんも、ヨコヤマさんも、ミカさんも、みんなが俺の顔を真っ直ぐに見つめていた。大人たちが子供の処遇を揉めている顔じゃない。「仲間」を見る顔だった。 『ゴクウ。俺たちの話、聞いてたか?』  ヨコヤマさんが、しゃがみ込んで俺と目線を合わせた。 『……僕が外に出て、情報を集める……んですよね』 『ああ。何かしらの帰還に繋がる情報、あるいは、王国の監視の外で動ける、近しい情報を持つ協力者を探してほしい。これは、王宮に縛られる俺たちには絶対にできない、お前にしか頼めない任務だ』  頼み事。  それは、俺がこの世界で初めて与えられた、明確な「役目」だった。  だけど、俺の心にはまだ強い不安が渦巻いていた。 『見つけたとして……どうすればいいんですか? 僕は城には入れないし、皆さんは監視されてる。連絡なんて、取りようがないじゃないですか』  俺の問いに、四人は顔を見合わせて、不敵に笑った。 『そこは任せとけ。俺たちが一芝居打って、どうにかしてお前と外でやり取りができるルートを作ってやる。力づくでもな』  タツキさんが力強く親指を立てる。 『ええ。私たちにできる支援は、絶対に惜しまないつもりよ。だから、一人だなんて思わないで』  マリさんも、力強く頷いた。  口約束。  正直に言えば、大人の言う「後で連絡する」「なんとかする」という言葉を、俺は心の底からは信じきれなかった。両親が死んだ後、親戚の大人たちはみんなそう言って、結局俺たち兄妹を
  • 7月12日

    王道ファンタジーモノ2話

    勇者達はチートに近い能力を持っていますが、能力を進んで考察する物語じゃないので、そういったのを期待してる人はごめんなさい。 第二話 戸惑い  石や木の根を乗り越えるたび、車輪が激しく上下に跳ね、俺の身体が硬い木製の座席に何度も打ち付けられた。  王都を出てからどれほどの時間が経っただろうか。窓の隙間から吹き込んでくる風は、冷たさの中に微かに鉄錆と……獣の臭いを孕んでいた。  車窓の向こう、どんよりとした灰色の空の下に、目的地のヘーゼル子爵領が見えてきた。石造りの頑強な防壁に囲まれた、軍事拠点としての色合いが強い街並みだ。  だが、その景色は俺たちが想像していたような「到着」の光景ではなかった。明らかに、異常事態が起きていた。 「――門が持たんぞ! 防衛線を下げるな、死守せよッ! 槍を突き出せ!」  凄まじい怒号と、金属がひしゃげるような音。そして、獣の咆哮が地鳴りのように腹の底まで響いてくる。  街の巨大な木製の鉄門には、おびただしい数の「何か」が群がっていた。四足歩行の、毛が抜け落ちて筋肉だけが異様に発達した狼のような生物。皮膚が腐り落ち、泥と肉が混ざり合った巨人のような塊。それらが門を狂ったように殴りつけ、爪で抉り、噛みつき、今にも防壁を突破せんとしていた。門の上から必死に矢を射掛ける兵士たちの顔は、死の恐怖で完全に引き攣っている。  馬車が急停車すると同時に、扉が外側から乱暴に開け放たれた。 「第三騎士団、出撃準備せよ! 勇者は我々の準備が出来次第――」  第三騎士団長が剣を抜き、部下の騎士たちへ鋭く号令をかける。  だが、その言葉が終わるよりも早く、俺の隣の座席から凄まじい風が吹き抜けた。 「いちいち待ってられるかよ!」  タツキさんだった。筋肉で張り裂けそうな皮鎧に身を包み、傍らに置いていた大楯と大剣を持ちながら巨躯が馬車から弾き出されるように飛び出し、一切の躊躇なく、魔物が群がる最前線の戦場へと真っ直ぐに突っ込んでいく。 「おーほっほっほ! この時を待っていましたわっ!実験対象がよりどりみどりですわね!」  ミカさんが、まるで遊園地にでも来たかのような、嬉々とした声を上げて続き、 「あっ、ダメよ二人とも! 無茶しないでっ」  マリさんが青ざめた顔で杖を握りしめ、慌てて後を追う。 「……ふぅ………よし…いくぞっ」  ヨコヤマさんが深く深呼吸をし、一足遅れて音もなく地を蹴った。  俺は一瞬、足がすくんだ。  足の震えが止まらない。だが、ここに一人で残されるわけにはいかない。奥歯を噛み締め、震える膝を無理やり動かし、俺も彼らの後を追って馬車から飛び出した。  最前線に到達した四人の強さは、まさに異常としか言いようがなかった。  タツキさんは、門に群がる魔物の群れに突撃し「ゲエエエエエンキデゲエエエエッスカアァッ!」と叫び、のっそりと立っていた泥のゴーレムの背中に、盾を振りかぶって、背中を叩く。するとゴーレムは粉々になり、飛び散った泥やらの欠片が、周りに居た魔物に命中し、被害にあった魔物が大きな悲鳴を上げた。  その後方、ミカさんは、別の場所に固まっている魔物の群れに対し、楽しそうに両手を天へ掲げた。  空中に、一メートル大はありそうな巨大な火球が十数個、同時多発的に出現する。 「マジイックゥ ミッサァァァイル!」  それらが凄まじい爆音と熱風を伴って魔物の群れに降り注いだ。魔物が黒焦げになって吹き飛ぶが、熱波は街の門まで焼き焦がさんばかりだった。 「うわぁぁ! やめろ! 防壁に燃え移る! 門が焼ける!」  門の上からヘーゼル子爵領の兵士が悲鳴を上げる。 「あら、失礼…じゃあ! マジイィック! ジャベリィィィン!」  ミカは悪びれる様子もなく、瞬時に手のひらを地面へ向けた。火から土へ。