• 異世界ファンタジー
  • エッセイ・ノンフィクション

特別SS リュカの成長日記 ①

 ☆ 生後一ヶ月

 ぼくがお手洗いから戻ると、自作のベビーベッドで、リュカがうごうごと手足を動かしていた。
 どうやら、お昼寝から目覚めたらしい。
 ふんわり柔らかブランケットを掛けていたはずだけれど、蹴飛ばして、端に寄せてしまっていた。


「リュカ〜、おはよう」


 リュカは、自分の右手を口に入れて、よだれまみれにしている。


「っあ〜!」


 前世であれば「黒目が大きい」と言うのだろう。
 リュカはまんまるの青いお目々で、じっとぼくを見上げていた。


(ぼく、お兄ちゃんになったんだなあ)


 毎日、兄になった幸せを噛み締めている。
 本当に、なんでリュカは、こんなにかわいいんだろう?

 剥きたてたまごみたいにつやつやで、ぷにっぷになほっぺ。用意した産着や布おむつは、ぶかぶかだった。
 か細い手首や太ももに、ちっちゃな手足に生えた、爪の小さいこと!
 何もかもがかわいくて、飽きもせずに、ずっと見ていられた。


「あ〜っぁ〜っ」


 しばらく、ぼくがうっとりとおでこやほっぺを指の腹で撫でていると、リュカがしきりと声を上げた。
 必死に足もバタつかせて、「はやくだっこして!」と訴えているようだ。

 きっと、いまぼくの顔は、ゆるゆるに溶けていることだろう。


「はいは〜い。にいにが、だっこしてあげるからね〜」


 いそいそと自分に洗浄(クリーン)をかけ、左手でリュカの頭と首を支える。
 右手を、奥からリュカの背中の下に差し込み、お尻を支えるようにゆっくりと持ち上げた。


(ぜったいに、首がだらんってならないように……ゆっくり……)


 前屈みのまま、ベビーベッドの横に置いてある椅子に、腰掛ける。
 まだ十歳……もうすぐ十一歳のぼくは、力が足りなくて、立ったままだっこはできなかった。

 椅子に座ると、ちょうどぼくの腕の輪に、リュカのお尻がすっぽりとはまるよう、横抱きの姿勢を整える。
 はじめてだっこした時は、ふにゃんふにゃんなリュカに、ぼくはおっかなびっくりだった。


(毎日、何回もだっこしてるから、さすがにサマになってきたかなあ)


 だっこの仕方は、シッターのエミリーさんに教えてもらった。
 それだけじゃない。はじめて赤ちゃんのお世話をするぼくに、一から十を教えてくれた。
 きっとエミリーさんを雇っていなかったら、今頃ぼくは途方に暮れていたことだろう。

 昨夜も、夜通しリュカのお世話をしてくれたエミリーさんは、まだ眠っている。
 本当に感謝しかなかった。


「リュカ〜、にいにだよ〜。に・い・に」


 束の間の、兄弟二人きりの時間。
 まだまだリュカは話せないけれど、今からしっかりと「にいに」を刷り込むのだ。
 だって、リュカがはじめて話す言葉は、ぜったいに「にいに」であってほしい。


(うーん。『にいに』だと言いにくいかな?もっとシンプルに、『にー』の方がいい?)


 そんなくだらないことに悩みながら、ぼくはずっとリュカに話しかける。
 おなかが空いたリュカが「ミルクのみたい!」と泣きはじめるまで、ずっと。ずっと。


=====

3月分のサポーター様限定公開の特別SSでした。
こちらは、作者の趣味で、ただただほのぼのです(笑)

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する