水無月の長雨がしとしとと本所の五平長屋の軒先を濡らす夜、あっしは一人、静かにこれまでの物語を振り返っておりやした。皆さんに支えられてここまで歩んでこれたこと、胸の奥がじんわりと熱くなるようでございます。
まずは第十六話のことでございまさぁ。
『師走の松に結ぶ、縄の情― 黒江町の雪吊り、政三の義理 ―』。
あの寒風吹きすさぶ黒江町で、寡黙な政三が一生懸命に手を動かし、見事な職人の技で松の枝に雪吊りの縄を結んでくれた情景が、今でも鮮やかによみがえりやす。あの縄の一本一本には、身投げから救ったあっしたちへの、政三なりの言葉にならない熱い義理と感謝が込められていたのでございますねぇ。
続く第十七話は、
『青畳に薫る、深川の煤払い ― 師走の仕舞屋、舞扇の冬支度 ―』。
年の瀬の風物詩、あの賑やかな煤払いの日のことでございます。新しき仕舞屋や古巣の舞扇で、おさとやおちか、若い妓たちと埃まみれになって畳を叩き、一年の垢をきれいに洗い流したあの清々しさ。新調した青畳のい草の香りが部屋いっぱいに満ちたとき、あぁ、これでまた新しい冬をみんなで迎える準備ができたんだと、心からホッとしたのを覚えておりやす。
そして第十八話では、ちょいと艶っぽい夜の匂いがいたしやした。
『伽羅の残り香、師走の月に遊ぶ ― 茅場町の香炉、深川の夜に溶ける情 ―』。
茅場町のお座敷で焚かれた、あのどこまでも深く、高貴な伽羅の香炉の煙。冷たい師走の月が夜空にぽっかりと浮かぶなか、その残り香を身に纏って深川の夜道を歩いていると、江戸の冷たい闇さえも、人の情によって温かく溶けていくような、不思議な心地よさに包まれたものでございます。
年が明けて第十九話、
『睦月の虹、深川に咲く家族の情』。
新しい年を迎えた清々しい睦月の空に、ふわりと架かった美しい虹。あのおさと、政三、そしておちかという、一度は海辺橋で消えかけた命が、今では本物の家族以上の固い絆で結ばれ、あっしのすぐ隣で笑い合っている……。あの虹の七色は、まさに深川の町に大輪となって咲き誇った、美しい家族の情そのものでございました。
そして第二十話、
『舞扇の初稽古、黒塀に響く撥音』。
芸者としての仕事始め、あのキリリと引き締まった初稽古のひと幕でございます。黒塀の路地に、ベンベンと小気味よく、そして力強く響き渡る三味線の撥の音。あの音を聞いたとき、凛花も花梨も、そしてあっしも、芸者としての粋といなせな矜持をあらためて胸に刻み込み、この江戸の町でしゃんと生きていくんだと、深く肚を定めたのでございます。
こうして五つの噺を振り返ってみりゃあ、どれもこれも、あっしたちが皆さんの情けに生かされてきた、かけがえのない足跡ばかりでござんすぇ。