主人公は、恐怖を感じると物を数える。戦国の公家が筆一本で大名と渡り合う話を、18万字書いて完結させました。今日はその「数える」という設定の話を。
そもそもの動機は技術的なものでした。恐怖を書くのが難しい。「怖かった」と書くと嘘になるし、震えただの汗が出ただのは手垢がつきすぎている。それで、恐怖に反応して必ず起動する行動を一つ持たせることにしました。何を数えるか、どこまで数えられたかで、読者が勝手に恐怖の量を測ってくれる。作者は測らない。
ただ、書き進めるうちに気づいたことがあります。数える男は、記録する男と同じ器官を使っている。
この物語で主人公が武器にするのは、父が遺した日記です。誰が、いつ、何をいくら出したか。それを掘り起こして先例に変え、大名や朝廷を縛っていく。つまり「勘定」がそのまま政治の道具になる話なんですが、その勘定の癖は、もともと彼が怖くて震えていた場所から生えている。彼の強さと弱さが、一本の同じ根から出ている。
これは設計したというより、書いているうちにそうなりました。癖を先に置いて、あとから物語がそれを回収しにきた、という順序です。
この癖には、一度だけ効かなくなる瞬間があります。それを書くために最初に置いたのかもしれない、と今は思います。
『書かねば、残らぬ』全84話・完結済です。
https://kakuyomu.jp/works/2912051605488318680