猫と魔法のプロンプト・ライフの続きの更新は1,2日ほど休みます。
そのお詫びってわけでもないですが、SSです。
シェリーとリコの画像生成してみたので、Arc2 第14話の掘り下げです。
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猫パンを炙って、お土産を渡して、ひとしきり騒いだ後。
蔦の屋根の下のティータイムは、まだ続いていた。シェリーの鞄には猫とポーション瓶の木彫り。リコの鞄には猫と布の木彫り。どちらも蔦の紐が金具に揺れている。
二杯目のハーブティーを淹れた。赤子猫が竈の火加減をちょいちょいと整える。手慣れたものだ。
「——ねえ、猫パンの話に戻るんだけど」
シェリーが半分に割った猫パンの断面を、まだ見つめていた。黄子猫と水色子猫が膝の上に並んでいる。
「……気泡が均一。この生地、発酵の管理が相当きちんとしてる」
「シェリー、食レポじゃなくて分析してるよね」
「すみません。癖で」
シェリーが照れくさそうに笑ってから、真面目な顔に戻った。
「パンって、前の生地を少し残して次の生地に混ぜることでふくらませるでしょう? 種継ぎの回数や寝かせる時間で出来が変わるんですけど、この気泡の均一さは種継ぎだけじゃ説明がつかない。何か別のことをしてますよね」
「種継ぎか。うん、母さんもやってた」
——前世では市販のイーストを買えば済んだから、こっちに来たときは知らなかった。母さんにパンのコツを教えるやり取りの中で、逆に母さんから種継ぎのことを教わった。こっちではパンを焼く人の常識らしい。母さんに教えたのは温度管理と寝かせる時間のコツだけで、パンの基本は母さんがもともと持っていた技術だ。そこに前世の知識を足したら、こうなった。——ただ、レシピは聞いてない。母さんがどこまで発展させたのかは、正直わからない。
「作り方は知らないんだよね。パンは母さんの領域だから」
「おかあさんはつよいのです」
ミルがテーブルの上にちょこんと座って、しみじみ頷いた。白子猫がミルの隣にぴったり寄り添って、毛先をぱちぱちさせている。ミルの尻尾と白子猫の尻尾が重なって、静電気がぱちっと散った。
「にゃっ」
「しろちゃん、びりびりなのです」
◇
リコがノートを開いた。畑の記録をつけていたノートの端に、スケッチらしきものが見える。子猫たちの寝姿が何匹も描かれていた。——留守の間、ずいぶん楽しんでいたらしい。
「留守の間、二人でリンリンさん何してるんだろうって話してたんです」
「畑の水やりしながら、実家で何食べてるんだろうとか、ミルちゃん元気かなとか」
「……心配かけたね」
「心配っていうか、気になって。ね、シェリー」
「はい。リコと毎日一回はリンリンの話をしてました」
毎日一回。律儀だ。
「ねえ、お父さんの工房ってどんなところだったの?」
「木工の工房。道具がずらっと壁に並んでて、天井の梁をモカが歩いてた」
「モカ?」
「実家の猫。茶トラのメス。ミルと一緒に暮らしてた」
「ミルちゃんと! 似てる子?」
「タビーだから縞模様は似てるっちゃ似てるけど、モカは茶トラだから色が全然違う」
「モカちゃんはなかよしなのです。毛づくろいしてあげたり、一緒にひなたぼっこしたり」
ミルが嬉しそうに尻尾を揺らした。
「で、モカが四匹産んでて。チャイとラテはうちで、残りの二匹はお隣と向かいの家に引き取ってもらったんだって」
「四匹! ——ねえ、お相手は?」
リコが目を輝かせた。
「お相手?」
「モカちゃんのお相手。お父さん猫。誰なの?」
「……わからない」
「わからないの!?」
「お母さんに聞いたら、モカは放し飼いだから、街にいるどこかの猫でしょ、って。あっさりしたもんだった」
シェリーが首を傾げた。
「チャイとラテの毛色から推測できません?」
「チャイは濃い焦げ茶で、ラテはクリーム色に薄い茶の模様。タビーっぽいんだけど——モカもタビーだから、そこから父親の柄を絞るのは難しい」
シェリーが少し考え込んだ。
「……クリーム色。ラテの地の色がクリーム色なんですよね?」
「うん。モカは茶トラだから、クリームはモカからじゃない。父親側の色かも」
