本日、『浮世黒蝶みをつくし』七十一話を公開いたしました。
雪代過去編はこれで大きな区切りを迎えました。(厳密には、七十二話で閉幕となりますが、クライマックスは今回の話です)
氷雨と雪代という、本作の中核を担う二人の重要な回ということで、最初から展開を決めていたのだろうと思われるかもしれませんが、実は書く直前まで「雪代は既に亡くなっている」「氷雨と雪代が別れを告げる」という二点以外の部分が一切決まっていませんでした。書きながら模索していった部分が多いと思います。それでいて、最初から決まっていたかのようにピースがはまっていく部分もあり、不思議な巡り合わせを感じています。
氷雨と雪代の関係の決着については、かなり悩みました。想いを伝えるのか、伝えないのか、言葉を交わすのか、交わさないのか、交わすとしたら何を言うのか、二人が会うことでどのように心境が変化するのか。一つ一つが繊細な作業で、一つ間違ったらボタンを掛け違えたようになってしまう気がして、かなり気を遣いました。「氷雨が想いを押し殺して雪代を見送る」という、二人に対して大分不誠実な案もありました。しかし結局のところは「きちんと対話しなければならない」と思い、最終的に公開版の形になりました。
私の作品は、婉曲的な表現や言葉を比較的多く用いていると思います。それは、婉曲的な方がより多くのニュアンスを含めることができるからであり、個人的に婉曲表現が好きだからです。ただ、それでは芯を捉えた表現をするのが難しい時もあります。なんだかんだ言って、ストレートな言葉には力強さがあり、大勢の人の心を打つだけの重みがあるのだと思います。
今回の話は、どこまで婉曲にするか、どこまで比喩を用いるか、どこまで直接的にするかというのをかなり考えていました。ただ、私の葛藤とは裏腹に、氷雨も雪代も、まっすぐで、純度の高いストレートな言葉をお互いに向けて送り、そうして、想いを伝え合いました。私のせせこましい迷いなど、簡単に飛び越えていきました。映像が見えた瞬間、とても眩しいと感じたのを思い出します。執筆している時、何度か鼻の奥がつんとしました。
さようなら。
ありがとう。
いってらっしゃい。
きみのことを想っている。
というフレーズは、実にシンプルで直接的ですが、この二人の想いや関係の行き着いたところを表していると思います。そして、とても気に入っています。私一人では辿り着くことのできなかった、二人の言葉だと思います。二人がそれぞれを決断を出し、そしてその末に最上の別離を果たしてくれたこと。それはとても切なく、哀しいことかもしれないけれど、私は本当に良かったと思っています。嬉しいことです。ありがたいことです。小説を書いていて良かった。『浮世黒蝶みをつくし』という作品を書き続けて良かったと思います。
だからこそ、雪代との今生の別れの後、氷雨がどのように生きていくかは、私としても楽しみであり、しっかり向き合わなければならないことだと思っています。当初、雪代との別離は作品の最終盤に持ってくる予定でした。しかし書いているうちに、それはもっと早くに訪れるということに気づいてしまいました。本当に描くべきは、雪代との別れの後の氷雨であると感じたからです。ここからが本番です。私もどうなるかわかりません。まずは、七十二話を書き上げるところから始めたいと思います。
改めまして、お読みくださってありがとうございました。これからも何卒よろしくお願い申し上げます。