今度は無数の硬質な岩石の雨が下から上へ、そして魔物へと降り注ぎ、肉を貫き、骨を砕き、戦場を一方的に蹂躙していく。  ヨコヤマさんは淡々と動いた。  大立ち回りをする二人に気を取られ、横へと逸れた魔物に対し、誰の目にも留まらぬ速度で走り寄る。正面からは決して行かない。背後から音もなく近づき、一匹ずつ、静かに、確実に、首筋の骨の隙間に短剣を突き立てて仕留めて回る。血飛沫すら最小限に抑えられた、完璧な暗殺者の動きだった。  マリさんは前線の惨状と血の匂いに戸惑い、一瞬立ちすくんでいた。しかし、遅れて突撃を始めた騎士団たちが魔物と接敵するのを見ると、後方から次々と防御強化の魔法を振りまき始めた。  淡い光が騎士たちの鎧を包み込む。魔物の爪が鎧を掠めても、見えない膜がそれを弾き返す。マリさんの魔法によって、崩壊しかけていた騎士団の戦線が完全に安定し、押し返し始めていた。  ――そんな中、俺は茫然と立ち尽くしていた。  戦闘なんて、生まれて初めてだ。どんな魔物が、どんな動きをして、どうやって襲ってくるかなんて、分かるはずがない。  この世界に来てやってきたのは、一対一の兵士や騎士との訓練だけだ。 「おい貴様! 突っ立っている暇があるなら動けッ!」  背後から飛んできた第三騎士団長の叱咤に、ビクッと我に返る。  俺は支給された粗末な短剣を両手で握りしめ、ぬかるんだ土を蹴って魔物の群れへと突撃した。  俺は、「戦えない」わけじゃない。  城での訓練で、身体能力も動体視力も上がっているのは分かっている。  ただ……魔物の急所を捉え、刃を突き立て、命を奪う。その「とどめを刺す」瞬間に、どうしても身体が本能的にブレるのだ。――「殺せない」。  右側から飛びかかってくる狼型の魔物。その牙が俺の首筋を噛みちぎる一歩手前で、身を低く捻って避ける。すかさず短剣の硬い柄の部分で、魔物の下顎を思い切り殴りつけ、脳震盪を起こさせて弾き飛ばす。  息をつく暇もなく、前方に視線を走らせる。  タツキさんが大剣を振り抜いた後、姿勢が戻るほんの一瞬。その後ろを取ろうと、死角に回り込んだイタチ人間のような魔物がいた。俺はミカさんの魔法でボコボコになった地面に足を取られながらも走り込み、魔物の足首に自らの足を引っ掛けて強引に転ばせる。  さらに視界の端。魔法の構築に夢中で、側面からの接近に気づいていないミカさん。俺はその前に割り込み、襲いかかってきた魔物の鋭い爪を、必死に剣の腹で弾いて足止めをする。  避ける。弾く。転ばせる。仲間の死角へ入る。  殺生を躊躇うせいで、魔物の足止め程度の成果しか出せない。それどころか、血溜まりと泥で滑って無様に転び、足を鋭い石で深く擦りむいてしまった。 「ゴクウくん! !」  マリさんが慌てて杖を振り、俺の足に余計な回復魔法を使わせてしまう。  誰から見ても、お荷物でしかない動きだった。奮戦している第三騎士団の騎士たちですら、横目で俺を見ながら「何やってるんだあいつ」「逃げ回ってるだけじゃないか」といぶかしげな視線を向けているのが分かった。  それでも、俺は必死に仲間の隙を埋め続けた。それしか、自分にできることがなかったからだ。  しばらくして、態勢を完全に立て直したヘーゼル子爵領の兵士や騎士たちが門から打って出てきた。  圧倒的な四人の力で前線を崩された魔物たちは散り散りになり、戦いは街の防衛から、一方的な掃討・殲滅戦へと切り替わった。  終わりの見えない殲滅は明け方まで続き、東の空の分厚い雲の隙間から、太陽の光が射し込んだあたりで、血まみれの第三騎士団長が大きく勝鬨を上げた。 「我らの勝利だッ!」  終わったのだと、気がついた。  俺が重い息を吐きながら周りを見渡すと、動く魔物は一匹たりともいなかった。あるのは、焦げた肉の臭いと、おびただしい数の異形の死体だけ。  泥と血にまみれた子爵領に続く街道の上に、俺は膝をついて、力なく座り込んだ。 §  ヘーゼル子爵からの過分なほどの礼を言われ、豪華な食事を勧められたものの、騎士団長は「我々は王命により直ちに帰還せねばならん」とその申し出を丁重かつ強引に断った。  俺たちは休息を取る暇もなく、再び馬車に揺られ、王都へと帰還した。  王都の巨大な城門をくぐった瞬間、凄まじい歓声が通りを埋め尽くした。 「おお! ヘーゼル子爵様を救った騎士団様達が返ってきたぞっ!」 「おお! おお? 前の5人は誰だ?」 「そんなのどーでもいい! 皆で祝いの酒にしようぜっ!」  「第三騎士団万歳! 国王陛下万歳!」  通りに集まった数え切れないほどの民衆が、色とりどりの花びらを投げ、国中が英雄の凱旋に狂喜乱舞している。馬車の窓から見えるタツキさんやミカさんは、戸惑いながらも少しだけ手を振り返していた。  だが、俺だけは何も喜べなかった。 (俺は、何もしていない)  ただ泥にまみれて、魔物一匹も殺せず、仲間の足を引っ張った。この熱狂的な歓声を浴びる資格なんて、俺には一欠片もなかった。 §  王宮の謁見の間。  大理石の床に赤い絨毯が敷かれた重厚な空間に、静寂が満ちていた。  自分達5人は、同行した第三騎士団より後ろに控えされられている。  第三騎士団長が、豪奢な玉座に座るアレクサン王と、その傍らに立つ冷徹な宰相の前に跪き、今回の遠征での報告を事細かに行っていく。 