シェリーの目がミルに向いた。クリームマッカレルタビー。クリーム色の地に淡い縞模様。——ラテの「クリーム色に薄い茶の模様」と、重なる。
シェリーがちらっとリンを見た。
「……リンリン」
「ん?」
「ラテの毛色、クリーム色なんですよね」
「うん」
「ミルちゃんも、クリーム色ですよね」
「…………」
リンの顔がかっと赤くなった。
「ちょ——いやいやいやいや。ないない。ないよ。ミルだよ? うちの猫だよ?」
「私は何も言ってないですけど」
「言おうとしたでしょ!? ミルとモカはそういうのじゃないから! いつも一緒にいたけど——いつも私と一緒にいたし——ミルはそんな——」
しどろもどろになっている。リコが目を丸くした。
「え、なんの話?」
「なんでもない!」
「ミルちゃん、モカちゃんのお相手に心当たりない?」
「ないのです。モカちゃんはモカちゃんで楽しくやってたのです。ミルはりんりんと遊ぶのに忙しかったから、モカちゃんが誰と仲良くしてたかは知らないのです」
「ほら。ミルも知らないって言ってるし。——シェリー、変なこと考えないで」
「はい。変なことは考えてないです」
シェリーが涼しい顔でお茶をすすった。
「でも、ラテがミルに懐いたのはちょっと面白かった。初対面なのに、ミルの匂いを嗅いだら尻尾がゆるんだの」
「モカちゃんの匂いがミルについてるのがわかったのです。だから安心したのです」
シェリーがカップの陰でほんの少しだけ笑った。
「猫の信頼って、匂いでつながるんですね……」
リコがうっとりした顔でメモを取っている。
「結局、お父さん猫は謎のまま?」
「謎のまま。通りを歩いてた猫に何匹か目は合ったけど、どの子がそうかはわからなかった」
「ミステリーなのです!」
ミルがぴーんと尻尾を立てた。謎を楽しんでいる。——一番の当事者かもしれないのに、本猫にその自覚はない。
「ミステリーっていうか……普通に街の猫でしょ。お母さんもそう言ってたし」
リンはまだ少し頬が赤い。さっきのシェリーの指摘を振り払うように、早口で言った。
「でも、街全体で猫が増えてるの。お母さんがモカを飼い始めてから、通りに猫が増えて、屋根の上にもいて。モカの子が二匹よその家にもらわれたのもあるだろうけど、もともと猫に優しい街なんだろうね」
「いい街なのです。猫がいっぱいいる街は、いい街なのです」
◇
蔦の屋根の上で、黒子猫と赤子猫が並んで丸くなっている。二匹の定位置。畑全体を見渡せる場所で、薄目を開けてこちらを見ていた。
「くろちゃんとあかちゃん、ずっとあそこにいたの?」
「留守中もずっとあそこだったみたいですよ。たまに降りてきて畑の外周を歩いて、またすぐ戻るんです」
シェリーが屋根を見上げて笑った。
「あかちゃんは火を使う機会がなくて、ちょっと退屈そうでした。でも竈の火だけはあかちゃんがずっとやってくれてたんです。お茶を淹れるたびに、嬉しそうに火をつけて」
「あかちゃんはドカーンしたかったのです。でもドカーンするものがなかったのです」
「平和が一番だよ」
赤子猫が屋根の上で尻尾をぱたんと振った。やっぱり少し不満そうだ。
灰子猫がテーブルの端で、畑の地図から顔を上げた。六匹の子猫を一匹ずつ見回す。全員の無事を確認する、リーダーの日課。それが終わると、灰子猫はまた静かに地図に目を戻した。
風が蔦の屋根を揺らした。木漏れ日がテーブルの上で揺れる。二杯目のお茶が、そろそろなくなる。日が傾いてきた。
「——そろそろ片付けようか」
カップを洗って、竈の火を落として。ぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふ。七匹がミルに戻っていく。三人で畑を後にした。
街の通りに夕日が差していた。角で別れるとき、シェリーとリコが手を振った。
「また明日!」
肩の上のミルが、ゆっくりと大きく尻尾を振った。
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Arc2 22話できっかり終われそうにない。
SSとしていくつか、近況ノートに書けばよいんだろうか。
もしくは、22話に拘らなくてもいいかもしれないですが。
って、今気づいたけど、挿絵、子猫が6匹しかいない。指示したつもりだったんだけど。みどりちゃん、ごめん。
