11月のサポーター限定SSです。
ドタバタ忙しくしておりまして、数日遅れてしまってすみません🙏
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冬のはじまり。
近頃、日中は日差しのおかげでまだ温かいのに、朝晩はだいぶ冷え込むようになってきた。
(ううう。さ、寒い……!)
朝目覚めた瞬間、顔や首を容赦なく冷たさが襲う。ぼくはまるで亀のように、毛布の中へ体を引っ込めた。でも、なかなかすぐには暖まらない。
ぼくは無意識に、ベッドのどこかに転がっているであろう、寝相の悪いリュカをもぞもぞと探す。すると、足先にほこほこの暖かさを見つけて、そっと抱き寄せた。
(はあ……。あったかい)
胸に抱く二歳児なリュカの体温が、少しずつぼくにも移ってくる。だけど、もっと手っ取り早く暖まりたくて、リュカの小さなお手々で、冷えたぼくの頬を挟み込んだ。
リュカの手のひらは、ちょっと汗でしっとりしているくらい、ほかほかで暖かい。恐るべし、子ども体温だ。いや、ぼくもまだ十二歳の子どもなのだけど、平熱が低いのか、手先足先が冷えて仕方なかった。
(起きて、暖炉に火を入れないと)
そう思いながらも、ぼくはしばらく毛布から抜け出せなかった。
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断腸の思いでやっとベッドから這い出たぼくは、毛布に包まりながら暖炉に火を入れ、少し暖まった頃に着替える。何枚重ね着をするのか、というくらい厚着だ。
というのも、火の入った暖炉付近は暖かいけれど、基本的に石造りの家は寒くて冷える。断熱材なんてものはないし、時折、隙間風が吹き荒んだ。油断して薄着でいたら、あっという間に風邪を引くのは目に見えている。
「リュカも暖かい格好をしようね〜」
「あ〜い」
トップスは肌着の上に、もこもこのセーターとベストを着せる。さらにおむつを替えるついでに、ボトムスは股引きと、羊毛で編まれた毛糸のタイツを履かせた。
タイツは足先からお腹までをすっぽりと包み、長い股上を折ると腹巻になる優れものだ。
「うわ〜、すごいふわふわだ」
「きゃあ〜」
ふつう羊毛はちくちくする。だけど、このタイツはとろけそうなほど柔らかい肌触りで、ぼくはついリュカの太ももを撫で回してしまった。
「さすが、ポリーヌさん。お願いして良かった」
ダミアン商会の女将であるポリーヌさんが、「とある希少な羊種の毛糸を買い付けたんだ」とこっそり耳打ちしてくれたのは、たしか夏だったはず。
身内価格に割引いてくれると言うので、毛糸を十数玉ほど買い、さらには加工も依頼して出来上がったのが、このタイツだ。
「リュカ、ちょっところ〜んしてね」
「こりょ〜ん」
ぼくは寝転がったリュカを仰向けからうつ伏せへと、ひっくり返す。すると、お尻にワンポイントで編まれたくまちゃんが「こんにちは」した。
毛糸の自然な黄みがかった白に、茶色のくまはとても目を惹く。
「くっ……! 可愛い……!」
あまりの可愛さに、ぼくは鼻を抑えて悶えた。
幼児体型のお腹や、おむつでぷっくりとした丸いお尻のフォルム、ちょこんとしたあんよの小ささ。もう何もかもが可愛い。圧倒的癒しすぎる。
「にっに」
四つん這いになったリュカは、にこにこと笑ってぼくを振り返る。ガニ股気味で、少し横に伸びたくまのマヌケさと言ったら。ぼくにとってはご褒美だ。
「リュカ、お尻にね、リュカの大好きなくまさんがいるんだよ〜」
「ぅましゃっ!」
ぱあっと顔を輝かせたリュカはよいしょと立ち上がり、自分のお尻を見ようとする。……のだけど、自分で自分のお尻を見ることはできない。
傍からすれば、リュカは後ろを振り向きながら、その場でよちよちと足踏みしているようにしか見えなかった。
「う?」
くまさん、みえないよ? どこ? とでも言うかのように、リュカはきょとんとした顔でぼくを見る。その顔がおもしろ可愛くて、ぼくは膝から崩れ落ちそうになった。
(ぼくの弟が可愛すぎて、つらい……)
毛糸のくまタイツを、作ってもらって本当に良かった。
ほかにも、洗い替え用にねこやうさぎのタイツもあるのだ。冬の間中、ずっとこんな可愛い姿を見られるのかと思うと、寒さも吹き飛ぶ。
(でも、この可愛いくまを、くま好きのリュカ本人が見れないのは可哀想……かな?)
ぼくはうーんと頭を悩ませて、一つ良いことを思いついた。
「ポリーヌさんに、ぼくのセーターもお願いすればいっか」
もうこの冬は間に合わないかもしれないけれど、また来年がある。
ぼくがくまのセーターを着れば、きっとリュカも「くましゃん!」と喜んでくれるだろう。
(兄弟でペアルックって、照れくさいけど)
どうせ外に出ることは少ない季節だ。構いはしない。
芯から凍えそうほど寒くて侘しい冬でも、工夫と気の持ちようで暖かく、そして楽しく過ごせるものだ。
「にっに、だっこー」
「おいで、リュカ」
手を伸ばしてきたリュカを、ぼくは抱き上げる。
(ほっかほかだ)
暖かくて柔らかくて可愛い、ぼくの小さな弟。暖かいは幸せだなあと、しみじみ思う。
何はなくとも、人間ホッカイロのリュカがいる限り、ぼくはずっと寒さ知らずでいられるのだ。