「イシィバタツキは最前線を維持し、一歩も引くことなく門を守り抜きました。 チアミィ・ミカは、広範囲殲滅魔法により、たった一人で戦況を変える力を見せつけました。ヨコヤマは遊撃として戦場を駆け、取りこぼしを完全に仕留めました。オォバマリの支援魔法は、前線の騎士団の被害を最小限に抑え込みました」  四人があり得ないほどの「兵器」としての能力を発揮したという報告に、王と宰相はひどく喜んだ。周囲を取り囲む貴族たちからも、感嘆のざわめきが漏れる。  しかし、騎士団長はふっと視線を落とし、言葉を区切った。そして、最後に俺の報告を始めた。 「ミヒトゴオクについてですが……この者は終始、魔物を殺生することを拒みました。とどめを刺さないため、騎士たちが予定外の対応を迫られる場面がありました。 足場の悪い所で、自ら転倒してオゥバマリ殿の治癒を受けるなど、足手まといとなる場面がございました」  王が、あからさまに落胆の表情を浮かべ、玉座の肘掛けに置いた指を不快そうにトントンと叩く。 「あのっ…ちょっと待ってくださ――――」  マリさんが声を上げて、その報告に対して声を上げる。 「今は第三騎士団長からの報告を聞いている。 発言は許していない」  宰相がマリさんの言葉を、冷徹な声音で止めた。  軽く後ろを見た騎士団長は、すぐに王に向き直り言葉を続けた。 「しかしながら……他の勇者たちの死角を埋める動きに徹し、負傷者を出さないための立ち回りをしておりました。ひたすらに地味な動きしかしておりませんが、一人の『兵士』として見れば、極めて優秀な人材ではあります」  その報告を聞いた王は、宰相と短く視線を交わし、騎士団長へ淡々と問いかけた。 「それで。魔王は倒せる勇者ではあるか?」  騎士団長は、言葉を濁した。 「……補佐的であれば…かなり優秀かと……」  そう言って、口を引き結び、下を向くしかない。 「違う。魔王を倒せるか、と聞いている。」  王の声は、冷酷なまでに平坦だった。怒りも、失望すらもない。ただ不要な部品を切り捨てるような声だった。  王がゆっくりと立ち上がり、冷たい目で見下ろしてくる。 「我が国に必要なのは、気の利く優秀な兵士ではない。魔王を討つ、絶対的な勇者だ。 本日の報告は以上だ。勇者たちは下がれ。」  タツキさんとマリさんが立ち上がり、声を出そうとしたが、先に立ち上がった騎士団に遮られ、声を出す暇もなく、騎士団達に押されるかのように退出させられた。 §  数日後。  休息を取った俺たち五人は、再び正式な謁見のために呼び出された。  近いうちに国を挙げてのお披露目の式典をするという話が告げられた直後、王は冷たく言い放った。 「ミヒトゴクゥ。お前のこれまでの行動は勇者たりえない。よって、本日をもって国外追放とする」  俺は言われた一言に、頭の中が真っ白になった。 「お待ちください」  静かに一歩前へ出たのは、マリさんだった。  普段はおっとりとしている彼女の瞳には、今まで見せたことのない、はっきりとした怒気が籠っていた。 「彼は、私たちに必要な仲間です」 「求めているのは、魔王を倒せる勇者だ。まともに戦うこともできない若造は不要」  宰相が、手で払うように冷たく切り捨てる。 「たった一回の実戦で、分かった風な口をききやがって……」  タツキさんが下を向きながら、小声で、だが確かな怒りを込めて呟いた。その太い腕の筋肉が、ギリッと音を立てて膨張する。 「…俺は反対だ。 彼も大事な戦力だ」  ヨコヤマさんも短く告げた。  ミカさんは無言だったが、何か考えがあるのか、ただじっと宰相と王の顔を交互に睨みつけている。  宰相に耳を向けていた王が、勇者たちへ向き直って口を開く。 「兵器にならぬ勇者を民が見れば、勇者そのものへの期待が失われる。これは国家のための決定事項だ」  その言葉が引き金になった。 「ふざけんなッ!」と、ついにタツキさんが怒涛のごとく反対の声を上げた。マリさんも控えることなく、「彼を捨てるなら私たちもここを出ます」と声を張り上げる。ヨコヤマさんも続く。  あまりの剣幕と勢いに、国王や宰相は一瞬だけ驚き、玉座に深く背中を押し付け、勇者達を睨みつける。 「王の御前であるぞ! 無礼である!」  第三騎士団長が大声を出し、ほかの騎士団長や警護の兵士たちが一斉に戦闘態勢に入った。じゃきん、じゃきんと、槍や剣が構えられる金属音が謁見の間に響き渡る。  多勢に無勢。だが、タツキさんたちは誰一人として跪くこともせず、臨戦態勢に移行しようとしていた。 「では、もう少し譲歩できませんこと?」  ミカが、張り詰めた空気の中で、宰相へ一言だけ告げた。  タツキさんたちが「何を言ってるんだミカ!」と彼女に詰め寄ろうとするも、ヨコヤマさんは何かに察したように、スッとミカ側に付くように移動し、無言で腕を組んで壁になった。  ……その間、俺は一言も声を出せず、ただその場に跪いたままでいた。  数年前、両親が死んだあの日から、俺は坂を転げ落ちるようにすべてを失ってきた。保険金も住んでいた家も叔父に奪われ、学校では身に覚えのない悪い噂が広まり、友人も皆離れていった。  妹の紗耶香だけが、俺の心の支えだった。 (俺の臆病な立ち回りのせいで、また、すべて失うのか……)  ここで俺が王に嚙みついたところで、帰還の可能性が遠のくどころか、完全に断絶される。