王道かつボーイミーツガールの中編を目指して書いてますけど、需要はあるのかな?
これ……。
一話目を試しに公開。
うだるような夏休みの初日。もうすぐ大学受験を控える|理人《りひと》は自室でそわそわしていた。
そう、今日は待ちに待った新作メカカスタマイズアクションゲーム『アーマード・システム6』の発売日である。数カ月前から予約をしており、勉強なんかそっちのけで、いつ到着するのかと待ちわびていたのだ。
やがて訪れるインターホンの合図。理人は弾かれたように立ち上がった。
「きたか……!」
音を立てて階段を駆け下り、期待に胸を膨らませて玄関の扉を勢いよく開ける。しかし、そこにいたのは宅配業者の姿ではなかった。
「こちら、シュミットさんのお宅でよろしいでしょうか」
きちんとしたスーツを着た、見覚えのない若い女性。理人は内心で首を傾げた。
「ええ、そうですけど……」
女性の背後を見ると、道路には見上げるほどの大きなコンテナを積んだトラックが佇んでいた。
「えーっと……うちに何の用でしょうか?」
「あなたのお祖父様……シュミット博士からのお届け物です」
「何のことですか? 祖父は数年前に亡くなってますが」
その言葉に、女性は目を見開き後ろを振り向いた。そして、再び理人へと目線を向ける。
「もしかして、お祖父様やお父様から何も聞いておられないのですか?」
「あの……何のことか言っていただけないとわからないのですが」
女性は顎に指を置いて少しの間、俯いた。
「すみません。事情を話しますので、車の中に来ていただけませんか?」
「すみませんが、もういいですか? ちょっと、今は手が離せないので」
「ですが……」
その時、突如として鼓膜を震わせる駆動音が響き渡った。
「しまった……! 理人さん、あなたは今すぐ逃げてください!」
女性がコンテナに向かって走り出す。
遠くからは金属の擦れるような、嫌悪感を抱く騒音。理人がその方向を見ると、そこにはゲームやニュースでしか見たことのない巨大な人型の駆動兵器があった。身長は十数メートルはあるだろう。
イゴール……戦場に出ることも多い、メカ好きの間では有名な軍用機だ。
その茶色く薄汚れ、ガッシリとした機体が、少し離れた場所でゆっくりと立ち上がっていた。
背中には前からでもはみ出て見えるほどの巨大なバックパック。腰のホルダーには無骨なメイスをつけており、異様な雰囲気を醸し出していた。
「おいおい、嘘だろ……なんで、こんな住宅街に……」
理人はその場から動けずに、呆然と見上げていた。だが、彼が何もできなくても事態は進む。イゴールの外部スピーカーから、男性の声が大音量で流される。
『くくっ……お嬢さん、案内ありがとうよ。おかげで助かったぜぇ。そいつが正式なパイロットかい?』
男の声が響く……直後、トラックのコンテナが開いた。そこから出てきたのは、見たことがないはずなのに、どこか既視感を感じる青い装甲の駆動兵器だった。座った姿勢でコンテナに収まったその機体は、左腕に大きな盾を備え、洗練された西洋の騎士を思わせるシルエットをしていた。無骨なイゴールと並ぶと、いっそう細身で機敏そうに見えた。
『そのようなこと、あなたに教える必要はありません』
青い機体の外部スピーカーから、先ほどの女性の声が流れる。
『つれないねぇ……ちょっとくらいは話をしよう……ぜっ!』
「くそっ、何がどうなってんだよ!」
立ち上がろうとする青い駆動兵器に向かい、地響きをあげつつアスファルトを砕きながら走って近づくイゴール。それに理人は慌てて、その場から離れるように道路を駆け出した。
数十メートル離れて一息つくと、背後から聞こえる轟音。離れているのに感じる廃熱の熱気が頬を撫でる。振り返ると、青い駆動兵器が倒れ込んでいた。その巨体の下で、今まさに自分の家が押し潰されていく。
「まじかよ……」
両親が遺してくれた家の屋根がひしゃげ、ガラスが飛び散り、そこかしこで火花を散らしながら潰れていく。理人は全身から力が抜け、膝から崩れ落ちつつその光景を見るが、現実感が追いつかず何も頭に入ってこなかった。
『おいおい、こんなのを欲しがってんのかよ……まじで信じられねぇな』
周囲に飛び散る粉塵。恐怖心を押し殺して少しだけ近づき、家のほうを物陰から見てみる。崩れ落ちた家の上には、油圧シリンダーの駆動音と共に青い機体の胴体を踏みつける茶色い軍用の機体。青い機体は腕についた盾で必死に抵抗をしているが、無駄な抵抗と呼ぶに相応しかった。
重低音を鳴らしながら脚を盾で叩かれているが、微動だにしないイゴール。その上半身がゆっくり方向を変え、メインカメラが理人を捉える。
『おい、そこの坊っちゃん。あんたが正式なパイロットなんだろう? なら、ちょっとぐらいは俺を楽しませてはくれねぇかねぇ……じゃねえと殺す』
慌てて理人は周囲を見渡すが、他に人影は見当たらない。
『そうそう、そこの坊っちゃん……お前だよ。早くこっちに来な』
イゴールは指を理人に向け、くいくいと動かす。すでに理人に選択肢は存在していなかった。
逃げようとすれば容赦ないだろう。夏の暑い日差しとは関係ない汗が流れる。背筋は凍りつき、地面が消えたように感じられた。しかし……
「くそっ……やれっていうなら……やってやるさ!」
理人は震える手を思いっきり握りしめ、粉塵舞う中を青い機体へと駆け出した。