なろうが投稿できない時の保険です。カクヨムから追ってる場合ネタバレになります。ごめんなさい。一応福野と合流してから→今日の掲載予定だった分までです。
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オキクボ神だ。
なお、外見は福野さんが絶対喜ばないイグアナ──狩りゲーに出てきそうなビジュアルをしている。全部のサイズがでかいのだ。足も立派だし、
「でかー……うわー……」
後ろでなんの感情もこもってない、棒読みに近い声が響く。この声はと振り返れば案の定福野さんだった。驚いていると、「怒ってますよ」と福野さんは私を見下ろしたのだった。
「単独行動。局長と真原さんに言います。ちゃんと言うって、言ってからいいますよ。裏でこそこそ、密告はしない。なので次、局長と真原さんに会ったら、言います。枯賀が、何を言っても、言います」
すごい誠実。
すごい誠実に、報告を事前に宣言されてる。
「そして、危ないことをするつもりなら、大声を出します」
怖い。
福野さんの大声は聞いたことない。
いや、ある。
大型のあやかしが出て、刀と一緒に無茶苦茶したときだ。
「……穢れがすごいな……あやかしみたいになってる」
ぼそ、と福野さんが呟く。
私は福野さんの返事の代わりに、おもむろに刀を鞘から抜いた。
オキクボ神には穢れが溜まっているらしい。
そしてこの刀は何でも吸う刀だ。吸って栄養にする。
なので食べてもらう。
最近、猫又と戦ったが、殺しきれてない。餌がないのだ。飢えてると思うし、オキクボ神の穢れをご飯にする。でも正直、この刀の仕組みが全く分からない。霊力吸うのも「吸わなきゃいけないから吸っていた」のか「色々むしゃくしゃしているので吸います」なのか。とりあえずご飯です。
「討伐するんですね、わかりました。援護します」
福野さんはオキクボ神を見据える。
討伐しない。
というか、討伐しちゃだめだし。部下が討伐しようとしたときこそ大声を出すべきでは⁉
驚くのもつかの間、「神様って、目くらまし効くかわからないですけどね」と福野さんは付け足す。
何?
神様だと理解したうえで殺そうとしてる?
とりあえず私はオキクボ神を見据える。霊力が無くても分かるくらい穢れていた。
おどろおどろしい赤紫の瘴気を纏う、世界の怖い絵画特集にありそうな狩りゲービジュアルオキクボ神だ。
こういう敵は、千年桜は恋と咲くで無限に出ていた。
千年桜は恋と咲く、心理描写が丁寧かつバトルに余念がない本作だが、ビジュアルはもうイケメンしか出てこない話である。
行動だけ見れば少年誌と時代劇だ。
心の機微やモノローグは、十代の読む青春小説から人生経験のある団塊世代も共感できる絶妙なラインを爆走しており、定期的に50代の男性読者が「少女漫画というタグですが、本当に若い女性は見るんですか……? イケメンさんがいっぱい出てきますが」という若干偏見で燃えそうなコメントを定期的に残し、「少女漫画が恋愛だけなら大違い」「胸キュンとかイケメンにちやほやされるだけの少女漫画」と少女漫画文化を否定しながらの反論が発生、定期的に火種にされ、私はそのたびにSNSを閉じ、公式の新情報を見失い世を呪い、拳を握りしめていたのだ。
そんな千年桜は恋と咲く、カバーだけなら女性向け、ほぼイケメンしか出ない。しかし敵の造形は、二文字くらいの漢字タイトルで構成された、本当に難しくてどうしようもないゲームの怖い敵の見た目だった。ファンブックの巻末には女性向けでは到底効かない『クリーチャー・アート』というコーナーがあった。
公式はあやかしをクリーチャーと認識して出していたのである。
だけどオキクボ神そのものは出てない。
どう考えてもクリーチャーの見た目してるのに。
そこから導き出される説がある。
本編でオキクボ神死んでる、消滅説。
だって千年桜は恋と咲くで、オキクボ神が穢れてます浄化しましょうねシナリオなんてない。
でも、お姉様は神の穢れを浄化できるただ一人の存在という設定があるのだ。
千年桜は恋と咲くの物語後半、帝まわりのシナリオパートに入り、暗天妖王の討伐を見越し始めたとき、「他の神」の浄化はする。
