科学がテーマの物語なので、原理的には成立するものを考えてみました。
さまざまな作品に「蛇腹剣」と呼ばれる鞭のようにしなる剣が登場しますが、本作ではバネの力で巻き戻り、手首をひねると真っすぐに伸びる機構を想定しました。
大工道具に使われる、金巻き尺(スケールやコンベックスなどと呼ばれるもの)を皆様は使ったことがありますか?
金属のテープ自体がらせん状に巻いたバネになっていて、引き出すと真っすぐに伸びるものです。
その状態で何かに触れるなどして軽く衝撃を受けると、すごい速さで巻き戻りますよね。
個人的な体験なのですが、以前、一部が欠けた古くなったスケールをそのまま使って作業したことがあります。
その状態で手に触れながら巻き戻った際、指先がざっくりと切れて流血してしまいました。
スケールは手を切りやすいと知ってはいたのですが、まるで凶器のように感じた瞬間でした。
皆様も、スケールを使うときは油断していると危険ですのでお気をつけください。
このスケールの板バネの強度を上げ、カッターのように薄い刃をかしめたのが、本作に登場する「巻き切り丸」のイメージです。
機構としては動作すると思いますが、実際に作るとそれなりの重さになりそうですし、色々と課題はあるとは思いますが。
そして、そこに施すのはサメの歯のようなギザギザとした小さな刃。これが刻み込まれた二重刃(にじゅうば)の構造を想定しています。
バネの収縮は人間の反射スピードを超えるので、かなり恐ろしい武器になるはずです。
実は、平安時代にもバネの力を利用したものがあります。それが「和鋏(わばさみ)」です。
Uの字型の部分が、バネのような反発力のある構造になっています。
当時の技術や自然を観察し、そこから様々なものを開発したり、問題を解決したりする。
それこそが本作のテーマなのです。
現代の技術や知識を持って異世界に転生し、無双する作品が多いからこそ、あえてこのようなアプローチの作品にしてみました。
そのためには、古典の『虫めづる姫君』のように、科学的な視点を持った人間が必要だったのです。
イモムシから蛹を経て蝶になるプロセスを、西洋が科学的に認識したのは17〜18世紀頃と言われています。
しかし、日本の古典に登場する虫めづる姫君は、それよりも500〜600年も早い時代に、この現象を観察に基づく科学的視点で明言していました。
彼女がいかに科学者として先見の明があったか、驚かされてしまいます。
物事には「理(ことわり)」があり、それを観察して見極める。
本作の千尋は、そんな科学の本質を説いた日本初の科学者(虫めづる姫君)なのです。