• 異世界ファンタジー
  • 現代ドラマ

文学フリマ東京

11月東京文フリ、G-45にてブースをいただきました。
新刊のホストに貢ぐ男性の話を出せたら出したいです。

冒頭を載せておきます。



「翔くん、今月もNo.1だったね」
僕はウキウキして推しのホスト、翔くんに話し掛ける。
「これも拓也さんのおかげだよ」
なんてハスキーボイスで囁かれると、なるほど、世の女性が彼に恋焦がれて大金を支払うわけだと納得させられる。
「翔くんは僕の理想だよ」
「拓也さんってばそればっか」
小さく笑いながらお酒を飲む姿も格好いい。
そうだ。
僕は翔くんみたいになりたいんだ。
僕が翔くんにハマったきっかけは、数年前、仕事で大きな失敗をして当時の上司に散々詰られ、死ねとまで言われたある日。
僕はそんな自分が嫌で変わりたい、なんとかしたいと自分がしそうにもないことをしようと考えた。
それがホスト遊び。
翔くんのいる店に来たのは数軒目のことだった。
まだお店に入りたての翔くんを一目見た時、ああ、僕がなりたいのは彼なんだって直感した。
翔くんは、男の僕がお店に来て指名しても嫌な顔ひとつせずに僕の話を聞いてくれる。
それが仕事だって分かっているけれど、それが僕の救いだった。
お酒を入れる所作も、心遣いも、話し方も、顔も、なにもかもが僕の理想。
そんな翔くんに傾倒していくのは、時間の問題だった。

「佐藤さん、またミスしてるよ」
「すみません、課長」
他の人にミスをなすりつけられても気にせず自分で直して再提出する。
それがいいことか悪いことか分からないけれど、翔くんならスマートに問題を解決するだろうなって思ってそうした。
「佐藤さん、すみません。私のミスなのに課長から言われてしまって」
「気にしないで。次からは気を付けてくれればいいから。それに、こんなのなんでもないよ」
そんなやりとりが続いていたら、彼女は僕に好意を持っていた。
僕は戸惑った。
なにせ、女心どころか男心を掴み取る翔くんはリア恋勢には少し厳しい態度をとる。
ホストに貢がせすぎないためだ。
その真摯さが売れて余計に女の子達は貢ぐんだけど。
……話が脱線した。
実は、僕は異性から告白されたことはない。
どうしようか悩んで翔くんに相談した。
翔くんはとても喜んでくれた。
「いいじゃない、拓也さん。その子と付き合っちゃえば。いい子なんでしょう?」
「でも……」
女の子と付き合えば、翔くんに会うのを嫌悪されるかもしれない。
僕はそれが怖かった。
「翔くんは僕が女の子と付き合っても平気なの?」
違う。これじゃ翔くんにリア恋しているみたいじゃないか。
翔くんは笑って言った。
「だって、拓也さんはそんなんじゃないでしょ」
そんなんってなんだ。
僕は翔くんみたいになりたくて、こんなに大金を貢いでいるんだけど。
だめだ。こんな束縛した考えは。
翔くんならそんなことしない。
翔くんなら……。
「うん、そうだね。前向きに考えてみるよ」
なんて言いながら彼女からの告白を断った。
翔くんには悩んでいる間に彼女が心変わりして振られたと言った。
翔くんに初めて嘘をついた。
「そっか、それは残念だったね」
僕の代わりに悲しんでくれる翔くん。
ごめんね、全部嘘なんだ。
「その代わりにさ、今日は俺が奢るよ。一杯だけね」
「ええ!?いいの?」
ホストがお客にそんなことしていいんだろうか?
「拓也さん、いつもたくさんお金使ってくれるから。他の子には内緒ね」
しぃっと指を口に当てて内緒のポーズをする翔くん。
そんなところも可愛い。
僕が真似してもこれはだめだな。
即座に脳が否定する。
翔くんになるのは難しい。
僕が僕である前に、僕が翔くんになるために。
そのために何が出来るのか。
「乾杯」
注がれたシャンパン越しに翔くんを見て、僕はまた決意を固めた。

それからは精力的に仕事をして、副業も始めた。
なにせ、ホスト通いにはお金がかかる。
これまでの貯金も底をつきそうな勢いだ。
でも、それを翔くんのせいにしたくない。
翔くんは僕に夢を見せてくれる。
甘美な夢。
「それが仕事だから」
そう翔くんは笑って言う。
でも、翔くんは最近僕が来るとやんわり注意するようになった。
「拓也さん、最近寝てる?隈が酷いよ」
「大丈夫だよ、翔くん。心配してくれてありがとう」
にこりと笑えただろうか?
本業、副業、ホスト通い。
正直忙しい。
でも、翔くんのためでもあり、僕のためだ。
何も惜しくはない。
翔くんの長い指が僕の目の下を撫でる。
「そんなこと言って、ちゃんと寝なよね。心配するじゃん」
必要以上にお客と接しない翔くんが触れてくれるのは、同性だからだろう。
それがたまらなく嬉しくて、何故か切なかった。
きっと翔くんは僕にそんな感情を抱かない。
だって、ホストとお客だもん。
全部は営業……違う。翔くんはそんなことしない。
翔くんを大切に思う気持ちと、なんで分かってくれないんだと駄々をこねる気持ち。
相反する感情で板挟みになる。

そんな中、僕のホスト通いが本業の会社で噂になった。
どこからバレたんだろう?
「男が男に貢ぐだなんて気持ち悪い」
そんな声も聞こえた。
放っておいてくれ。
これは、僕が僕でなくなるための儀式。
僕が翔くんになるために必要なことなんだ。
そして今夜も翔くんに会いに行く。
「こんばんは、翔くん」
「こんばんは、拓也さん。……なんだか浮かない顔をしているけれど、大丈夫?」
翔くんにはなんでもお見通しみたいだ。
「大丈夫だよ、翔くん」
……翔くんは仕事だから僕にも優しく接してくれるけれど、これが友人または恋人だったらどうするんだろう?
そんなしょうもないことを考えながら僕はカクテルをちびちび飲む。
翔くんの本当の顔が知りたい。
もっと翔くんに近づくために、必要なことに思えた。
だから、探偵事務所に相談した。
「このお店のホスト、翔くんについて知りたいんですが」
僕がそう言うと、探偵は少し微妙な顔をした。
人の機微にそもそも疎い僕にはその表情を見ながら、探偵が何を考えているのか分からなかった。
でも、調査は引き受けてくれた。
まずは二週間。
その結果次第で調査を続行するか決めるとのことだった。

結果として、翔くんに同性の恋人がいて同棲していることが分かった。
すとんと何かが腑に落ちた感覚がした。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する