いつも『ジゴクアンプリファイア』、そして『幽世遊郭・朧屋』を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
本日、『朧屋』の公開話数が100話になりました。
まさか100話まで来るとは思っていませんでした。
せっかくの節目ですので、今回は少しだけ、この作品が生まれた経緯について書いてみようと思います。
◇
『ジゴクアンプリファイア』が生まれたきっかけは、
現実に起きたとある事件でした。
そのことについて詳しく話すつもりはありません。
今でも思い出したくありませんし、話したくもありません。
ただ。
確実に犯人がいる。
けれど、見つからない。
裁かれない。
そんな現実に直面した時、私には何もできませんでした。
誰かを裁くこともできない。
捕まえることもできない。
何をどうすればいいのかも分からない。
どこへぶつければいいのか分からない感情だけが、自分の中に残りました。
それを、どうにか自分の中から逃がしたくて。
物語を書き始めました。
それが『ジゴクアンプリファイア』の始まりです。
◇
そして実は。
最初に生まれた人物は、焦眼御前ではありません。
朧でした。朧が地獄の案内人になる予定だったのです。
最初に作ったのが、
『格子の奥の奥』
という曲です。
朧の人生を形にしてみた最初の曲です。
ですが、人物や世界の設定を考えているうちに、少しずつ形が変わっていきました。
そこから焦眼御前が生まれ。
葵が生まれ。
宵鈴が生まれ。
ついでに人間太鼓の二人も生まれました。
気がつけば朧は歌う側ではなく、別の場所で物語を背負う人物になっていました。
◇
先に物語として動き始めたのは、焦眼御前でした。
焦眼御前には、それこそ散々、地獄へ落ちた人間たちを歌ってもらいました。
私は曲を書く時、先にその人物の物語を作ります。
もちろん最初はただの殴り書きです。
どんな人生だったのか。
どんな性格なのか。
どんな家に生まれたのか。
何をして。
何を失って。
なぜ罪を犯したのか。
名前は何なのか。
そこまで一人の人間を作ってから、曲にします。
ですが。
それを繰り返しているうちに、少し困ったことが起きました。
自分で一人の人間を作る。
その人の人生を考える。
家族を考える。
性格を考える。
喜んだことも、苦しんだことも考える。
そこまで作っておいて。
最後には、自分の手で地獄へ落とす。
だんだん、それが心苦しくなってきました。
罪を犯した以上、地獄へ落ちる。
刑罰を受ける。
そこは変えたくありませんでした。
でも。
刑罰が終わったあと。
その人たちには、何もないのか。
そこで全部終わりなのか。
何とか、その先を書けないだろうか。
そう思って始めたのが、
『幽世遊郭・朧屋』です。
そして、これに関して一番の功労者は。
実は、芥です。
朧がこの世界で最初に生まれた人物なら。
芥は、『朧屋』という物語そのものを生ませてくれた人物でした。
地獄へ落ち。
長い刑罰を終え。
それでも、その先にまだ時間がある。
では。
その人間は、地獄を出たあと何をするのだろう。
どこへ行くのだろう。
誰と会うのだろう。
もう一度、笑うことはあるのだろうか。
そんなことを考え始めたところから。
朧屋は少しずつ形になっていきました。
◇
地獄で刑罰を終えたあとにも、その人の続きがあるように。
飯を食べたり。
酒を飲んだり。
くだらないことで喧嘩したり。
笑ったり。
昔のことを話したり。
何百年ぶりに、もう一度やりたかったことをやってみたり。
そして最後には。
次の生へ向かって、朧屋を出ていく。
地獄では「罪人」だった人たちを。
もう一度「人間」として書きたかったのだと思います。
気がつけば、それが100話になっていました。
◇
この作品を書くために、地獄についても随分調べました。
仏教について調べ。
経典について調べ。
自分では判断できないことがあれば、時には友人の僧侶へ相談することもあります。
もちろん『ジゴクアンプリファイア』は創作です。
仏教そのものをそのまま物語にしているわけではありません。
ですが。
元になった仏教に失礼のないものにしたい。
その範囲の中で。
もし、本当に地獄という場所が存在したら。
そこはどんな場所なのか。
どう裁かれ。
どんな刑罰を受けるのか。
できるだけ「物語の中の遠い世界」ではなく。
現実の延長線上にある、恐ろしい場所として描きたい。
そう思いながら書いています。
◇
そして。
この作品を始めた時から、ずっと願っている事があります。
私は何者でもありません。
まず無宗教です。
政治家でもなければ。
警察官でもありません。
裁判官でもありません。
誰かを捕まえることも。
誰かを裁くこともできない。
本当に、ちっぽけな一個人です。
ですが。
そんな私でも、物語を書くことはできます。
その物語を、誰かが読んでくれるかもしれない。
もし。
これから誰かを傷つけようとしている人が。
何かの犯罪に手を伸ばそうとしている人が。
この作品をどこかで思い出して。
「もしかしたら、本当に地獄に落ちるかもしれない」
そんなことを、ほんの少しでも考えて。
伸ばしかけた手を止めてくれたら。
一人でも。
二人でも。
止まってくれたら。
それだけでも。
この物語を書いた意味はあったと思っています。
◇
そして。
そうやって地獄ばかりを書いていた私が。
自分で地獄へ落とした人たちの、その後を書きたくなって始めた『朧屋』が。
今日で100話になりました。
罪を犯したことは消えない。
受けた刑罰も消えない。
過去も変えられない。
それでも。
刑罰を終えたあとまで、その人のすべてが終わるわけではない。
次へ向かうまでの間くらい。
飯を食べて。
笑って。
馬鹿なことをして。
もう一度、人間らしく過ごしてもいいじゃないか。
そんな場所として始まった朧屋です。
100話まで一緒に歩いてくださった皆様。
本当にありがとうございます。
まだしばらく。
朧屋の暖簾は掛かったままです。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
◇
ちなみに。
作者から、今後について一つだけネタバレを。
この遊郭に。
もう一軒、店が生まれます。
何の店なのか。
誰が始めるのか。
それは、まだ秘密です。
お楽しみに。