ここまで『語らない仕事』では、
できなくなったことそのものよりも、
それでも残っているものは何か、
失った役割や居場所とどう向き合うのかを描いてきました。
第1章では、突然それまでの生活を失った黒川が、
「終わった」と思っていた手の中にまだ残っているものと向き合う過程を書きました。
第2章では、長い時間を経て生活の中で場所を失っていた田島が、
もう一度「人の中にいること」へつながっていく姿を書きました。
第3章では、認知症によって医師としての輪郭が揺らいだ森に対して、
それでもなお消えきらないものがあることを書きました。
第4章では、舞えなくなったよし恵が、
失ったものの中でもなお残っている所作や表現を通して、
別のかたちで舞台へ戻っていくところまでを書いてきました。
この作品で描きたいのは、
何かを劇的に取り戻すことだけではなく、
もう戻らないものを抱えたまま、
それでも人が自分の場所を持ち直していく過程です。
次の第5章では、
第1部の締めくくりとして、
宮本がこれまで何を見て、何を支えてきたのかを、
あらためて描いていく予定です。
うまく励ますことでも、
正しい答えを先に渡すことでもなく、
その人がその人のまま考えられる場所を残すこと。
宮本の仕事の輪郭が、
ここで少しはっきり見えてくる章になると思います。
引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです。