さて、大陸を統一した王は中央国家のルードルフ一世ですが、彼が大陸の覇者となるのに欠かせない人物がいます。
そう、みなさんご存知の常勝将軍エルトリート大公ヴェルリッドです。彼は王兄でありながら王位継承権を放棄し、類い稀な武勇により英雄として祖国を大陸統一へと導いたと言われています。
そのドラマチックな人生は時に歌劇となり、時に物語となり、現代にも広く伝わっています。
大陸統一の立役者でありながら、その晩年の記録がほとんどないことも人々の想像を掻き立てる一因でもありましょう。
現代に残るさまざまな逸話、伝説、まことに多様で人間の成せる業とは思えぬほどです。お若い方はこういうのは、チートキャラというんでしょ? 現在でもたくさんのゲーム、マンガ、小説、ドラマと引っ張りだこの英雄ですね。
皆さんもご存知の物語は後年に脚色されたものが殆どだろうと思われてきました。歴史研究では複数の人間の活躍が習合しているのでないかと言う見方もあります。
ところが、近年この研究を覆す発見がありました。ニュースにもなったので知ってる方もいるかもしれませんね。
そう、旧王都教会の補修工事によって発見された大陸王ルードルフ一世の聖職者時代の日記です。
若くして母を失った彼は教会に身を寄せることで自分の身を守ったというのがそれまでの定説でしたが、彼の日記はその定説を覆し、また、エルトリート大公の伝説の裏付けとなりました。
万力のような人並外れた力、大地を割る剣技、百の兵で万の兵を引かせる知略。当時聖職者であったルードルフ一世本人の自筆によって証明されたのです。
そして、この発見により大いに脚光を浴びることになった人物がいます。
そう、ナダルニア侯爵エドアルドです。
彼の名は常にエルトリート大公と共にありました。物語では大公の信奉者、腰巾着、道化師、狂言回し的なポジションで描かれることが多いですね。
彼の歴史的な評価というのは、それまではエルトリート大公の逸話を集めた「エルトリート大公拾遺譚」の語り手であったという点でしたが、あまりに壮大な表現に大公の信奉者である彼が大いに脚色したのだろうというのが我々の見識でした。しかし、これもまた真実なのではという新たな疑義が生まれました。
さらに、ナダルニア侯爵自身もその歴史上の立ち位置が大きく変わりました。
彼が単なる腰巾着などではなく、ルードルフ一世の聖職者時代を支え、エルトリート大公の腹心として大陸統一に乗り出した中心人物の1人でもあったことを日記は教えてくれました。
最近の歴史小説ではナダルニア侯爵を主役にしたものもありましたね。
歴史監修をさせていただきましたが、作家さんの想像とは素晴らしいものです。エルトリート大公とナダルニア侯爵が大陸統一後に新大陸を目指すというラストは夢があって私は好きですね。あ、ネタバレ、すみません。いや、みんな知ってるでしょ? 去年歴史ドラマになってたやつです。
まあ、ともかく、このように歴史とはそれまでの定説がある日突然ひっくり返ることもあります。我々がいくら頭を捻って考えようとも、一片の紙に書かれた誰かの言葉でそれまで考えていたことはただの妄想になります。
ですが、それこそが歴史の面白さでもあります。
ナダルニア侯爵のように語られてこなかった時代の立役者を見出した時、我々は新たな歴史を未来に繋げることが出来たということです。
ぜひ皆さんも、この授業でその楽しさを知っていただければと思います。
国立中央大学 人文学科大陸史専攻
ラダン・トイスト教授の講義より