何か良い方法は無いかと思考を巡らせるも、頭の中は真っ白のままで、何も思いつかない。どうすればいいのか分からない。  タツキさんやミカさんが何か言っているみたいだが、その声は全く耳に届いてこなかった。  慌てた様子で宰相が王に耳打ちし、王が小さく頷いて小声で話す。  勇者たちを完全に敵に回すリスクを恐れた彼らは、やがて咳払いを一つして宣言した。 「……ならば、国外追放は撤回する。勇者資格を永久剥奪。 。王国での『居住許可証』と、しばらくの路銀を渡す。ただし、今後王宮に近づくことは許さん。また、自ら勇者と名乗ることを重罪とする」 「ゴクウくん! しっかりしてっ」  マリさんに肩を激しくゆすられ、俺はハッと現実に引き戻された。  何がどうなっているか分からないまま、その場で五人は、渋々ではあるが了承し、謁見の間から退席することになった。 §  その日の夜。  特別宿舎の部屋で、俺の処遇がどう決着したかについて、タツキさんとマリさんとミカが代わる代わる説明をしてくれた。  俺はただ頷くことしかできず、また絶望しそうになりながら、ベッドの上で俯いていた。 「おい、ゴクウ」  ヨコヤマさんが、そんな俺の前に立った。 「外の様子を調べて、俺たちが外に出られるようになったら、情勢を教えてほしい」  俺が顔を上げると、ヨコヤマさんは真剣な目で言葉を続けた。 「いいか。俺たちは勇者として徹底的に監視される。お前しか自由に動けないんだ。これは、自由に動けない俺たちのチャンスでもある」  体のいい言葉で、言いくるめられているようにも感じた。お荷物の俺に、無理やり「役目」を作って気を使っているのだと。  だけど、今この理不尽な世界で、この場で頼れる大人は、目の前の四人しかいない。 「……分かりました。俺でいいなら、やります」  俺は、小さく頷いて承諾した。 §  翌朝。  居住許可証と書かれた羊皮紙と、それなりの重さがある路銀の入った袋を渡され、俺は城の裏門から静かに追い出された。  なぜか隣には、私服姿の第三騎士団長が同行していた。 「なぜ、騎士団長のあなたが……?」  俺が疑問を口にすると、彼は前を向いたまま鼻で笑った。 「年齢がそれなりになれば、騎士団から引退して官職に付くのが習わしなんだがな。俺は元々、先代国王に認められて出世しただけの平民兵士だ。お前の監視という、窓際役職に抜擢されたってわけだ」  そして、誰に言うでもなく「降格みたいなもんだけどな。邪魔な老兵は立ち去れってか……」と独り言のように呟いた。 「おい、小僧」  騎士団長が立ち止まり、俺を見下ろした。 「出会った時、床に頭を叩きつけたことは詫びておく。……その詫びといっては何だが、これから城下街で、どのように生活するか、俺が教えてやる」 「行くぞ」  短く告げて歩き出した老兵の背中を追いかけながら、俺は眼下に広がる広大な王都の街並みを見下ろした。  ここから、俺の異世界での本当の生活が始まるのだ。
  • 7月12日

    現世に戻った勇者の話を書いてます 1話

    設定が変わる可能性があるので、近況ノートのみに先行で出していきます。 プロットを作り、それをAIに出力してもらい、自分の考えと違うところを修正しながら作成してます。 ちなみに、これプロローグです。というか「異世界を救って現世に帰還」とか一行で終わらせるの嫌いだから、異世界での出来事も書いてしまおうという試みです。 ハーレムは微妙に無いです。最初に書いた小説みたいに悪ふざけは無しで、王道を書いてみようとしています。 現在では8話まで書いてますが、方向転換を繰り返したり解釈違いを直したりと、色々と時間がかかって「だったら近況ノートに出せばいいか」となりました。 タイトルは未定です。 以下から物語開始になります。3話を先行させます。 第一話 新宿崩壊  空気の冷たさが鼻の奥をツンと刺す。十二月の終わり、年の瀬の新宿は、吐き出す息が真っ白に染まるほどの寒さだった。  駅周辺を埋め尽くす色とりどりのイルミネーションと、買い物袋をいくつも抱えた人々の波。すれ違う誰もがせわしなく、だけどどこか浮き足立った顔で歩いている。そんな賑やかな日常の片隅を、俺はビニール袋の重みを指先に感じながら、一人で歩いていた。  袋の中身は、特売で手に入れた少し色の変わりかけた鶏胸肉と、もやし、それから、夕飯のための安いレトルトカレー。  そして一番上には、一つだけ、ちょっと上等なカスタードプリンが入っている。妹が以前から食べたがっていた、新宿の専門店で買ったものだ。 (……よし。これで明日の分まではなんとかなるな。まさか都心で安い店があると思わなかった)  心の中で小さく計算を弾く。  数年前に両親を交通事故で亡くして以来、俺と、二歳年下の妹の紗耶香(さやか)の生活は、いつもギリギリだった。祖父の持つ古アパートの一室を借りて、支援金だけで暮らしている。 (春からは、高校生だ)  進学が決まれば、すぐに掛け持ちでアルバイトが出来る。法律の範囲内で、出来る限りのシフトを入れてもらおう。そうすれば、今よりは数万円、毎月の生活費に余裕ができるはずだ。    そうしたら、妹にもっとマシな服や文房具…できればもっと色々と揃えてやれる。それに、いつも「お兄ちゃんのご飯、美味しいよ」って具の少ないスープを笑顔で啜ってくれる妹に、もっとちゃんとしたものを食べさせてやれる。    