しかしそれは、シナリオでいえばずっと後の話である。千年桜は恋と咲くの本来のシナリオで、猫又あたりを殺した後だ。酒呑童子が暗天妖王のせいで死ぬ一つ前の巻あたりなので、相当後。
そして皇都の面々は、それよりずっと前に出る。
この穢れをもってして、その時期までオキクボ神が持つと思えない。
熾窪はオキクボ神を看取った状態で物語に登場した可能性がある。お姉様にメンタル整えてもらう場面はないし、あくまでお姉様の振る舞いに惚れていたけど、その裏で自分の家が奉る神がこんなになっていたとは。
あくまで仮定の話、真相はどうかわからない。
でも、水社パパのように周囲に相談しないのが、神を奉る家あるあるだとしたら。
そして最悪なことに「自分だけで抱えて解決しますペロペロ」には前例がある。
美浜の娘に対する、水社一心の対応だ。
あいつは美浜の娘の心を読み、殺人犯と知っていながら私に黙っていた。
とんでもないすっとこどっこいである。
神を奉る家はすっとこどっこいの可能性がある。
すっとこどっこいゴッドハウス。
「起きてるか起きてないかも分からないですね。元気さが無い。起きてるのかな」
福野さんはオキクボ神を見据え、「石投げたらばちあたりですし」と言いながら地面に視線を落とした。石あったら投げる気じゃん。生身の動物に対してなら、絶対に石なんて投げないだろうが、福野さんもしかして神様なら何をしてもいいと思っている……?
私は隣の福野さん、そして真正面のオキクボ神に警戒しつつ、オキクボ神に近づき、鞘でつつこうとした。その時──、
<下がれ、穢れに巻き込まれるぞ人間>
低い声でオキクボ神が話しかけてきた。
オキクボ神の声は、ミヤシロ様の声の高さと大きく違う。ミヤシロ様の声は中音域なのに威厳保とうとして低くしゃべったりするタイプだけど、オキクボ神は低い。
警察密着系のテレビ番組に出てくる容疑者ボイスに似ていた。
「起きてたんですね。こんにちは、はじめまして、福野と申します。こちらは枯賀です。喋れません。こんにちは」
福野さんは間髪入れず私の分まで挨拶をした。
<……立ち去れ>
「討伐しに来ました。苦しんで自殺するの、良くないですよ」
もしかして福野さんの討伐って、打つ手が無くて苦しむしかないのなら、一瞬で殺して苦しみから解き放とう──みたいな方向だった?
<無理だ。我を討伐など出来ぬ。立ち去れ。我は……ここで朽ちる>
「あー」
福野さんは何を考えてるか分からない返事をした。
傾聴かもしれないが、本当に分からない。真原さんなら気遣いの傾聴と思えるが、福野さんは本当に分からない。
<立ち去れ>
これ玄関のセールスの問答を見ている気分になってきた。
「じっとしていていただければ、すぐ終わりますよ」
<近づくなァアアア>
オキクボ神は雄叫びを上げ、次々と炎の渦を繰り出した。
こちらに迫ってくるが、加減がされていた。私たちを巻き込みたくない、撤退させるつもりの炎だとすぐにわかる。
だってあやかしなら、こんなものではないから。
炎の渦を避けていると、ちらりと福野さんがこちらを見る。私が大きく頷くと、福野さんは「合図したら目を閉じて、下を向いてください。出来れば、肘で顔を塞いで」と私に警告する。
私が頷くと、福野さんは「照準良し」とオキクボ神を狙い──、
「照射」
パチンと指を鳴らす。すぐに目を閉じ顔を隠せば、それでもわかるほど辺りが光に包まれた。福野さんのスポットライト異能だ。私はすぐさまオキクボ神に駆けだし、瘴気が噴き出ているオキクボ神の身体に目がけ、斬るのではなく刀身で瘴気をぶん殴るようにした。すると──、
二重鍔の、多分この刀本体の元からあった鍔が発光する。
そして鵺の部分からにょろにょろと細い手が伸び、瘴気をわしづかみにしては引き千切り、刀身にあてはじめた。
むさぼってる?
鵺が刀に食べさせてあげてるのか、鵺が食べてるのか分からない。
瘴気は刀身に吸われているが、歯も口も見えないのに、吸収ではなく食らいついているように見える。
空腹だったんだなと思うけど、もう少し、なんとかならない?
