愛読者の皆様へ
「十ヶ月だけ江戸を騒がせた謎の絵師・写楽。その虚実を縫いながら、連続殺人と絡めて描き出された本作は、まさに”江戸の呼吸”が立ちのぼる一冊でした。
蔦屋重三郎を取り巻く歌麿・北斎・馬琴らの筆名の影に、欲と業と哀しみが交錯する描写には、物語世界の深さと歴史への敬意が息づいており、まるで市井の声までも聞こえてくるようです。
とりわけ、浮多郎と写楽との間に漂う”未熟さ”と”謎めいた導き”の対比は、ミステリーの推進力であると同時に、読み手には、”江戸とは何か!”表現とは何か”を問いかける文学的仕掛けのように感じました。
藤様が描く江戸の街は、まさに生きており、風と匂いをともなって読者の脳裏に残ります。その筆致には、歴史小説としての確かさと、ミステリー作家としての構築力とが同居しており、まさに”粋な筆”だと感じております」
上記に引用させていただきましたように、拙作「写楽な恋―寛政捕物夜話―」を的確に批評し、「昭和100年史」の企画に賛同し執筆をお誘いただいた出版社がありました。
・・・お誘いはまことにありがたいのですが、どうにも参加させていただくことはできそうにありません。
3月來の大病の治療がようやく道半ばを迎えたところで、難病を併発して長期入院し、ようやく今月初めに自宅療養に切り替わって家にもどったばかりです。
久しぶりにパソコンを開くと、カクヨム
https://kakuyomu.jpに終盤を連載中だった「チャタレイ夫人倶楽部~餓狼荒野に死す・第二部~」の完結を求める声が多く寄せられ、また入院中に、同じカクヨムで写楽が活躍をはじめて10ヶ月で役者絵の世界から消えるさまを描いて完結した「東洲斎写楽の誕生~寛政捕物夜話19~」「にせ写楽枕絵奇譚~寛政捕物夜話20~」「写楽の終わり~政捕物夜話21~」の連作短編の続編で、蔦屋重三郎と十辺舎一九と東洲斎の3人の確執を書いてみたいと思うようになりました。
他に以前から構想中の会津藩始末を描くモックメンタリー時代小説「美登利殺人事件~おくに捕物控~」(仮題)や「桶川ストーカー殺人事件」に着想を得たミステリー「罠にはまった高校教師」(仮題)などが目白押しで、主人公たちがじぶんを早く世に出してくれと日夜声を上げています。
命と健康に限りがあるので、本日を余生のはじまりとし、順次書き続けていくつもりです。
これからもご声援のほどよろしくお願いいたします。
2025年10月
藤英二