そんな、ささやかで、だけど俺にとっては世界のすべてである現実的な未来を考えていた。  微かなバイブレーションが、上着のポケットの中で小さく跳ねた。  歩きながら引っ張り出したのは、四角くて黒い、文字が数文字だけ表示される液晶のついた機械――ポケベルだ。携帯電話を持っている奴も少しずつ増えてきたけれど、俺たちの持てる通信手段は、これが限界だった。  液晶画面を見つめる。カタカナと数字の羅列が、頭の中で言葉に変換される。 『オナカスイタ マダジカンカカル?』  紗耶香からだった。家で俺の帰りを待っているんだろう。俺は近くの公衆電話に駆け込み、覚えている妹の番号へと手早くダイヤルした。プッシュ音をリズミカルに響かせながら、ベルへ送るメッセージの数字を打ち込む。 【 4216 41 22 24 11 04 】――『プリンかった』。  受話器を置き、再び歩き始めてから一分もしないうちに、俺のポケベルがまた震えた。 『タノシミ!』  画面に表示された、たった四文字の、弾むようなメッセージ。家電話の料金もタダじゃないのだが、こればっかりは制限するわけにいかない。  自然と口元が緩む。もう少し見て回りたかったけど、早く電車に乗って帰ろう。夕食後にこのプリンを一緒に食べよう。  それが、俺たちのいつもの、大好きな日常の延長線のはずだった。 ――その瞬間、世界が爆ぜた。  地震…ではなかった。  下から突き上げるような揺れはなかった。代わりに響いたのは、空間そのものが内側からへし折れるかのような、聞いたこともない「裂音」だ。  直後、俺の視界が奇妙にねじれた。目の前にあるはずの新宿駅の駅舎が、そして巨大な高層ビルが、まるで底なし沼に吸い込まれるように、垂直に、静かに“沈み込んでいく”のが見えた。 「え――?」  悲鳴を上げる暇すらなかった。道路が、アスファルトが、新宿の街そのものが、意思を持った生き物のように下方へと崩落していく。重力という概念がどこかへ吹き飛んだかのように、俺は買い物袋を持ったまま、虚空へと放り出された。  空間の至る所に黒い亀裂が走り、割れたガラスの雨が降る。巻き上がる砂煙の向こう側から、世界を丸ごと塗り潰すような、あまりにも強烈な純白の光が噴き出してきた。  逆さまになって落下していく感覚の中で、俺はただ一人、家に残してきた妹の姿を思い浮かべ、届くはずのない声を張り上げた。 「紗耶香――ッ!!」  五感が引きちぎられるような衝撃とともに、俺の意識は深い、深い闇へと墜ちていった。 § 「……おい。起きろ。……まさか、こいつは失敗か? いや、息をしてる――――」  硬質な、革の手袋で頬を叩かれる感触で、俺は激しく咳き込みながら目を覚ました。  肺の中に溜まった妙に冷たい空気を吐き出しながら、必死に視界を確保する。映し出されたのは、新宿の空でも、アパートの天井でもなかった。  煤けた灰色の石壁。天を突くほどに高い、ドーム状の天井。床には複雑な幾何学模様の「溝」が掘られており、そこから不気味な紫色の残光が、陽炎のように立ち上っている。  何重もの円を描くような、巨大な石造りの召喚陣の上。そこに、俺は倒れていた。 「……がはっ、ゲホッ……ここ、どこ、だよ……」 「起きたか、お前が最後だ。我が主がお待ちである。 直ぐに姿勢を正せ」  顔を叩いていた男は、自分を地面に下すと、そういって離れていく。ヨーロッパ映画に出てきそうな、時代錯誤な恰好をしていた。  思わず寝たまま辺りを見渡すと、壁の周りには甲冑を着た人間が、綺麗に並んでいる。意味が分からずに見渡すと、人影が近寄ってきた。 「気がついたようね。大丈夫? どこか痛むところはある?」  おずおずと手を差し伸べてきたのは、上品な仕立ての服を着た、おっとりとした雰囲気の黒髪の女性だった。  さらに見渡すと、俺と同じように石床に座り込んで、困惑している人間が、彼女を含めて他に四人いた。 「おいおい、冗談だろ……。何かの番組の撮影現場か……?」  タンクトップ姿の、異常に体格が良い大柄な男が、自分と同じように辺りを見渡して呟く。 「……チッ、なんだよこれ…」  黒いパーカーのフードを深く被りながら、周囲を鋭い目で睨みつけている男。 「ちょっと! ミカの衣装が、砂埃まみれですわ!? 一体全体なんの冗談ですの! 場合によっては天誅ですわっ!」  この陰惨な空間にこれ以上ないほど不釣り合いな、黒ベースのゴスロリ衣装を着たツインテールの女性が、フリルをパタパタと叩きながら憤慨していた。  年齢も立場もバラバラな四人。そして、彼らと俺の周囲を取り囲むように、ギラギラとした鉄の鎧に身を包んだ兵士たちが、隙間なく槍を構えて立っていた。 カツ、カツ、と硬い靴音が響き、兵士の列が割れた。  歩み出てきたのは、意匠の凝らされた豪華な法衣をまとった、錫杖を持った太った中年だった。 一瞬だけ五人を見渡し、すぐに興味を失ったように正面へ視線を戻した。男が立ち止まると、俺達の周りに居た男達が、一斉に跪いた。  その後ろからは、細身でありながら質素ながらも品の良いローブを着た中年が、鋭い目つきで値踏みするように俺達を見渡す。 「異界の民よ、混乱するのも無理はない。簡潔に説明する」  後から来た中年の声には、歓迎の色など微塵もなかった。