京劇は、18世紀末の清代中期に北京で形作られ、近代にかけて発展を遂げた中国伝統演劇です。
諸説ありますが、その起源は、1790年に乾隆帝の80歳の誕生祝いのために、安徽省から四大徽班と呼ばれる優秀な劇団が北京へ招かれたことが始まりと言われています。この安徽省の地方劇を基礎に、さらに湖北省の地方劇の音楽や、明代以降に洗練されていた昆曲の文学性、さらには北京の地域的な嗜好が融合し、1840年代の道光年間までに独自の演劇体系として確立されたとされています。
その後、清朝の宮廷(特に西太后など)からの手厚い庇護を受けたことで、庶民の娯楽から高度な芸術へと洗練されていきました。20世紀初頭には、梅蘭芳をはじめとする名優たちの活躍によって海外公演も行われるようになり、2010年にはユネスコの人類無形文化遺産の代表的な一覧表に登録され、世界的にも高い評価を受けています。
京劇の最大の特徴は、劇中のあらゆる要素が極限まで記号化・様式化されている点にあります。舞台上には具体的な大道具がほとんど置かれず、俳優の肉体表現によって時間や空間、状況を表現します。その演技の根幹をなすのが四功五法と呼ばれる技術体系です。四功とは、俳優が身につけるべき4つの基本技術を指します。
・唱(しょう)
音楽の規則に従って歌うこと。感情の深まりを表現します。
・念(ねん)
音楽的な抑揚や調子を持たせて台詞を語ること。
・做(さく)
様式化された身振りや、パントマイム的な所作で状況を表現すること。
・打(だ)
中国武術を基礎とした、曲芸的な立ち回りや戦闘の場面。これに、目・手・体・歩法などの具体的な表現技術である五法が組み合わさることで、緻密な舞台芸術が成立しています。
京劇では、登場人物がその年齢・性別・性格・社会的地位によって厳格に類型化されており、これを行当と呼びます。主な役柄は以下の4つに大別されます。
・生(せい)
主役級の男性役。若者=小生、老人=老生、武術を専門とする役=武生などに細分化されます。
・旦(たん)
女性役。気品のある既婚女性=青衣、活発な若い女性=花旦、武芸に秀でた女性=武旦などがあります。歴史的には男性の女形=男旦が技術の発展を大きく牽引しました。
・浄(じょう)
豪傑、武将、神仏、あるいは悪党など、強烈な個性を持つ男性役。顔面に施される臉譜(れんぷ)と呼ばれる色鮮やかな隈取が特徴で、配色によってその人物の忠誠心や狡猾さといった性格を観客に一目で伝えます。
・丑(ちゅう)
道化役。鼻の周りを白く塗る化粧が特徴で、滑稽な言動で舞台を和ませるほか、社会風刺の役割も担います。
京劇の音楽体系は板腔体(はんこうたい)と呼ばれます。これは完全に作曲された楽曲を歌うのではなく、あらかじめ用意された基本の旋律を、歌詞の文字数や表現したい感情の拍子に合わせて変奏していく独自の方式です。
京劇の音楽は、大きくは2つの旋律に分かれています。
・西皮(せいひ)
拍子が比較的速く、軽快で高揚した感情や、怒り、決意などを表現するのに適した旋律。
・二黄(におう)
拍子がゆったりとしており、重厚で深く、悲しみや抒情的な感情、厳粛な場面を表現するのに適した旋律。
伴奏を担う楽団は文武場と呼ばれ、京胡などの弦楽器を中心とした歌唱伴奏と、板鼓や鑼(どら)などの打楽器を中心とした動作・戦闘の伴奏が、指揮者の合図のもとで息を合わせて演奏されます。
余談
なかなか上達しない墨画ですが、そのうち小説の表紙か挿絵にしたいと考えています。既に公開済の作品含め、三国志シリーズの中に、四君子のそれぞれをイメージして執筆した物語がありまして、そちらに添えたいのです。上手く描けたらと言っていたら永遠に計画倒れとなってしまいそうですから、今年中か来年初旬くらいには描き上げられたら嬉しいですね。
とはいえ、まずはナルセス編の執筆に注力したいと思います。またしばらく近況ノートの更新はお休みします。
※写真はカーテンコール時に許可されたものです。