「こわ」
福野さんが刀を眺める。
この光景って福野さんも怯えるレベルなんだ。
「っていうか、あれ、なんでしょう」
刀が瘴気を食らうのを眺めていれば、瘴気が噴き出ていた根源らしき場所を福野さんが示す。そこにはぽっかりと穴が開いていた。
「すみません眩しくして、この穴なんですか」
福野さんがそれまでずっと黙っていたオキクボ神に声をかける。しかし返事はない。
「死んでるのかな」
福野さんが呟いた。
もはや縁起が悪いとかのレベルではない。
「ちょっと枯賀さん目、ずっと閉じててください、はやくはやく」
福野さんの言葉通り私は目を閉じた。すると、「照射」と福野さんはまた異能を発動させた。それを何度も繰り返す。カメラのフラッシュ激写みたいになってない?
「まだー……はい、枯賀、目開けてください」
<ウワアアアアアアアアア>
目を開けるとオキクボ神が顔を覆っていた。
刀がヒョイと私の手元に戻ってくる。
愕然としながら福野さんを見ると、福野さんは冷静に私を見返した。
「目に光当てて、人間だと絶対だめですけど、神様なら大丈夫だろうなって」
いいわけない。大丈夫じゃないもん。目の前のオキクボ神、瀕死だもん。下手したらさっきの瘴気まみれ穢れまみれの時より苦しんでる。
「元気になって良かった」
福野さんは安堵したようで、少し口角を上げた。
「さっき、じっとしてましたもんね」
そしてこちらに同意を求めてくる。
サイコパスだったりしない?
なんにでも、ちょっと度を越せばサイコパスって言う人間大嫌いだけど。
福野さん。
福野さん、サイコパスだったりしない?
<ギャアアアアアアア>
福野さんには見えてない?
オキクボ神の反応。
福野さんの元気の定義が全く分からない。
一定デシベルを越えると元気だと認識するってこと?
「この穴、どうしたんですか、怪我したんですか? 痛いですか?」
福野さんが問う。オキクボ神は<触れるな>と警告した。
<それは、過去の傷だ……弱ったところ、穢れが……>
「神様に傷って、なんでこんなことに」
<あやかしだ……かつて、邪悪なあやかしに……いや、あれは人……か? この世の最たる悪の……人間の男のような見た目をしていたが……紫の瘴気を纏い……>
「はぁ……じゃあなんか、石とかで埋めましょうか」
福野さんはオキクボ神の傷をじっと見る。
この世の最たる悪の何か。
絶対暗天妖王だと思う。だってあいつ以外に、イメージカラー紫の奴、いないし。
千年桜は恋と咲くの世界で紫がイメージカラーのキャラ出てきたら大問題だ。
それに「オキクボ神は暗天妖王に致命傷を与えられ殺された存在です」なんて設定はないけど、映画でもドラマでも小説でも、「尺の都合上カットしましたけど」という何かが存在する。設定だったり場面だったり。
熾窪と加寿のコンビはランキング通り、加寿のが目立っていたし、シナリオも加寿のほうが良く出ていた。熾窪のパートがカットされていた可能性は、そういう意味でも可能性がある。
「また、雑菌とか入ってきたら大変ですし。ご利益ある石……玉? 帝都にあるので。縁起いいらしいし、それなら使って良さそう、一回、借りたことあるんで、それ、埋めましょうか。なんか、霧島? って人が、電車の天井から生えてきたんで、頼めばいけそう」
待って。
福野さんが言ってる縁起がいい玉って、前に討伐の時に福野さんが持ちだして出勤停止食らった玄関に飾ってる玉では?