見渡す鋭い目つきの中年は、鼻息一つして言葉をつづけた。 「お前たちは我がグランディア王国の魔術儀式によって、この世界へ『召喚』された。目的は、我が国を脅かす魔物との戦い――すなわち『勇者』としての役目を果たすためだ」  勇者。魔物。召喚。    小説や、オタクの友達が話していたゲームの中のような単語が、冷たい現実として降ってくる。 「勇者……? 何を言ってるんだ」  俺はよろめきながら立ち上がり、宰相へ一歩を踏み出した。 「何の冗談だよ! こっちはTV番組に出てる暇無いんだ!  妹が待ってるんだ! 俺がいなきゃ―――」  もう一歩というところで、先ほど俺を叩いていた男が、俺の髪を掴んで、その場に叩きつけて来た。  冗談にならない暴力で、一瞬何が起きたかわからず、次に目の前が真っ白になり、打ち付けられた頬がどんどん痛み出す。 「王の御前だ! 頭が高いぞ! 跪け!」 「―――― 帰還できるときは、魔王を討伐し、この国に蔓延する忌まわしい魔素を正常に戻すことで、帰還の魔法を使う事ができる。 お前達は選ばれたのだ。光栄に思うがいい」  宰相は、眉一つ動かさずに冷酷に言い放った。その目は、迷子を憐れむようなものでは決してない。新しく納品された兵器の性能を値踏みするような、乾いた視線だった。 「お前たちはこれより、我が王国の絶対的な管理下に置かれる。戦力としての登録、訓練、運用。すべては我が国の法に従ってもらう。異論は認めん」 「そんなの勝手すぎるだろ! 帰せよ! 帰してくれよ!」  涙が溢れて止まらないが、叫ぶ俺の前に、騎士たちが容赦なく槍の穂先を突きつけてくる。 「静粛に」  宰相の冷たい一言。その後、強引に頭を押さえつけていた男に、もう一度同じように石畳に叩きつけられ、そこから先の事は一切分からなくなった。 §  それから、数日が経過した。  俺たち五人は、王城の敷地内にある「特別宿舎」へ、男女分けて押し込められていた。  部屋の設備やベッドの質は、俺が今まで生きてきたどんな場所よりも豪華だった。出される食事も、見た目だけは洗練されている。  だけど、待遇がどれだけ良かろうと、俺たちの扱いは「囚人」と何も変わらなかった。 「……いい加減、このうん―――じゃなくて、肥溜めみたいな匂いが何なのか知りたいんだが、日に日に頭痛が酷くなっていく」  何度と試したか分からないが、俺は分厚い木製の扉のノブを回すが、カチリとも言わない。外側から完全に施錠されている。  窓へ歩み寄り、太い鉄格子に手をかける。そこからは、王都の美しい街並みが、石畳を行き交う民衆の姿がはるか下に見えた。 「外出禁止、行動のすべてを監視、部屋の外には武装した騎士が常駐……か。緩む気配はないな…」  自己紹介の時に、「ヨコヤマ」としか名乗らなかった男が、ぽつりと呟いた。    完全な軟禁状態。  それだけじゃない。この部屋の空気は、どれだけ窓を開けても泥のように重く、皮膚の裏側がピリピリと痺れるような妙な気配が漂っている。ヨコヤマさんが言っていた。これは魔術的な拘束か、あるいは監視の術式が部屋全体に敷かれている証拠だと。  ベッドの端に腰掛け、俺は自分の膝を見つめた。  考えるのは、日本のこと。残してきた紗耶香のことばかりだ。 (あの新宿の崩壊の後、紗耶香はどうなったんだろう……。無事、アパートにいるんだろうか。俺が急にいなくなって、泣いていないだろうか。ご飯は、ちゃんと食べられているだろうか……)  考えれば考えるほど、胸の奥が物理的に締め付けられるように苦しくなる。  元の世界へ帰る方法はあるのか。ここから抜け出す手段はあるのか。  何も分からない。誰も教えてくれない。目の前にあるのは、ただ冷たい石壁と、俺たちを監視する兵士たちの足音だけだった。 §  そんな息の詰まるような共同生活の中で、俺たち五人の間には、少しずつ会話が増えていった。それぞれが、この理不尽な現実を生き抜くために、互いの存在を確認し合うように。今も、兵士達との戦闘訓練の後に、更衣室にて5人で集まって会話をしている。 「ほら、ゴクウ。また飯を残しただろ。食わなきゃ筋肉が落ちて、戦う前にへばっちまうぜ」    タンクトップ姿の巨漢――石橋達樹(いしばし たつき)さんが、俺の前に自分の分のパンを差し出してきた。タツキさんは大学生らしいけれど、何を見ても筋肉に結びつけて考える、少し変わった人だった。だけど、その豪快さには裏表がない。 「考え込んで立ち止まってても、飯の味は変わらねえ! だったら今できること――つまり、食って動いて、筋肉を鍛える! それが一番の近道だ!」 「……ありがとうございます、タツキさん。でも、ちょっと喉を通らなくて」  精神的に胃が受け付けないもあるが、出される料理の殆どがマズすぎるという理由もある。しかし、以前と驚くくらいに腹が減らないうえに、体が自然と動く。  苦笑いする俺の背中を、タツキさんは痛いほどの力で叩いて励ましてくれる。荒っぽいけれど、彼なりに一番年下の俺を気遣ってくれているのが分かって、少しだけ救われた。 「ゴクウくん、無理はしないでね」  隣からそっと声をかけてくれたのは、大場マリさんだった。彼女も現役の大学生だという。おっとりとしたお姉さんという雰囲気だけど、なんだか照れくさくて、あんまり会話らしい会話は出来ていない。 「妹さんのこと、心配よね……。