エドアルドくんは教会の面談室に入るなり幼馴染くんに正座させられて叱られた。
俺が何をしたというんだ、天使のように美しい俺を正座させて可哀想だと思わないのか? 足痺れちゃうだろ????
「お前ね、確かにここでは話せないのは分かるけど、もう少し常識的な動きをしてくれないかな? 予想外すぎて対応に困るんだよ、こっちは」
腕を組んでプンプン怒る幼馴染くんなんて怖くないのでエドアルドくんは口を尖らせて不貞腐れた。
「なんもしてないのに怒られてる。理不尽」
「してるだろ!」
やだー、この聖職者こわーい、とかわい子ぶっても幼馴染くんは許してくれない。
これが莫大な献金を教会のクソだぬきどもにして会いにきた友人に対する態度だろうか、全くもって遺憾の意。
「ちゃんと話せ。今日、扉の外にいるのは修道士二年目で孤児院にいた頃から私が見てた子だよ。ご老人の耳ではないよ」
今日はね、と幼馴染くんが自嘲気味に笑うのでエドアルドくんは行儀悪く鼻を鳴らした。
だいぶ緩んだとはいえまだ監視の目がある境遇にご不満だ。
足を引き摺る走れもしない幼馴染くんがこんな昼間から逃走できるわけでもあるまいに。
「ほんとにわからんー。俺、何かした?」
エドアルドくんは両手をあげて降参する。
「これに覚えがないとでも?」
上質な羊皮紙を目の前に出される。近すぎて見えんわ。
ぶつくさ言いながら受け取って眺める。
「何これ、え、マジで何これ……」
読み進めるうちに真顔になる。え、教皇猊下直筆の、教皇庁認定、え? 何の? 絵本?
その様子を見て幼馴染くんは目を丸くする。
「お前、もしかして何も知らなかったの?」
「知らんし、いや、マジで知らんよ」
何でこうなってんの? と呆然として幼馴染くんを正座のまま見上げる。
「私が知るわけないだろ、お前、何したのさ?」
そんなエドアルドくんに心底呆れたばかりに幼馴染くんはため息をついて額に手を当てた。
「何もしとらんわい! ただ教国にある工房に製本と装丁二冊頼んで、一冊はうちに、もう一冊はその工房のパトロンの息子に贈っただけだわい!」
濡れ衣だわ! と足を崩して横座りのまま嘘泣きをするエドアルドくん。
「お前が何もしてないならそのパトロンだろうね、誰なの、それ?」
嘘泣きを無視されてエドアルドくんは唇を尖らせた。
「うちのー、寄子の子爵家でー」
ダラダラ喋るエドアルドくんに幼馴染くんは眉根を寄せた。やべ、マジで怒る五秒前だわ、と長年の勘で察したエドアルドくんは居住いを正した。
「息子は、教国の大聖堂の司教付き修道士でっす!」
「やっぱりお前じゃないか!!!!」
「ち、違うもん、何もしてないもん! どうしろとか言ってないし! ただお任せしただけだし!」
ゲンコツで頭殴られた。信じれらない! この完璧な天使の美貌の頭が歪んじゃったらどうしてくれるのよ! エドアルドくんは頭を抱えて呻いた。
「そもそも! 何で! 贈ったんだよ!」
「孤児院とかに寄贈してくれたら絶対ウケると思ったんだよお。お前の原稿良かったから可愛い絵柄入れれば絶対子供ウケするし。そんで教国で流行れば、こっちでも孤児院とかに寄贈して、ジジイどもに難癖つけられたら教皇様のお膝元で流行ってんですよー、知らないんですかー、ぷーくすくすってやろうと思ってえ」
頭を抱えて床の上で涙目のまま言い訳するエドアルドくん。こう見えて、この国の侯爵閣下である。
ただ絵本チートがやりたかっただけなんだよお、と訳のわからないことを言っていうてるがまごうことなく侯爵である。幼馴染くんはこいつ本当に昔っからこのチートってやつ好きだな、と思った。意味は知らんけど。
「お前ねえ、侯爵家のご令嬢に贈るような本を孤児院に持っていける訳ないだろ? 受け取った修道士だって何も言わずに渡されたら献上品だって思うに決まってるじゃないか」
ぽかん、と口を開けた間抜け顔が幼馴染くんを見上げた。
あー、ヤダヤダ、間抜けヅラでも鑑賞に耐える顔だよ、と内心でうんざりしながら幼馴染くんは思った。
「え、でも、オーロにはちゃんと一冊は教会にって伝えてあったし、あ、でも、オーロだもんな、忖度して質素になんか作んねえな……。思う存分好き勝手にそれぞれ意匠凝らして二冊作るな、うん……」
遠くを眺めなて呟きながらエドアルドくんは納得した。しちゃった。
「ごめん、俺だわ」
てへぺろ、と小首を傾げて言うので幼馴染くんはもう一回ぶん殴った。
顔はやめて! 奥さんが俺の顔好きなの! 俺はどうなってもいいけど奥さんのためにやめて! とふざけたことを言って顔を庇うのでこめかみがぐりぐりされた。
しばらくして解放されたエドアルドくんは目にいっぱいの涙を溜めてうるうるさせながら呟いた。
「つうかさ、いくら主教付きとはいえ一般修道士よ? まさか教皇様のところまでお届けするとか思わないじゃん? 何なの? あいつがチートか???」
ぶつぶつと愚痴るエドアルドくんを眺めながら、頑張っただろうに文句を言われる教国の修道士を少し哀れに思う幼馴染くんであった。