思わず福野さんの顔を見ると、彼は私を見ていた。
「枯賀さん知ってますよね、前に討伐の時に使った、あれ、良さそうじゃないですか」
再犯では。
福野さんは「このスペースにこの家具良くない?」みたいなインテリアの提案のようなノリで提案してくるが、再犯だ。
軍では、同じことを次やると、処分が一段階重くなる。
理由は再犯による反省なしととらえられるから。
同時にこいつはまたやるという根拠までできるからだ。
絶対だめだと思い、私はポケットから酒呑童子の石を取り出した。
もらい物だけど、これのほうが絶対縁起がいいし、酒呑童子が食用も考慮して拾ってきたなら、多分……パワーはあるはずだ。
私はオキクボ神の瘴気の穴──腕と称するべきか前足と称するべきか微妙な、関節の穴に酒呑童子の石を埋め込んだ。
すると、ぴかっと発光し、ミラーボールみたいに光り出した。
オキクボディスコ。
絶対に不敬だけど、思い浮かんだのがそれだった。
酒呑童子の石はスッとオキクボ神の身体に入っていき、傷の穴がふさがっていく。
そしてオキクボ神そのものが光り出した。
ディスコオキクボ。
「光ってますね」
福野さんがボンヤリ光るオキクボ様を眺める。刀が揺れてんなぁと思ったのもつかの間、鍔の鵺部分が細い手を伸ばして揺れていた。リズムに乗るなよ。
やがてオキクボ神の発光が止まる。先ほどまで「ドブから飛び出てきました」みたいな色をしていた身体は、神社の授与品にありそうなカラーリングに変わっていた。見た目もカードゲームのレアリティ高そうなイグアナ風ドラゴンだ。
「なにがあったんですか、色変わりましたけど」
福野さんがオキクボ神に直球で問いかけた。
私たちが色、変えた側では。
<穢れが……刀に吸われ……石が我に力を……この石はなんだ……⁉>
オキクボ神が戸惑っている。
どうしよう。
あやかしから貰った石ですなんて言えないけど。
福野さんがこちらを見ているので、私は一応、両方の人差し指を自分の頭にのせ、鬼のポーズをした。そして酒呑童子っぽい笑みを浮かべ、人に渡すポーズをしたあと、自分を指さし、受け取るポーズをした。
「帝都には納税の鬼がいるんですけど、納税の鬼から貰った石らしいです」
<納税の鬼?>
福野さんの言葉にオキクボ神がまた戸惑った。気持ちは分かる。納税の鬼ってなんか、税務署で脱税を許さない存在への呼称っぽいもん。まさか普通にあやかしとして過ごしていて、税の存在を知って勝手に納めなきゃと考えてる謎のあやかしへの呼称とは思わないもん。っていうか税務署の人間は本当にどう思ってるんだろう酒呑童子のこと。
「なんか、今まで未納で、働いて納めてるんです。大工とかやって、熊退治もしてるし、土砂崩れしないように工事の参加もしてるって話聞いたことあるんで、その時に見つけたんじゃないですかね」
<……さ、さようか、す、すまない、帝都の、そういうことを、知らない>
「あー、でも、俺も知らないので。皇都の税事情」
オキクボ神が戸惑ってる。
税事情に戸惑ってるわけじゃないし、税事情に詳しい神様もそれはそれでちょっと……。
「でもあやかしの石で元気になるんですね、神様」
<この石……あやかし特有の人を食らった穢れが無いが……本当にそれはあやかしなのか……? ただ、角が生えているだけでは……なにかの神……を見間違えて……>
オキクボ神が酒呑童子があやかしであるかを疑い始めた。
「人間は食べないみたいですよ」
<では、なにを食らうのだ>
「普段は石食べてるみたいなこと聞いた気が……枯賀があやかしの世界に攫われた時、食堂のご飯も食べてたので」
そんなことあったの?