急にこんな場所に連れてこられて、大切な家族と離れ離れにされて……辛くないはずがないわ。いつでも話を聞くから、一人で抱え込まないで」  家族についてなどは、数日前に現実とのすり合わせで話をしていた。その時に一人残した妹が気になるというのを伝えている。 「あ………はい」  マリさんの優しい言葉と言葉の温かさに、俺は辛うじて正気を保っていられるような気がした。ただ、正面で見つめると恥ずかしくて顔が熱くなるので、毎回そっぽを向いて会話するので限界だった。  そんな俺たちの様子を、部屋の隅の椅子に深く腰掛けたヨコヤマさんが、冷めた目で見つめていた。三十歳だという彼は、最後まで苗字しか名乗らない。 「……フン、仲良しグループごっこは結構だがな。現実を見ろ。俺たちはここに『お客さん』として招かれたわけじゃない。あいつらの口ぶりからして『兵器』扱いだ」 「兵器……ですか」  俺が問いかけると、ヨコヤマさんは、どこか格好をつけた口調で鼻を鳴らした。  ぶっきらぼうで冷酷な言葉。だけど、その冷静な分析には妙な説得力があって、俺は心の中でその言葉に強く納得してしまった。 「ふんっ! そう簡単に、このミカが、道具として利用できるなんて思わないことですわっ! 見たでしょ!? あの模擬戦での兵士の体たらくっ!」  その重くなりかけた空気を、大音量の声が木っ端微塵に吹き飛ばした。チャアミィ・ミカ――自らを「魔法少女ミカ」と名乗る、ゴスロリ姿の女性だ。年齢は不詳。 「そんなことより、この世界の魔法ですわ! 呪文をイメージだけで火球が出るなんて、面白すぎますわよ! でも、なぜ火が出るのか、その設計工程が本のどこにも書いてありませんの。これは一度、野生の魔法をじっくり研究して、私だけの新しい術式を開発しなければなりませんわね!」  新しい魔法の知識に目を輝かせ、興奮気味に身振りを交えて語るミカさん。彼女は完全に空気を読んでいなかった。だけど、その異常なほどの好奇心と騒がしさが、重くなりすぎるこの部屋の空気を、いつも自然と壊してくれていた。 「それより、この匂いの原因が何なのか、匂いを消す魔法とか開発してくれぇ…筋トレの時に臭すぎて力が抜けるんだよぉ」  横で腕立てをしていたタツキさんが、押しつぶされたかのようにうつ伏せになって呟いた。 §  数日後、足音しか聞こえて来なかった廊下が、かなり騒がしくなり、何事かとタツキが扉に耳を当てていると、突然その扉が開いた。 ―――…。 「――以上が、お前たちに下される初の実戦任務の概要だ」  宿舎の部屋に現れた、来た当時に俺の頭を叩きつけて来た男…第三騎士団長は、俺たちの前のテーブルに、一枚の古ぼけた地図を広げた。そこから告げられた内容は、俺たちが待ち望んだ「釈放」などでは決してなかった。 「目的地は北西部、ヘーゼル子爵領。現地へ赴き、発生している魔物の討伐支援、および状況確認を行え。我が騎士団の精鋭が護衛として同行する」 「おいおい、いきなり戦場に行けってかよ!?」  タツキさんがテーブルを叩いて立ち上がった。 「俺たちの力が上がってるのは認めるが、まだ化け物と戦ったことはねえんだぞ! 訓練と実戦は違うだろ!」 「拒否権は無い」  騎士団長の、凍りつくような冷たい声が部屋を支配する。 「これは王命であり、お前たちが『勇者』として生きるための義務だ」  部屋の空気が一気に重くなる。  マリさんは顔を青ざめさせ、ミカさんは逆に「野生の魔物……生の現象……実験台ッ」と、どこか不気味な目で地図を凝視している。  訓練でも、周りの皆みたいに、投げ飛ばしたり殴り飛ばしたり急所をついたり高火力の魔法を放てない。良くて騎士や兵士と互角…時々負けたりする…。  だけど。 (……初めて、この王城の外へ出られる)  ここに閉じ込められたままじゃ、帰る方法なんて一生分からない。この狂った国の、狂った管理から抜け出すための隙を窺うこともできない。  怖くないと言えば嘘になる。足は小さく震えている。だけど、何もしないでこの部屋で腐っていくわけにはいかないんだ。  アパートの玄関で、俺のために我慢して笑っていた紗耶香の顔が、脳裏をよぎる。  あいつを、一人にしておけるわけがない。 「……分かりました」  俺の口から出た言葉に、タツキさんやマリさんがハッとしたように俺を見た。 引き返せない。だけど、行くしかないんだ。ここからが、この世界での最初の、本当の現実が始まるんだから。 §  翌朝、宿舎の前に用意されたのは、鉄板で補強された数台の頑強な馬車だった。  周囲には、全身を重い鎧で固めた騎士たちが、俺たちを囲むように整列している。「護衛」という名目の、逃亡を防ぐための「監視の目」だ。  手渡されたのは、最低限の鉄製の剣や短剣、そして革のアマチュア。勇者と祭り上げる割には、支給された装備はどこか消耗品に対するそれのように実用一辺倒だった。 「さあ、乗り込め。これよりヘーゼル子爵領へ向けて出発する」  騎士団長の冷淡な指示に従い、俺たちは順番に馬車へと乗り込んだ。    ガタガタと木製の座席が揺れ、重苦しい音を立てて王城の巨大な鉄門が開いていく。  数日間、俺たちを閉じ込めていたグレーの檻が、ゆっくりと後ろへ遠ざかっていった。  馬車が王都の石畳を抜け、未舗装の荒野へと進むにつれ、車内の空気は静まり返っていった。 