ノリノリでストーリーを書いていて、ほぼ完成稿となった後、
やはりちょっとこれは……となることありますよね。僕はあります。
そういう時は思い切って一から書き直したりするのですが、時々これを捨てるには惜しい、となるものがあるので、時々近況ノートでそういうものを公開していこうと思います。
書き直した正式のエピソードはこちら:
https://kakuyomu.jp/works/822139843118348215/episodes/822139845223568771
では没案。
今回の没理由:2/10の主人公がピエロ、記念日との接続が雑
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「私、すっごい勇気だしたんだよ?なのにあのニブチンがさあ……」
「はいはいお疲れさま。がんばったねえ、モエミ」
今日は建国記念の日。コロニーを挙げての祝日だ。
私はお気に入りのカフェに、ぶつくさ文句を垂れている友人とふたりで、早めの昼食に来ていた。
昨日は色々と大変だったが、今日の発電量は平常運転。食事も水も、もちろん電気も。私たちは文明の利器をありがたく享受している。
ありがとうね、電気。私は近くの電灯に、軽くウインクをした。
「でもさ、実際どうだったの?返事っぽいものは聞けたんでしょ?」
「うん……なんか相合傘がどうこう言ってた。知ってるよって答えたけど」
「相合傘?」
おお……あの地球人、なかなかのロマンチスト。
ただそれ、伝わってるのかなあ。変な勘違いに発展してなければいいけど。
「……モエミ、相合傘ってなんだか知ってる?」
少し探りを入れてみる。
「知ってるよお。場所とかのシェアでしょ?」
ああやっぱり!
うわー、やっぱり。伝わっているようで伝わっていない。
そうか、『今』は相合傘がそういう解釈になってるのね。ジェネレーションギャップだ。
どうしようかな。同じ地球生まれとして、モエミのあの人にはちょっとシンパシーも感じている。私の好みではないのだけれど。
私から『相合傘』の本当の意味をモエミに伝えてあげてもいいんだけど、なんかちょっと、あの人の勇気に水を差す気がするんだよな……。んー。
よーし。
保留で!
「まあ、とりあえずご飯食べよっか」
ごめんね同郷の士。今はキミのことより、ちょうどテーブルに運ばれてきたプレートの彩りのほうが、優先順位が上なのだ。
「いただきまーす」
手を合わせて、食事に取り掛かる。うわ、30分待って出てきたパエリアが、噂通りめちゃくちゃおいしい。さっきまで仏頂面だったモエミも、今は味覚を総動員して目の前のパスタと格闘している。うーん、そっちも食べたいな。
「モエミ、ちょっとパスタ分けてくれない?」
「やだー。追加で頼めばいいじゃない」
「そんなに食べられないって。」
「それにしてもさ、変な祝日だよね『建国記念の日』」
「ん?」
ふと湧いた私の疑問に、モエミは不思議そうな視線を返した。ほっぺにパスタソースが付いている。
「だって、このコロニー生活が始まった日だとか、そういうものでもないじゃない」
「考えたこともなかったなあ。そもそも『国』がよくわからないし」
「え?」
ちょっとびっくり。よくよく考えれば、確かにこの世界に『国』はない。
「国ってさ、区画みたいなもの?」
うーん……?
「そうしたら、向こうの管制区画は『外国』?」
いや、違うと思う。そういう風に問われると、私もよくわからなくなる。
国ってなんだ?
……私、ランチに来てなんでこんな高尚なこと考えているんだろう。
いや、そういえば話題を振ったのは私のほうか。
モエミもこれ以上この話を広げるつもりはないらしく、
「ねえ、そっちのパエリア、ちょっと私も食べたい」
なんて、かわいいことを言ってくる。
「いいよ。その代わり私にもちょっと、そのパスタシェアして」
「やーだー。こっちのお皿は私の領土」
そういうと思った。意外とケチなモエミなのだ。
と、あることに気が付いた。
「モエミ、『領土』はわかるの?」
「うん。陣地みたいな意味だよね」
「そう!それだよそれ。国は多分、同じ『領土』を持ってる人の集まりのことだ」
「おおお?」
モエミがちょっと食いついてきた。
「私の皿がパエリア国で、モエミの皿がパスタ国」
「ふむふむ」
「二つの国はそれぞれの領土で、平和に暮らしていたのです」
「なんか絵本みたいだ」
「しかしある時!腹を空かせたパエリア国が、パスタ国に攻め入った!」
モエミのパスタにフォークを伸ばす私。
「ああっ!」
「もぐもぐ。かくして哀れパスタ国は、パエリア国の領土になってしまったのであった……」
「パエリアひどい!」
「あはは、ごめんごめん。要は国って、こういうめんどくさいことも起こるものだったんだよ」
「うーん、あんまりいいものじゃなかったのかな、国」
「悪いことばかりじゃなかったよ。同じ国の中では仲間意識みたいなものもあったし。困ったときは助け合ったり、いろいろなものをシェアしたりさ」
そうやって広がっていった国もあるんだよ。そう、モエミの皿に私のパエリアを取り分けながら私は続けた。
「おお、相合傘だ」
「まあ……そうかな。そうかも」
モエミの突飛な発想に、しかし私は妙な納得をした。
『国』の一番小さい単位は、あるいは『人』なのではないか。
人は誰でも、小さな傘を差している。
誰にも侵されたくない自分の領土の境界線を、そうやって主張する。
時々は傘を奪われたり、壊されたりもするけれど。それでも寄り添いたいなと思った人と、一緒の傘に入るのだ。そして国は広がっていくのだろう。
人間とは小さな国である。なんてね。
そんなことをぼんやりと考えていたら、モエミを呼ぶ声が聞こえた。モエミと二人、声のほうを見やって、思わず吹き出してしまった。
モエミのあの人だ。ほとんど彼の身長と同じほどの、でっかい傘を持っている。絵面がもう、面白すぎる。
モエミの困惑が全身から吹き出している。正直、もう彼はやめておいた方が、とさえ思ったが、乗りかかった船である。
「いってきなよモエミ。お互いの領土をシェアしたいってさ、彼」
二月十一日は、建国記念の日。
けれど、今度はもうちょっとモエミに伝わりやすい方向でよろしくね。
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2/10の続編として書いてみていましたが、続き物は某月某日の空気が保てなくなるのでかみ合わないことが分かったのは収穫でした。
2/10のエピソードはこちら
https://kakuyomu.jp/works/822139843118348215/episodes/822139844989211729