私があやかしの世界に居たとき。
「で、どうです、元気になりました? 見たところ、もう穢れないですけど」
<あ、ああ……>
「じゃあ良かった……あ、駄目ですよ」
<え>
「穢れ溜めて死のうみたいな、真似しちゃう人とかいるし」
<……>
福野さんの指摘にオキクボ神は黙る。
「助けてって叫んだほうがいいです。さっきの咆哮みたいに」
<……>
「そしたら、誰か来ると思うし、来るまで叫べば、絶対に助けが来るんで」
それ勝つまでやれば勝率100みたいな話では。
福野さんの言葉に、オキクボ神は黙った。しかし、長い沈黙を経て、呟く。
<戦ったあやかしらしき男に言われたのだ。お前を助けようとする存在はないと。助けるばかりで、誰も来ない、惨めだと──と、100年ほど前の話だ。その時……受けた傷が、時が経てばたつほど、痛んでいた>
暗天妖王が、そんな言葉を。
奥歯を噛みしめ、手のひらに力を込めていれば、福野さんは「はぁ」と虚脱した返事をした。
「そういうこと、人間にもありますよ」
<そうなのか……?>
「はい。だから別に、オキクボ神が特別助けが来ないことは無いと思います。しかも、そんなこと言う相手のことなんか、心の中の山に埋めて、記憶から消したほうがいい」
<は、や、山……?>
「はい。思い出してると嫌な気持ちするだろうし、心の中で殺して山に埋めても、捕まらないですからね。普通に、再会したら、また心の中で殺して埋めればいい」
福野さんは丁寧に、オキクボ神の言葉に「はい」と返事をしてから、怖いことを言う。
「だから……心の中に、嫌な人間を置いておく必要ないです。好きなものとか置いたほうがいい」
<好きなもの?>
「はい」
<卿は……なんだ、好きなものは>
「かわいい、いのち」
<かわいい、いのち……>
オキクボ神は本気で戸惑っていた。「かわいい、いのち」ってどちらかといえばオキクボ神みたいな上位存在が発していれば別だけど、人間から発されると怖いものがある。
「はい」
しかし福野さんは堂々と返す。言葉で補足が出来たらなと思う。彼は小さい生き物が好きで、出来れば手足が短い生命体を好みます──と。もどかしい。
「あと、管理局、仕事は別に好きじゃないんですけど、、空間みたいなものは好きです。枯賀が来る前も好きでしたけど、枯賀が来てから、真原さんの負担とか減ったし」
そう言って福野さんはぐるりとこちらに振り向いた。
挙動がホラーだった。
でも、嬉しかった。
「オキクボ神はないんですか、好きなもの」
<に、人間……参拝に来てくれる……人間……>
「じゃあ、そういうこと考えればいいです。何か言ってきたあやかしは、今目の前にいないのなら、心の中で殺して埋めればいい。そうしたらもう、いません」
怖い。
怖いけど、もしかしたら、福野さんなりに怒っているのかもしれない。
誰かに、助けなんて来ないみたいな話を、すること。
「じゃあ、俺たち仕事あるので、失礼します」
福野さんは「帰りますよー」と私に退出を促し、途中で「ああ」とオキクボ神に振り返る。
「すいません。鍵壊しちゃったんで、ごめんなさい」
福野さんはぺこりと頭を下げた。私は慌ててオキクボ神に頭を下げる。
<それはよい、よくはないが、まぁよい>
「ありがとうございまーす」
福野さんは本当にサラッとした調子でオキクボ神に別れを告げ、部屋を後にする。「枯賀」と呼ばれ、私はオキクボ神に会釈してから彼の後を追った。
「真原さんといっしょ」
廊下を進んでいると福野さんが呟いた。
「あの人も結構単独行動するんですよね」
真原さんも?
「枯賀のお父さんが、山であやかしになったときあったじゃないですか」
桃太郎の導入みたい。
確かにあったけど。
「あの時、真原さん勝手に討伐に行ったんですよね。こういう時、富山さんが無茶苦茶をするからって言って。富山さんも変なことするんですけど……真原さんも変なことするから。
そういうのに、似てるなあと思って、女子の手洗いついていくのもなぁって、思ったんですけど、案の定でした」
ぼそっと、呟くような話し方だ。
福野さんはこちらを見ない。
「手洗い行くって言って単独行動は、やめてください。なんか、本当に手洗いだったとき、気まずいし、今度から手洗いの時は手洗いだけ行って、ちゃんと帰ってきてください」
福野さんの注意に、私は頷く。そして静かに頭を下げた。
「次からよろしくお願いしますね」
私は頷く。
次はもうしない。
「じゃあいいですよ。大きい声は出しません」
大きい声出す気だったの?
というか福野さんの言う「大きい声出す」ってなに?
驚いている間にも福野さんはスタスタ歩き続ける。
私は手元の刀を見た。鵺側の鍔がお腹をさするように鞘を撫でている。
お腹いっぱいらしい。
刀本体の鍔も、心なしか色がハッキリしている。
この刀に対しては定期的に栄養補給──あやかし討伐に参加したりとか、それこそ酒呑童子の言う石集めみたいなことをしたほうがいいかもしれない。霊力が籠った場所に行ったりとか。
お疲れ様の意味を込め、握りをぎゅっと掴み──足を止めた。
一瞬、千年桜は恋と咲くのアニメや映画でも聞いたこともないようなメロディが刀から発された気がした。
私は刀を見る。
刀は、光ってない。
「枯賀」
福野さんが私を呼ぶ。
一瞬、嫌な予想がよぎったが、気のせいだと思いながら福野さんの元に駆け出した。