昔々あるところに、ゴミカスで有名なカーニスという男がいました。
カーニスは意地悪で、面倒くさがりで、ケチで、捻くれ者で、卑猥で、無職で、傲慢で、狡いという、もう誰にも手がつけられないくらいどうしようもないカスでした。
「オレひどく言われすぎじゃない?」
事実だから仕方がありません。
今日も仕事をサボり、近隣住民から食べ物を巻き上げていました。
「おらクソ陰キャ、今日もおにぎり寄越せや」
「またですか……!? 僕昨日も昼飯抜きだったんですけど……」
「知らねーよさっさとよこせ。あと焼きそばパンも買ってこい」
「拒否したら……?」
「お前の家から勝手に食べ物持ってく」
「政府はなにをしているんだ……! こんな犯罪者を野放しにするだなんて……」
無事おにぎりを3個カツアゲすることに成功したカーニスは、たまには外で食べようと思い立ち山へと向かいます。
体力だけはあるのでスイスイ頂上へと登っていくカーニス。小一時間かそこらで登頂を果たしてしまいました。
「ふいー、久しぶりに運動したわ。いい汗かいたなぁ」
爽やかな一幕に見えますがただただ無職が暇を潰しているだけです。
「んじゃ早速食べるとしますかね。あぐ…………うん、ふつーだな」
なんだか文句を垂れていますがカツアゲしたおにぎりです。
見事なカスっぷりを見せつけるカーニス。あっという間に2つ食べ終え、最後の1つに手を伸ばしました。
するとその時――。
「カァァァニスゥゥゥッ!」
怒れる乙女の声がどこからか聞こえてきます。
カーニスが後ろを振り返るとそこには――村の少女アルマが山姥のような形相で迫っていました。
草刈りを頼んでいたのですが、カーニスがサボっていたことに気がつきここまで追ってきたそうです。
「わり、忘れてたわ。ザイニックにでもやらせておいてくれ」
「アンタがやれやこの…………クソニートがぁ!!」
「あぶねぇ!?」
カーニスに迫るアルマの蹴り。頚椎を狙った鋭い蹴りです、完全に仕留めにかかっていますね。
カーニスはなんとか躱しましたが、おむすびに手が当たってしまい、そのまま麓に向かって転がっていってしまいました。
「ああ! オレのおむすび!」
「ザイニックのでしょうが! あいつもなに取られてんのよこの前注意したのに!」
可哀想なザイニック。しかし一瞬で2人の脳内から彼は排除され、追いかけっこが再開されました。
飛び交う蹴り、避ける無職、加速するおむすび。
三者三様の動きを見せますが、終止符は突然打たれました。
おむすびがたまたま空いていた竪穴に落ちてしまったのです。
「お、おむすびぃー!」
「死ねぇぇぇ!」
「ぐぼォア!?」
カーニスの脇腹にジャストミート! カーニスはたまらず蹲り痙攣を始めました。
ビクンッビクンッと気持ちの悪い動きを披露していると、なにやら竪穴から声が聞こえてきます。
『…………とん…………』
「? なにかしら、穴から音が……」
『…………お…………んとん…………』
「きこ、える…………これ、は…………川のおと……?」
「そのまま渡ってしまえ」
『おむすび ころりん こんころりん♪』
『ころりんころりん すっとんとん♪』
音は次第に大きくなっていき、中から聞こえてきたのが歌だということがわかりました。
子供のような可愛らしい歌声です。
「おむすびが嬉しかったのね。誰が歌ってるのかしら?」
「ちくしょう、オレのおむすび取りやがってぇ……!」
「アンタが先に取ってるでしょうが」
「おい! 誰だか知らねぇがオレのおむすび返しやがれ!」
どうしようもないクズっぷりです。皆さんはこうなってはいけませんよ。
カーニスが叫ぶと1度音がぴたりと鳴り止みます。
しばらくすると、今度は打って変わって野太い歌声が聞こえてきました。
『おむすび 落とさにゃ 天罰が♪』
『くだって 楽しい 車裂き♪』
『無職の 兄さん 血祭りだ♪』
「怖ぇよ!? なんだその歌!?」
「に、兄さんって言ってるからアンタのことよね!? さっさと行ってきなさいよ!?」
「オレが行く必要ねぇんだよおむすびだおむすび!? 早く寄越せ!」
「おむすびなんか持ってないわよバカ!?」
「使えねぇなこのアマ! おい、男より女の方がいいだろ!? 肉は無ぇけどこいつで我慢してくれ!?」
穴の歌にビビった2人は醜い押し付け合いを始めました。
が、最後の一言が悪かったようです。
全体重をかけて地雷を踏み抜いたカーニスの運命は、地獄行きを決定づけてしまいました。
「――誰が断崖絶壁だこのクソニートッ!!」
「事実だろう……ぎゃああああああ!?」
蹴り落とされたカーニスは、穴の中を真っ逆さま!
