概要
本作は、平将門の乱を
英雄譚でも、反逆史観でも、怨霊譚でも描かない。
描かれるのは、
東国という「裁定が届かない土地」で起きた一連の出来事と、
それがどのように意味づけられ、処理されていったかである。
将門は最初から反乱者ではない。
しかし、最後には「反逆」として終わる。
その過程を、章ごとに異なる視点から追う。
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構成あらすじ
第1章|裁定の届かぬ土地
東国では、国司の裁定が機能していない。
横領や既得権の侵害は、特別な悪ではなく、日常の延長として起きている。
平将門は秩序を語らない。
感情も正義も語らず、ただ現場で「止める」役を担っている。
この時点で、朝廷の判断は描かれない。
それは、存在しないも同然だからである。
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第2章|力による相続
平国香の側から見た東国の論理が描かれる。
裁定は来ない。だから所領は力で守る。
将門は調整役を越えた存在として危険視される。
武力行使は暴走ではなく、合理的な選択として行われる。
ここで起きているのは国家反逆ではなく、私闘である。
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第3章|名が走る
平貞盛の視点から、
私怨と政治言語が混ざり合う瞬間が描かれる。
「新皇」という言葉は、
将門の宣言ではなく、噂や報告として広がっていく。
言葉が先に走り、
行動の意味が書き換えられていく過程が示される。
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第4章|判断されなかった者
朝廷側の視点から、
なぜ裁定が行われなかったのかが描かれる。
将門は前例を作れない存在であり、
処理不能として扱われる。
坂東は軽視され、
藤原秀郷は英雄ではなく「使いやすい存在」として選ばれる。
ここで「新皇」という語が、
象徴と面子の問題として一線を越える。
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第5章|討たれるまで
戦闘は最小限に描かれる。
語られるのは、配置、人数、進行、結果のみ。
勝敗は物語の頂点ではない。
「討伐が完了した」という事実だけが残される。
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第6章|残されたもの
滝夜叉姫の語りによって、
死後に残された違和感が描かれる。
首は晒され、やがて東国へ戻る。
神格化や怨霊化は断定されず、
そう扱われるようになった過程として示される。
父としての将門は語られない。
語られるのは、事件の処理と、その歪みだけである。
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本作について
本作は、
感情移入や勧善懲悪を目的としない。
出来事がどのように意味づけられ、
どの段階で「物語」に変質していったのかを描く試みである。