「みんな、気をつけてね。 絶対に無茶しないように」  マリさんが、祈るように胸の前で両手をきつく組んでいた。 「おう、誰が来ようが、俺の肉体が全部弾き返してやる。ゴクウ、お前は俺の後ろに隠れてろよ。 お前に戦わせる訳にいかねーからな」  タツキさんが頼もしく胸を叩くけれど、その視線は窓の外の荒涼とした景色をじっと警戒している。 「……思っていたよりも、厳しい異世界転移モノだよな…」  ヨコヤマさんが、自嘲気味に呟く。 「さあ、魔法少女ミカの初舞台ですわ! 派手に美しく、世界を驚かせてあげますわよ!」  ミカさんだけが、相変わらず不敵な高笑いを上げて、車内の緊張感を無理やり薄めてくれていた。  俺は、上着のポケットの中にそっと手を入れ、その中にある「塊」を強く握りしめた。  電池の切れた、画面の真っ暗なポケベル。  液晶にはもう何も映らない。だけど、俺の頭の中には、最後に届いた紗耶香からの短いメッセージが、今も鮮明に焼き付いている。 『タノシミ!』  もう、このベルに返事を送ることはできない。俺が消えたあの新宿の街へ、電波が届くことは二度とない。  だけど、だからこそ、俺は心の中で、生涯で一番強く、激しく誓った。 (必ず帰る。待ってて、紗耶香。お前を一人きりには、絶対にしないから)  馬車の激しい振動を感じながら、不確定な運命をその背に抱えたまま、最初の戦地へと向かって突き進んでいった。
  • 6月24日

    一時メインは休止

    いろいろとAIさんに助けてもらいながら過去作を修正していますが、いかんせん誰も見ないしコンテストに載せるほどのものじゃない…宣伝が必要かなと思いました。 ベターな異世界モノを書いています。そちらを優先するので、しばらく修正はお休みにしようと思います。 危篤な方が続きを読ませろと言われたら、修正を再開しようかなと思います。
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  • 6月2日

    AIさん褒めすぎてビックリするわ

    だが読者は1話で消えるっていうね という訳で、1話を書き直しました。 自分でも「これが最初だと引くやつ多くないか?」とは以前から思っていたので、どうせならと思いガッツリ消してしまいました。 チャッピーと試行錯誤して書き直していますが、なんやアイツ…褒めて伸ばすタイプか? まあ、読まれてないうちに書き換えてしまったので、大丈夫でしょう……かわりに、閑話の書き直しもしないといけませんが…こっちは非公開にしました。 PVが飛び飛びなの何なんだろうなあ…途中を読んで内容解る天才でもおるんですかね。
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  • 5月19日

    AI小説

    短文・改行ラッシュ 何でこうなるのと調べてみたら、チャッピーが途中でヘタレて読み飛ばししてる事が発覚。 負担を減らすようにすれば…とアドバイスくれたけど、分割してもダメだし分けて処理してもらうと説明の重複がある… claudeに試させたら、出力内容が原作を綺麗にしてくれる。 が…高い… 楽すんなって事なんだろうかね…
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  • 5月17日

    24話まで

    閑話まで追加で来たから、毎日1話ずつ公開します。 原作とほぼ同じだし、言い回しに苦労したところなんて、AIが修正案を提案してくれて、なんだか読みやすいじゃんとなりました。…文字数は減ったけどね。 24話以降から、結構ペース落ちるかもしれませんが、とりあえず追い付かれないように、色々とAIと相談しながらリサイクルしていきます。
  • 5月16日

    みんな大好き異世界転生のAI編集版

    10年以上前に書いた作品を、AIに通して評価と編集をしてみました。 何度か書き直していたのですが、語彙力の限界というか、別の表現にしたら意味不明になって、書いてる人も意味不明になって投げていた作品です。 最近ではAIが高性能になったので、せっかくだから引っ張り出して、何が悪かったのかなど、色々と検証してもらったり、編集をしてもらったりしていたら、結構読みやすいじゃんと思って、せっかくなので出してみました。 ワイ「編集面倒やし、AIで楽したろっ!」 AI「おい。 いくらなんでも主人公の性癖が終わってる。 こんなの読者が1話で消えるぞ。 性癖を匂わせ程度にしておけ!」 ワイ「ひえっ!? はっ…はい!」 AI「お前が読みやすくても、読者の殆どはスマホとかの端末から見てるから、それに合わせろボケ」 ワイ「はっ…はい~! って…なんで短文改行まみれに…?」 AI「べつに、自分だけが納得できる作品になってもええんやで?」 ワイ「くっ……。 仕方ない…試験的に出してみよう…」 ←いまここ 取りあえず序盤だけでもアップしてみます。 続けるかは様子見でしょうか。意外と1話ごとに話の流れとか指示出したり、人物紹介みたいに説明いれないといけないから結構大変。
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