一寸先も見えない暗闇が続き、数10秒後、ようやく地面が見えてきました。
顔面から落下したカーニスですが、体だけは頑丈だったのでなんとか起き上がります。
「いてて……なんだここ?」
「――お前か? おむすびを落としたのは?」
カーニスが見上げると、そこにはメガネをかけた全身灰色タイツの男が立っていました。
「変態さんですか?」
「違うわ! これは由緒正しきネズミ族の衣装だ! 卑猥なものと一緒にするな!」
「あ、似てるとは思ってるんだ」
ネズミ族を名乗る男の背後には同じ格好をした人がひしめき合っており、大人子供問わずカーニスのことを見つめていました。
穴から聞こえてきたのは、残酷なネズミたちのテーゼだったようです。
カーニスが彼らを見つめていると――その中から一人、タイツの上に立派なマントを羽織った男が出てきました。
「「「クズマリス様!」」」
「「「王よ!!」」」
ネズミ族たちは一斉に跪き、男の名前らしきものを呼びます。どうやら彼は王様みたいです。
しばらく歓声が続き、次第に波が引いていきます。
そしてついに、クズマリスが口を開きました。
「――今日はええ獲物が入ったのぉ」
「オレ食糧!?」
「おむすびが無いんじゃ、お前が喰うしか無いじゃろ」
咄嗟に逃げようとしたカーニス、しかし出口はネズミたちに塞がれています。
一瞬の逡巡、その隙を突かれ、メガネネズミに捕まってしまいました。
「よぉやったタダシ、そのまま抑えときぃ」
「はっ!」
「はなせぇぇぇ!?」
ギラリと光る首切り包丁。
大きな獲物を前にしたネズミたちが、カーニスを取り囲むように集まります。
「そ、そうだ! オレの村に案内してやる! そこ行けば女も男も食糧もなんでもあるぞ!?」
「お前、よくゴミカスとかクズとか言われないか?」
「日常茶飯事です!」
「そんなやつの言葉信じるわけないじゃろ。それに――」
「――言われんでも行くっちゅーねん」
「えっ――?」
最後の言葉の真意を知る前に、すぽーん、とカーニスの首は刎ねられてしまいました。
ネズミたちは手早く彼の遺体を処理します。
「王よ、準備は整っております」
「ん」
「そんじゃ――侵略を始めるとするかのぉ」
カーニスが食べられた次の日、ネズミたちは人間界を侵略しにかかりました。
抵抗するものは殺し、降伏したものには灰色のタイツを着せていきます。
ネズミたちの強さを目の当たりにし、次第に降伏するものは増えていきました。
文字通りねずみ算式に増えていくネズミ軍団。暴力的に数は増え続け、2週間後には全世界の半分を占めるほどの勢力となっていました。
ネズミたちの侵略は続きます――人間たちを、地獄への穴に叩き落とすまで。